第26話:冒険者の仲間入り
「スキルを貰えなかっただと?!」
興味本位でドリード村の住民が足を運ぶようになったため、疎らだが席が埋まり始めた宿屋『アルミラージの集会所』。
カウンターの前に立つトールが頬を膨らませながら、暇ができたガルシャに話し掛ける。
「教会に設置されている青い水晶玉に触ると付与されるスキルが表示されるんだけど、何度やっても『エラー』だか何だかでスキルが表示されないんだよ。聖職者たちも「こんなことは初めてだ」とか言って首を傾げてたぜ」
「俺たち全員でやってみたけど全員同じ結果。カミサマパワーが邪魔しているのかねえ?」
隣に立つロキも物憂げに口を開いた。
「僕は光の神だし、ロキくんは雷の神。光属性のスキルや風属性のスキルが付与されて然りだと思ったんだけどね?」
ヘイムダルが聖なる角笛を磨きながら意見を合わせる。
「でもよ、テュールやヴィーザルはどうなんだ?あいつらはお前らと違って光とか雷みたいな神性がねぇんだろ?」
テュールは軍神でヴィーザルは怪力を持った英雄だ。農耕の神としての力を持つトールと比べれば聖なる力は低いと思うのだが、
「少なからずカミサマパワーを持つからか、それとも神だからかは分からないけど、二人も例外なくダメだね」
ヘイムダルは肩を竦める。
「じゃあ、お前らはその依頼を受けられないってことか?エリカは【マジックマスター】とかいう強力なスキルを持っているみたいだけど、いくら何でもエリカ一人でダンジョンに行かせるっていうのは少し不安だな」
「いいや」
カウンターに肘を置きながらトールは不愛想に話す。
「いるぜ?エリカと一緒にダンジョンに潜れるやつが、一人だけな」
☆★☆★☆
「はわわわわわっっ!!!」
空中に表示されたステータスを見ながら、セレンは驚きの声を挙げる。
だってあれである。
目の前に表示されているのは紛れもなくステータスである。
冒険者自身の状態異常や装備の補助効果などを表示するためのウインドウが浮かび上がり、目の前に数字の羅列が並ぶ。
「良かったねセレン!スキル貰えたじゃん!!」
スキルを手に入れることができた。
ということは、晴れて冒険者の仲間入りである。
金髪の女神と一緒に冒険できることを絵理華が素直に喜んでいると、
「全然良くありませんよお!!!」
目尻に涙を浮かべながら柳眉を逆立てる。
「北欧神話群の皆様がスキルを持てないのに、わたしはスキルを持てるということは、わたしは女神じゃなくたったってことですよ?!!カミサマパワーを没収された時点で何となく察してはいましたが、わたし、普通の女の子になったしまったってことですか?!」
綺麗な緑色の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「ゼロスト様は罰だと言っていましたが、本当はそれを理由にわたしを天界から追放したかったに違いありません」
「ねえセレン」
肩の上に手を置きながら、優しく話し掛ける。
「今の生活って楽しい?」
何処までも続く草原の中を歩き回り、くたくたになって『アルミラージの集会所』に辿り着いた一日目の夜。
あの時、同じベッドに入ったセレンにされたものと全く同じ質問を口に出す。
「それとも楽しくない?」
「…………楽しいです」
「ならいいじゃん」
優しく微笑む。
「今のところは天界に帰るヒントは何もないんだしさ、今やれることを一個ずつでもいいから一緒にやっていこうよ。そうすれば、天界に帰る方法も見つかるかもしれないよ?」
「それはそうかもしれません。ですが……」
肩を震わせながら拳を握る。
「やっぱり悔しいです。ミスをしただけで天界から追放されて、しかも女神の座も剥奪されてしまうなんて……。天界はわたしを必要としていないってことですか?天界にはわたしの居場所はないってことですか……?」
「だったらさ、見返してやればいいんだよ!」
肩から手を離すと震える拳を両手で優しく包み込む。
