第99話:ゴロド王の本性
「あの骨め!あんなに大口叩いておいて、何も役に立たぬではないか!!」
怒りに任せてグラスを叩きつけると形を失って砕ける。
「何のために儂が苦心してやったと思っているのだ!!魔王軍の四天王とやらもその程度ということかっ!!」
「おっ!お怒りのところ申し訳ございませんが王様!!」
これが信頼のできる唯一の腹心でなければ、今頃首を刎ねていたところだろう。意見に耳を貸す。
「カロルが死亡。勇者も帰ってこないとなると、いよいよエリカ=ヤマシロに対して打つ手なしてございます!!これはいよいよ『紅蓮と白銀の騎士』に依頼するしかないかと!!」
「そんなことは分かっておるわ!あの骨など役に立たぬと思って、既に城に呼んである」
「でっ!出過ぎた真似でしたあ!!!」
腹心が深々と頭を下げている中、玉座の間の扉から中に入る許しを乞う声。その後に重い門扉が開かれて中に客人が招き入れられる。
「ご機嫌は如何でしょうか?皇帝閣下?」
セトレイ王国の現王女の実姉・テリーナが丁寧な所作でお辞儀する中、少し高くなった玉座の上から他のメンバーたちを見下ろす。ゴロド王でも『紅蓮と白銀の騎士』をフルメンバーで見るのは初めてだった。
一人はさらしに豪華な装飾が施された腰巻きを付けた、褐色肌に黒髪の踊り子のような雰囲気の女性。フォーマルな場には全く合わない服装だが、冒険者である以上しっかりとした装備に袖を通していることこそがフォーマルだ。今さら咎めるようなことはない。
一人は青を基調としたローブを身に纏った銀髪の小柄な少女。見た目は年端もいかない少女に見えるが、髪の毛から時折覗く尖った耳を持つことからすると、少なくとも人間ではないことは分かる。
そして、『礼儀』という言葉と概念を自身の辞書に持ち合わせていない、無礼極まりない魔法使いの少女。上から下まで赤系の服装で統一され、室内であるにもかかわらず赤い山高帽を被っている。こう見えても『紅蓮の魔女』の二つ名を持つ【マジックマスター】で、20歳にも満たないのにLSランクのギルドでDDを務める実力者なのだが、何処にでもいるただの小生意気な娘にしか見えない。
「本日はどのような要件で私たち『紅蓮と白銀の騎士』をお呼びしたのでしょうか?」
「エリカ=ヤマシロという女を知っているか?」
「……エリカ=ヤマシロ、ですか?」
テリーナは『ロマリア市街ウェアタイガー抹殺作戦』の時に倒された『荒涼』の身柄を引き取るために顔を合わせているため知らないわけがないのだが、
「初耳ですね。どのようなお方なのでしょうか?」
ゴロド王の発言の意図を探るべく、くすくすと笑う『紅蓮の魔女』を後目に言葉を続ける。
「儂の領地を無許可で占拠してモンスターを集め、ドウブツエンなる施設を作る気らしい。何か良からぬことを考えているに違いないから、その者を潰して欲しいのだ」
「なるほど。魔王ロザスのように兵力を蓄えて、再び我々を恐怖に陥れる可能性もあると」
「如何にも」
「勇者様たちはどうなさったのです?ゴロド王国と言えば『煌々たる裁きの剣』がありますよね?」
「どうやらエリカ=ヤマシロの捜査に行って交戦した末に敗北したらしく、今ではエリカ=ヤマシロのもとで下働きをしているようなのだ」
「……へえ。そんなに強いやつがいるの?面白いじゃん?」
とスカートが捲れ上がるのも気にせずに床の上で胡坐を掻いた『紅蓮の魔女』が呟く。
「つまり、勇者様たちはエリカという者に負けてしまい、いいなりになっていると」
「そうだ」
「もし事実なのだとしたらそれは危険ですね。今すぐにでも向かうとしましょう。……ところで王様、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?魔術王カロルについてです」
ゆっくりと立ち上がると上方にいる王と向かい合う。
「最近蘇ったという情報を掴んだので秘密裏に調査を進めていたんですよ。それでその結果、ゴロド王とカロルが結託しているという情報をとある行商人から聞きましてね。その情報の真偽を確認しておきたいのですが」
「儂がカロルと結託?そのようなことあるわけが――」
「はい、『ジルジの天秤』が傾きましたー。王様が嘘を吐いてまーす」
『紅蓮の魔女』の傍らに浮く聖なる天秤が傾く。
「ジルジの前では王様の方便も無力ってこと。諦めて本当のことを言ったらどうよ?」
「貴様……、誰に向かって物言いをしているか分かっているのか?」
「魔王軍と結託して無辜の市民を殺そうとしている嘘吐き大王様!違う?」
んべ、と舌を出しながら言うと、
「貴様らあ!!」
脇に控えていた兵たちが駆け寄り、武器を構えながら包囲する。
「小手先では誤魔化せんということか。この秘密を知っているからにはここで死んでもらう!!」
「……だってさテリーナ。何罪になりそう?」
