表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/126

第10話:ルーンにエンチャント

 調べてみるといろいろなことが分かった。


 まずは、動物が生態や棲息地ごとに分類されていること。

 ……これは当たり前と言えば当たり前なのだが、当たり前のことこそ意識してみないと気付かないことである。極端な例ではあるが、虎と白熊を一緒に展示しないし、ペンギンと霊長類を一緒に展示したりはしない。


 後は、草食動物の目の前に肉食動物を展示するなど、動物にとってストレスとなるような展示の方法を避けることなどである。


「よし、できた!!」


 自身の背丈よりも高いものをいとも簡単に動かせてしまうのだから、魔法というものは非常に便利だ。

 四角い形に更地となった森の一角を見ながら、絵理華(えりか)は汗を拭う。


 結局のところ、大規模に一気に伐採するよりも、モンスターを仲間にしてからその都度森林を開拓した方が楽なのでは?という結論のもと、アルミラージのルミ子が満足に走り回れそうなスペースを作ったのだった。


「後はどうしますか?」

「樹を数本埋めて、隠れられるような穴や水場でも作ろうかな、と思ってる。その方が過ごしやすいでしょ?」


 絵理華が住んでいた世界では、アルミラージはインド洋にある幻の島・ジャジラト=アル=ティニン島に棲息すると言われているモンスターなのだという。

 極端に涼しくするなどの必要性はなく、適度な砂地、適度な草原部、適度な森林、適度な水場があれば環境として申し分ないため、適した環境を整えていく。


「水場を作るのはいいけど、水が枯れないように給水設備を作らなきゃいけないし、排水を川とかに逃がせるように排水設備も作らなくちゃいけないよね?」


 自分で言いだしたことではあるが、あれこれと課題が浮かんできて想像以上に大変だ。セレンに問い掛けると、


「そういう時こそルーンを駆使するんですよ絵理華さん!」


 ふんす、と自身満々に鼻を鳴らす。


「ルーンを使えば様々な魔法を物体に込めることができるんです。とっても便利ですよ!!」

「例えば?」

「そうですね……。では、水場を作りたい場所を決めて、そこにわたしたちくらいの背丈の岩石を作ってください」

「??」


 これから何をするのは分からないが、言われたとおりに水場を設置すべく場所を決定。土属性の魔法を作って窪地と岩石を生成する。


「できましたね。それでは岩石の何処でもいいので、「F」の字の刻みを入れてください。完全に「F」にするのではなく、横の二本線を斜めに下るようにしてくださいね」


 岩に深く刻み込むのは労力が要るため、風属性の魔法を使用。がりがりと岩を削りながら言われるがままに指でなぞって「F」を刻む。


「準備完了です!あとは、その「F」に手を添えて、水属性の魔法を込めるだけです」

「??これで一体何が起きるの?」

「いいからやってみてください!すぐに分かります!!」


「F」如きで何が変わるというのだろうか。言われたままに手を添え、水属性の魔法の力を込める。

 と、


「わわっ!!」


 まるで源泉を掘り当てたかのように、「F」を刻んだ場所から水が放出された。


「どうなってんのこれ?この地下に水が通ってるの?」

「違いますよ!ルーンによる力ですっ!!」


 自分の力でもないのに得意げに胸を張る。


「これは【河口のルーン】と言いまして、水に関係のあるルーンなんですよ!このルーンを使うことによって、初歩的なものに限りますが、水属性に関係する魔法を永久的に使うことができます!」

「ふーん。便利だね」


 とぱとぱと何の変哲もない岩から水が溢れ出す光景はなかなかシュールだ。


「……で、どうやったら止まるの?これ??」

「心配要りません」


 浅い窪地が一定の水(かさ)まで満たされると、岩石から漏れ出ていた水がピタりと止まる。


「魔法を込めた時に【河口のルーン】が持ち主の意志を読み取っていますので、絵理華さんがこうしたい、と思った通りに動いて止まるようになっています」

「いや、それはいいんだけどさ、ほら、蒸発したりしたら水が減るじゃん?そうした時はまた手動で水を足さなきゃいけないんだよね?」


 自動で水が湧いたものの、結局のところ水属性の魔法で注ぐのと同じことなのでは?という疑問を抱いていると、


「足りない分の水はルーンが自動で足してくれます!超便利ですよねルーン!!」


 新鮮な水を見ながらセレンが口を開く。


「でもさ、この水だってそのまま置き去りにしたら、時間経過とともに濁っちゃったりするよね?その濁った水はどうするの?」


 絶えず水を流すのであれば問題ないのだが、言ってしまえば水を出して貯めているだけだ。オフシーズンの学校のプールを見れば分かるように、毎日掃除するなどの手入れをするべきだろう。