「どういう仕組みになっているかは分からないけど、天界のゼロスト様が私たちの頑張りをカミサマTVで観ている可能性だってあるんでしょ?なら、見せてやればいいじゃん。凡ミスをしちゃっただけで、本当のわたしはこんなに優秀なんだぞ、ゼロスト様から託った絵理華の世話役だってちゃんとできているんだぞ、っていうのをね」
「絵理華さん……」
「そのためには、」
ぎぎぎぎぎぎ――、
握った拳を少し強めに握る。
「まずは「めんどくさい」とか「嫌」とか、消極的な発言をなくしてほしいなー。私の世話役をゼロスト様から任されている以上、そこはちゃんとしてよね?」
「痛いです絵理華さん痛いです絵理華さん痛゛い゛で゛す゛絵゛理゛華゛さ゛ん゛!!!」
目尻に涙を浮かべながら空を見上げる。
青い空の上を白い雲が移動し、太陽が眩しいくらいに輝く。ラグナロクを終えた今では何処か懐かしく、異世界に来た時と同じ天気、同じ空模様だった。
☆★☆★☆
とにもかくにもセレンがスキルを手に入れたので、教会で道を教えてもらってギルド案内所へと足を運ぶ。
「私とセレンをギルド案内所の名簿に登録してほしいんですが」
「それでは、こちらの『スキャン』に魔証石を触れてください」
受け付け嬢が言うとおりにカウンターの上に置かれた青い半円状の石に、自分が持っている魔証石を触れさせる。
「エリカ…………、さんとセレンさんですね?」
女性が一瞬言葉を詰まらせながら刮目したのは、絵理華が並外れたステータスを持っていたからだろう。表情を営業スマイルに戻す。
「こちらでの登録が完了しました。早速ですが依頼に挑戦しますか?」
「その依頼っていうのは、どうやって受ければいいんでしょうか?」
「あちらにギルド掲示板がありますよね?あそこに依頼の内容が書かれた紙が掲載されていますので、自分が受けたい依頼を剥がしてこちらへ持ってきてください」
数歩歩いた後に掲示板に到達する。
『迷子のペットを探して』と言ったモンスター討伐とは全く関係のなさそうな低ランクの依頼から、『ドウズ期に入ったレッドドラゴンの偵察』のような危険が伴う依頼、『オーク討滅作戦』のような戦いをメインとした依頼など、様々な種類の依頼の詳細が紙に書かれ、鋲で留められて掲示されている。
「どれにしましょうか?」
「モンスターの仲間を増やせるような依頼がいいなあ」
依頼の難易度はステータスのランク分けと同等のC・B・A・S・SS・LSランクの六つの階級が存在し、当然だが依頼の難易度が高ければ高いほど報酬も豪華になっていく。
できることなら高いランクの依頼を受けたいのだが、
注意:ギルド案内所では冒険者様の命をお守りすることを第一に考えているため、冒険者様のユーザーランクと同じランクの依頼に挑戦したい場合、同ランクの冒険者様4~5人程度でギルドを結成するか、パーティを組んだ状態でないと受け付けません。
また、やむを得ず単騎で依頼に挑むことになった場合、その冒険者様の2~3ランク下の依頼しかご案内しておりません。
という注意書きを発見する。
「えと……、セレンがCランクで実質頭数に入れないとして、私が単騎で依頼を受けるとすると……?」
「絵理華さんはLSランクなので、その2~3ランク下となると、AランクかSランクの依頼しか受けられないことになりますね」
「……選択肢狭くない?」
「選択肢を広げるためにも、仲間探しに奔走した方がいいのかもしれません」
資金稼ぎ、新しいモンスター探し、同じくらいのランクを持つ仲間探し。
やらなければならないことが目白押しだ。
Aランクの『スロザード山脈グリフォン討滅作戦』と書かれた紙を剥がすと受け付けへと足を運ぶ。
※今後の更新スケジュール
・8月31日……第31話投稿
・9月1日……休載
・9月2日~……第32話以降の話を投稿
と、なります!
何か深い理由があるわけではなく、単純に、2日→第32話投稿、10日→第40話投稿と言った風に、末尾の数字が合っていた方が管理しやすいよねー、という個人的な都合でございます!!よしなに!!