「まずは絶対に禁止されている、他国の使者を襲撃した罪・このまま私たちが死ぬなら殺人罪。それに、」
目を細めて鋭い眼光を飛ばす。
「栄誉ある我がセトレイ王家に牙を剥いた罪だ!愚王如きが我が王家の名を穢したのは万死に値する!」
重量感のある盾を打ち付けると重低音が王室に木霊する。
「なーんだ。あたしたちはこの程度じゃ死なないから殺人罪が無くなって少し減刑になるじゃん?良かったね。王様」
「セトレイ王家の者を殺すとはよく言ったものだ!今すぐこの場で死刑に処してくれようか!!」
「うふふ。テリーナさんったら普段は王族扱いされるのが嫌いなのに、こんな時だけ王族気取りですか?「私は王族から離れた身。恭しくされるのは嫌いだ」って、あんなに言っていたのに」
さらしに腰巻きの女性が茶化すように口を開くと、
「すまないなサラ。私のことはいいんだが、王家のことを穢されるのだけは許せないのだ」
「テリーナさんらしいですね」
青いローブに銀髪の小柄な少女が微笑む。
「何をごちゃごちゃと言っておる?!LSランクの冒険者と言っても、所詮はただの女四人ではないか!?こちらには厳しい訓練に耐え抜いた屈強な男たちが何人もいるのだぞ?!」
「あのね王様。勘違いしているようだから訂正しておいてあげる」
頭に被った紅蓮色の山高帽の位置を正すと魔法の杖を構える。
「ここにいるのはただの女じゃなくて、大陸最強クラスの女四人だよ?そのことをよーく覚えておくように。……あっ!そうだ!!最後にもう一つだけ質問っ!!」
剣や槍が全方位から向けられても物怖じしないまま親指を横に突き出して「一」を作る。
「王様って後継者とか息子っていたりする?このままだと空位になって王国が滅亡しちゃうかもしれないから、今のうちに遺書でも認めておいてよ」
「舐めおって小娘が!!」
十を超える衛兵たちが一斉に殺到する。
が、
「もっ!燃えるっ!!ああぁああ!!!」
「闇属性の魔法で幻覚を見せてるだけだっつーの。田舎の国の癖にモンスターとの戦闘経験が少なすぎるんじゃない?」
幻惑でできた炎に包まれて身悶える兵士とそれを嘲笑う『紅蓮の魔女』の声。
「警備兵というくらいだから手練れかと思っていましたが、そうでもないようですね」
涼やかな顔で踊るように二振りの短剣を振り回し、的確に武器を叩き落とすサラと呼ばれた踊り子風の女性の声。
「……ぬるいっ!この程度の実力で王を守ろうなどとよく言ったものだ!!私が直々に鍛え直してやろうか!!?」
巨大な盾を遮蔽物にして身を隠し、その影から軽やかな足捌きで剣光を閃かせるテリーナの声。
数で圧倒していたはずの兵士たちは一瞬のうちに武器を叩き落とされて無力化されてしまう。
「では王様。少々――いえ、話したいことが山ほどありますので、然るべき所までご同行願いましょうか?」
息一つ乱れることなく巨大な盾を構えながら女王の姉はエスコートする。
「ぐ……、う…………」
『相手が他国の王様だから』という理由でセーブがされているが、この枷が外れてしまえば文字通り秒殺される。護身用に短剣一本を隠し持ってはいるが、そんなちゃちな物で殺せるほど彼女たちは甘くない。
「こ、ここここここれは素直に従った方がいいかと!何よりも王の身が心配でありますすすすすす!!!!」
今にも気を失ってしまいそうなほどに身を震わせる側近の大臣の指示に従うしかなかった。
その後連行されたゴロド王はカロルとの関与を素直に認め、処刑こそは免れたものの王位を追われて失墜。牢獄へと幽閉された。
この事件を機に王位は継承権一位の長男へと移行。新たなゴロド王が誕生した。
魔王軍の残党と結託していたという事実と突然の王の投獄に最初は困惑を隠せなかった国民たちだったが、吝嗇と圧政で人々を苦しめていた王に代わって王権を得た長男が国税の減税などの方針を固め、それによって財政的に苦しめられていた貧困層や農村部の人々は圧政から解放された。
勿論ゴロド王国の領土内に敷地を構える遮光山動物園異世界支部やロネッツ男爵の領地も例外ではなく、王の投獄から数日後、男爵が『アルミラージの集会所』に訪れてニコニコしながらこれらの顛末を説明してくれた。
新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!!
とりあえず今年の抱負としては、「賞が獲れる作品を書く」です!
今までは自分の感性を大切にして、自分が面白いと思う話を書くようにしていましたが、それでは勝てないことに気づきました!
もうこの際なりふり構っている場合ではないので、とりあえずブックオフでいろんな「なろう」のコミカライズ版でも買い漁って勉強・研究したいと思います。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!
今年はルナティちゃんの年だあ!!