 もしかしてこれも【河口のルーン】がやってくれるのか、と思って期待の眼差しでセレンを見ると、


「やばいやばいどうしようそこは考えていませんでしたああ!!!」


 めちゃくちゃ聴牌(テンパ)っていた。どうやら、そこまでのことをやってくれる代物ではないらしい。


「やっぱり排水施設を整えた方がよかったんじゃないの?」

『愚問だな生娘よ』


 後ろを見ると左右の肩に蛇の頭を生やした黒いガウンの男が立っていた。


『【不足のルーン】を水が張られた地面に刻むのだ。そうすれば【不足のルーン】が水を吸収して常に水が不足した状態になり、それを【河口のルーン】が補ってくれるであろう』

「なるほど」


 アジ=ダハーカ(今は人間の姿なためザッハークだが)に指示されるままに水の底に「十」の横棒を斜め下向きにしたような形の【不足のルーン】の文字を刻み、


「魔法のエンチャントは何にすればいいの?」

『不足させたいものだから、水属性になるであろうな』


 冷たい水の中に手を入れたまま水属性魔法を念じる。

 と、こぽこぽと音を立てながら気泡が発生。その水が何処に消えたかは分からないが、水の入れ替えも問題なく成功したようだ。


「さすが1,000種類以上の魔法を使いこなすドラゴン。魔法の知識だけじゃなくて、ルーンに関する知識も豊富なんだねっ!」

『ふっ。褒めても何も出ないぞ生娘よ』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『…………は?』


 呆気にとられた顔になる黒いガウンの男。


『……何故我が展示されねばならんのだ?動物園とは人間に(きずな)を付けて展示する場所ではなかったはずだが?』

「ザッハークだってモンスターなんだから、私の動物園で展示するよ?」

「そもそも、ザッハークさんは人間じゃありませんしねぇ」


 二対一。

 圧倒的に数的不利だ。このままでは森の中で他の動物との緊縛生活が始まってしまう。


 そうならないように頭から逆転の一手となる意見を絞り出す。


『こっ、これから動物園が繁盛していくと、ガルシャースプの宿屋が忙しくなって人手が足りなくなってくるであろう?その日のために我は人員として回った方がいいと思うのだが?』


 確かに、動物園を経営するのであれば、宿屋のスタッフや入園管理のモギリをするスタッフ、動物園に訪れた客を案内するスタッフ。さらには、モンスターたちの病気や怪我などに精通した獣医師のような存在も欲しいし、園内や獣舎・展示スペースの清掃スタッフも必要不可欠だ。人員が足りていないのには違いない。


 しかし、態度を全く変えないまま二者は反論する。


「どのみち今の四人のままじゃ人員が足りないから、それは追々集めればいいんじゃない?」

「ザッハークさんって王様だったんですよね?給仕する方よりされる方だったザッハークさんに、注文取ったり料理運んだり、ベッドメイキングしたりできるんですか?」

『…………』


 完全に詰みだった。脳が三つあっても無理なものは無理である。


「というわけで、次はザッハークの展示スペースを造ろうか。どんな感じがいいかな?」

『……もうよい』


 顔を俯かせて肩を震わせながらザッハークは叫ぶと、


『こうなったら、自分で住むところは自分で造ってやるわ!!我が名はアジ=ダハーカ!!1,000の魔法を知る龍なり!!』


 ちょっと泣きそうな顔になりながら20フィート(6m)くらいの大きさの黒龍の姿に変身。魔法で樹々をぶっこ抜いて浮かせると、黙々と作業に取り掛かるのだった。



 数時間後、ドヤ顔で『アルミラージの集会所』に現れたザッハークに連れられて向かうと、豪奢な石造りの神殿ができあがっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