第25話:ガオバーロの街へ
「なかなかに腹の立つ男だったね。男爵風情が偉く出たものだ」
面倒なことが嫌いなのか、店の奥にある従業員控室(のような部屋)から出てきたヘイムダルが悪態を吐く。
「ああいうのは気に入らないね。危なく飛び出してきてぶっ飛ばすところだったよ」
「まあでも、あの男爵が言ったことは何も間違っちゃいねーぜ」
テーブルでずっと様子を窺っていたトールが口を挟む。
「モンスターの数を増やすのと、内装を変えろ、か」
「飼育する数を増やすと言っても、その分の餌代を増やさなきゃいけないわけだし、どちらもお金が入用だね」
隣でべったりくっつくロキも同様の意見を述べる。
「となると、動物園が盛況になるまでは課題を先延ばしにするしかないんですかね?」
「あるじゃねぇか。冒険者が当たり前のようにやっている、至極簡単な稼ぎ方がさ」
「??何です?」
「お前、ほんっとこの世界については疎いよな?そんなんで本当にエリカの補佐が務まるのかよ?オレ様やヘイムダルが、その座を取っちまうぞ!少しは考えてみろ!!」
「うーんと……、冒険者たちが日々やっていることという、と…………」
首を傾けてしばし考えると、頭上に電球が灯る。
「分っかりました!!追放です!!」
「……ミョルニルでぺしゃんこにしてやろうか?」
「冗談です冗談!!依頼のことですね?!!」
そそくさと絵理華を盾にして背後に隠れる。
「依頼?」
「モンスターの討伐やダンジョンの攻略をすることです!難易度に応じて豪華な報酬や装備の素材などがもらえたりするんですよー!!主に都市部でギルド案内所が一括で管理していて、そこでいつでも受けることができます!!」
ゴロド王国で言うのであれば、首都ガオバーロに行けば受けられる依頼があるということか。
「依頼の内容には、どんなものがあるの?」
「未踏のダンジョンの散策などいろいろなものがありますが、最も一般的なのはモンスターの討伐ですかね」
「えっ?それだとモンスターを倒さないといけないよね?」
「【テイム・神】を持っている旨をギルド案内所に伝えれば了承してもらえるのではないでしょうか?そこら辺の事情は行ってみないと分かりませんが」
モンスターの種類を増やすことができて、さらにお金を稼ぐことができる。
一挙両得の得策が、こんな簡単に見つかるとは。
「それなら動物園の大々的な開園は少し先延ばしにして、依頼を何件かクリアして資金を稼ぐのとモンスターや動物を増やすのを優先しようか」
「内装を変えるためのお金も稼げますし、その方が良さそうですね。……と言っても、」
宿屋のエントランスに集まった神々の顔を一人ずつ見る。
「北欧神話群の皆さんは冒険者じゃないからスキルを持っていませんよね……?依頼を受けるためにはギルド案内所への登録が必須条件となりますから、絵理華さんとは同行できませんね」
「その冒険者になるにはどうしたらいいんだ?」
厨房からガルシャが話し掛ける。
「都市部にある教会に行って儀式を行う必要があるんですが、わたしや皆さんは、この世界の住民じゃありませんからね。スキルが授与されるかどうか怪しいところがあるんですよ」
「ふん。何を迷っているんだい?」
ヘイムダルが髪の調子を整えながら口を開く。
「そんなものはやってみないと分からないではないか。まずはその教会に行ってスキルを入手できるかどうか確かめに行けばいいだけの話で、ダメだったらそこから考えればいいだろう?ほら、トール。さっさとガオバーロまで『ワープ』で飛べ」
☆★☆★☆
「ふと疑問に思ったんだけどさ、魔法やスキルって、この魔証石がないと使えないんだよね?」
「そうですね」
「なら、どうしてトールは魔証石がないのに『ワープ』が使えるの?」
「それはトールさんが雷と農耕を司る神様だからですよー」
アジ=ダハーカを監視する役目を天界から任されている以上、この場を離れられないという理由で宿に残ったガルシャを除く、北欧神話出身の屈強な男五人と10代後半くらいの見た目をした金髪の女神を侍らせながら、絵理華はガオバーロの街を歩く。
「この世界では火・水・土・風・光・闇の六つの属性に分かれているのですが、雷などの自然現象を六属性に分けると分類は風属性になるんです」
「でもそれじゃあ魔法が使える理由にはならないよね?」
「……わたしとの一番大きな違いを挙げるとしたら、トールさんたちはカミサマパワーが使えることですよ。カミサマパワーを使えば、自身の神性と近い属性の魔法なら自由に使えるんじゃないですかね?」
「……なんかゴメン」
何だかそっぽを向いて苦笑いしはじめたので、これ以上の詮索は止めることにする。
ゴロド王国は農業大国で、他国との農作物を用いた貿易を中心に発達した国だ。
そのため、首都ガオバーロの近郊には畑や果樹園が一面に広がり、その景色は城の周辺まで及んでいる。
――なんていう鄙びた風景を想像していたのだが、想像とは少し違った。三階建てくらいの高さがある石造りの高層建築が左右に並び立つ大通りを教会に向かって進んでいく。
「農業大国っていうくらいだから、簡素な家とか青空市的なのがあるかと思ったけど、そういうわけでもないんだね……」
「都市部と言えば高層建築ですからね。むしろ、大きな建物がない都市の方が珍しいくらいです」
中世においての地税は、その土地に住んでいる住民たちの割り勘で支払われる。同じ土地に多くの住民が住んでいればいるほど一人が支払う金額が少なくなるため、地税の高い都市部では高層建築が一般的となる。
「ふむ。相変わらず優雅とは言えない街だ」
轍の跡が付いた赤土の大地を踏みながらヘルムダイが文句を言う。
予算や人力の問題かは定かではないが、村一面の地面は凸凹とした土となっており、あまり丁寧に整備されているとは言えない印象だ。雨が降ったら一瞬で泥濘んでしまうだろう。
「着いたぜ」
ガオバーロを旅したことがあるというトールとロキの先導のもと街の中を歩いていくと、入り口の脇に松明を掲げた建物が出現した。16歳になった少年少女たちを成人として迎えるために儀式をし、スキルを授かることができる教会だ。
余談だが、村に入る際の通行税の徴収や王城への不法侵入を防ぐため、街の中への直接的な『ワープ』の移動は原則禁止されており、特に王城の城壁や外壁には『ワープ』や一部の魔法の効果を阻害する特殊な鉱石が埋め込まれているのだという。
「ここでスキルとやらを手に入れられるのだな?このテュール、スキルを手に入れてさらに貢献してみせましょうぞ!」
「光の神である僕がもっと強くなっちゃうなんてね。君たちは用無しになっちゃうかもよ?」
「ほほう?このオレ様に勝てるってのか?アザラシになったロキとは互角だった癖に?」
「な゛っ?!!あっ、あれはロキが戦いたいと言っていたから合わせただけで、僕は不本意だったのだよ?!」
「……ここで与太話をするのも邪魔だ。……先を急ごうではないか」
さすが、神々が集う宴会にて、唯一ロキから悪口を言われなかった男。神たちの言い争いにも動じず冷静沈着である。
――かのように見えたが、兜の下にある顔は浮足立ってにやけているようだった。スキルを授かることによってパワーアップし、更なる武勲を立てたいという下心が見て取れる。
どういう風にスキルを授与するのか気になったので、絵理華とセレンも男たちと一緒に教会の中へと歩みを進めた。




