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第21話:宣伝広告

 モンスターを紹介する看板を作った要領で、宣伝文句を『スピーチ』で録音し、『サイキック=エクスプレッション』で念じた映像を映し出せば広告が作れるのでは?という発想からセレンにモンスターの紹介看板を作らせるついでに録音し、『サイキック=エクスプレッション』で動物園の外観を画像に変換した。


 ――ところまでは良かったのだが、一連の作業が終わったところで絵理華(えりか)は気づく。


 これは『テュールのルーン』にエンチャントしてテュールの手でオンオフしていたから可能だったことであって、テュールと直接やり取りをできない場所では音声や映像の再生が不可能であるということを。


 そのことを宣伝担当であるトールとロキに相談してみると、


「そんなに悩むことじゃねぇぜ?だからもっと落ち着きな」


 相変わらずの超然とした態度で答えを出す。


「展示スペースを作る時に使った『河口のルーン』ってあっただろ?あれって実は『神のルーン』でもあってだな、神であるオレ様たちは『神のルーン』にエンチャントされた魔法であれば自由に使うことができるんだよ」

「随分と都合のいいルーンだね……」

「それは大昔のゲルマン民族に言うんだな。オレたちはゲルマン民族が考えたルーンをそのまま使っているだけだし」


 先述の通り、軍神である『テュールのルーン』を剣に刻めば戦争に勝てる、『海のルーン』を刻めば難波しない、などの一種の願掛けのように使われていたようだが、中には『世襲財産のルーン』・『白樺の枝のルーン』などの使用方法の分からないものや、『忘却のルーン』・『ビールのルーン』などの、文字は失われているが存在したと考えられているルーンもある。最も古いものだと2世紀頃のものであり、1,800年以上前の人々の価値観や思考を考えてみろというのは(いささ)か難しい気がする。


「んで、『スピーチ』で録音した音声があるんだろ?後はこいつにエンチャントするだけだぜ」


 くるりと机の上にある蒲鉾板(かまぼこいた)サイズの木の板を裏返すと、『河口のルーン』と全く同じ形状をした「F」の字のような紋様が出現する。ナイフを使って掘ったもののようだ。


「ところで開園の準備はできているのでしょうか?人員の配置や動線の確保、ガルシャ君の店の在庫の確認、客を実際に入れた時の動きの予行練習などは完璧ですか?」


 朝からワインを飲んでいるため葡萄の匂いが含まれたヘイムダルの質問に絵理華が答える。


「看板の作成にモンスターたちの餌やりでしょ?展示スペースもいくつか拡張したし、後は宣伝活動くらいじゃないかな?」

「ま、実際にやってみないと分かんないこともあるし、何人か客を動員してから考えてみてもいいんじゃね?それに、最初の方はそんなに客が来ないだろうから、いい練習になると思うぜ」

「……相変わらずトール君は適当ですね」


 帽子から覗いた髪が揺れる。


「あぁそうだ、すっかり聞き忘れていたんだけど、オレ様たちはこのまま宣伝すればいいんだよな?」

「……?このままって?」

「ヘイムダルも言ってたんだけどさ、男性客をターゲットにするなら女性に、女性客をターゲットにするなら男性に変身した方がいいんじゃないかって」


 そう言われて改めてトールとロキを見る。


 耳が少し隠れる程度に伸びた長めの金髪に緑色の瞳、ブリ(中世ヨーロッパの一般庶民の普段着)の上からマントを身に纏ったトールと、黒髪に黒目、黒を基調とした道化師のような見た目をしたロキ。どちらも端正な顔立ちをしており、特に若い女性には受けが良さそうだ。


 初期のうちはなるべく客層を偏らせたくないため、なるべくならばもう一・二人くらい女性を動員するか、園のマスコットみたいなものを動員して子供受けや家族受けを狙った方がバランスが良さそうだが、広告活動に四人も割く必要はないし、マスコットは制作していない。


「うーん…………」


 少しの間考えた後、一つの答えを出す。


「じゃあ、私とセレンも一緒に宣伝に行くよ」

「え゛え゛っ?!!」


 声の吹き込みを終えて机に伏していたセレンが金髪を乱しながら起き上がる。


「その方が男性二人女性二人でバランスがいいよね?やっぱり第一印象が大事だから、男女比率は平等にしたいな」

「ちょっと待ってくれたまえ。宣伝に四人も使うというのかい?」

「四人で宣伝活動をして、その後すぐに『ワープ』を使って私とセレンが戻って来ればいいでしょ?」

「……なるほど。それならば不自由しないね」


『ワープ』の魔法を使えば、一度行ったことがある場所であれば自由に瞬間転移することができる。

 どうやらトールは風属性の魔法なら使えるらしいので、それぞれ『ワープ』を使えば一瞬で戻ることが可能なのだ。


「だったら、移動も『ワープ』を使えばいいんじゃないですか?その方が少ない荷物と短い時間で済むので楽だと思うんですけど?」

「残念ながら、オレもロキもドリード村には行ったことがなくてな。『ワープ』を使ったら首都のガオバーロまで飛んじまうんだよ」


 ドリード村とは宿屋『アルミラージの集会所』から最も近い場所にある農村である。

 ゴロド王国の領地の中では最も小さい村であり、王国の領土の中でも外れの方に位置する。


 ちなみに、『アルミラージの集会所』はゴロド王国領内に広がる未開拓地の近くに建っている。


「それに、折角だからフェンリルに乗って移動した方がインパクトがあるんじゃないかなって。動物園の宣伝をするのには打ってつけでしょ?」

「とか言って、フェンリルのもふもふした毛並みを堪能したいだけですよね?口の端から涎が垂れてますよ?」

「おっと」


 慌てて手の甲で拭い取る。


「それはいいんだけどよ、オレ様ならガオバーロまで『ワープ』できるんだから、最初からガオバーロで宣伝すればいいんじゃね?こういう言い方をするのもアレだけど、あんな小さな村で宣伝を行うよりも、いきなり都市部でやった方がいいと思うぜ?」

「確かにそうには違いないけど、いろんな人が来るようになったら必然的にドリード村を通るようになるでしょ?そうなったらドリード村の人たちに迷惑をかけちゃうから、挨拶回りの意味も兼ねて、まずはドリード村に行った方がいいんじゃないかな?」


 というわけで、まずは最も近くにあるドリード村で練習も兼ねて広報活動を行い、村長に挨拶をすることに決定した。

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