第9話:文明の利器
『何故我が畜生の真似事などしなければならんのだ?』
「だから何度も言ってるでしょ?あなたのことを知ってもらい、あなたを保護するためだって」
サイズを小さくした(と言っても100m以上の大きさはあるが)アジ=ダハーカに言い聞かせる。
「私が放っておいたら、あなたは世界を滅ぼして、ガルシャさんに斃されていたんだよ?むしろ、命の恩人だと思って感謝して欲しいくらいなんだけど?」
『ふんっ。我がこんなむさ苦しい男になど負けるわけがないだろう?』
「ほう?頭が三つもあるんだから、一つくらい戦棍で潰したって不自由しねぇよなあ?その減らず口を黙らせてやろうか?」
「落ち着いてくださいよ二人とも!」
わたわたしながら金髪の女神が止めに入る。
「とにかく、あなたには私が造る動物園の看板モンスターになってもらうから、そこんところはよろしくね!」
『ふざけるのも大概にしろ』
ぶおおっ!!
ぶおっ!!
三つの頭を持つ黒い龍が大きく羽搏くと、それだけで台風に匹敵する嵐が発生。ぎしぎしみしみしと音を立てながら回りに生えた大木が揺れる。
『貴様のごっこ遊びになど付き合っておれん。我はこの世界を滅ぼすために旅に出る』
重力を感じさせない動きでふわりと舞い上がり、空高くへと消えようとするので、
「ハウス!!」
大声を挙げる。
と、少しの距離を飛んでからUターンし、こちらに戻ってきた。
『……スラエータオナに封印された時よりも屈辱だな』
「あんまり笑わせるなよっ!!腹が捩れて死んじまいそうだぜ!!!」
龍殺し(予定)の英雄が笑いながら地面を転がる。
『こうなっては仕方がない。生娘よ。我はこれから何をすればよいのだ?』
腹を据えたのか、頭を垂らしながらこちらに目線を向ける。
「うーんと。まずは広い土地が欲しいから、土地の開発に協力してもらおうかな?」
「ちょっと待ってください」
ここで静止をしてきたのは珍しくセレンだった。
「動物園って言っても、普通の動物園からサファリパークみたいなやつまでいろいろありますよね?まずは、どんな形式の動物園にするか方向性から練って、その後で不要な森林の伐採や開拓をしてみてはいかがでしょうか?」
確かに、闇雲に樹を切り倒して動物を追い払っているようであれば、それこそ本末転倒だ。セレンの意見も最もである。
「……っつっても、オレは動物園がどんなもんかは知らんから、何も助言はできねぇぞ?」
『我も生娘の口から初めて聞いた』
「とりあえず、『アルミラージの集会所』に戻ろうか」
こんな時、魔法があると非常に便利だ。
一度行った場所に瞬間移動できる『ワープ』という魔法があるらしく、セレンに教えてもらって詠唱。全員で閑静な宿屋の入口前まで移動するのだった。
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328フィート|(約100m)以上の巨体を『アルミラージの集会所』まで移動させたら、一瞬でぺしゃんこになってしまうのでは、と思ったが、そこは配慮してくれたらしい。自分の魔法で遅れて『ワープ』で移動してきたアジ=ダハーカは、黒いガウンに身を包んだ貴公子の姿になっていた。
「人間の姿になれるんですね……」
叙事詩『シャー=ナーメ』によれば、両肩から蛇を生やした筋骨隆々の男で、ザッハークという名の王であったという。人間の姿になることができても別段不思議ではいのだが、
『下賤な人間如きに変身するのは癪だが、事態が事態だからな』
TPOを弁えるほどの分別はあるらしい。どっしりと構えながら不服そうに口を開く。
「それで、動物園とやらはどういう方向性にするんだ?どういう人たちをターゲットにするかでも、動物の配置とかがだいぶ変わるんだろ?」
一応商売人であるガルシャの言葉は続く。
「女性や子供をターゲットにするんだったら、かわいい動物を中心として集めてもいいだろうし、方向性によって配置とかも考えなきゃいけねぇんじゃないか?」
「ちなみに、ガルシャさんの宿は誰をターゲットにして運営しているんですか?」
「……あれだ。みんなが集まる憩いの場的な場所になるといいなーと思って、簡素な内装にしてるんだよ」
「何も考えてませんでしたね……?」
言うは易く行うは難しとはこのことか。
そっぽを向いて誤魔化そうとするガルシャ。
「私が勤務していた動物園みたいに、普通の動物園でいいんじゃないかな?初期の方から客層を固定しちゃうのもあんまり良くない気がするし」
「……その普通の動物園ってのがオレたちは分かんねぇんだっつうの」
「私が口で言うよりも見せた方が早いよね」
ポケットからスマートフォンを取り出すと、検索エンジンに「遮光山動物園」と入力して検索する。
『何だその板切れは?貴様はその板で何をしようとしているのだ?』
指先を使ってスマートフォンを操作しているのを見て、ザッハークが興味深そうに表情を緩める。
「これ?これはスマートフォンっていって、いろいろな情報を調べることができるんだよ」
動物園の公式ホームページが画面に映し出されたのを見て、ガルシャとセレンも興味津々で身体を乗り出す。
「何だこりゃ?小さな板の中に動物が閉じ込められてんぞ?!」
『違うぞガルシャースプよ。その板がゲートとなっていて、異空間に繋がっているのだ。手を伸ばせばその世界まで移動できるに違いない』
「どっちも違うよ?」
予想を外した二者が目を瞬かせる中、絵理華は説明する。
「分かりやすく言うと、他の人が作った広告を見られるようになっていて、私たちはそれを見ているんだよ」
「これが広告だあ?随分とお洒落な広告だな!オレにはできねぇ精緻な仕事だぜ!!」
「うちの動物園古いから、ホームページも古いままなんだよね……」
『これが古の技術だと?この世界で長く眠っているうちに、人間の技術も進歩したものだな』
「一応言っておきますが、絵理華さんの世界の技術であって、この世界の技術ではないですからね?」
『我にもスマートフォンを寄越せ』と言われると面倒なので釘を刺しておく。
「私がいた世界にはいろんな動物園があってね。公式ホームページを見ればマップが見られるようになっているんだ。みんなでいろんな動物園のマップを見て、いろいろと意見を出し合ってみようよ」
セレンのよく手入れされた綺麗な金髪。
ガルシャのアフロのようになった巻き毛。
ザッハークの両肩から蛇が生えた頭。
三者三葉の形をした頭がスマートフォンの上に集結し、絵理華もその輪に加わる。




