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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第二章 懇親会編
35/156

35、私は相談させられます

 もし、私が純心な乙女であったならば、直球なシユウ様の言葉を受けて簡単に恋に落ちてしまうという可能性もあったのでしょう。ですが、私はとっくの昔に現実の不条理を知った捻くれた子供へと成長していて、彼の言葉にもきっと裏があるのだとすら疑ってしまいました。

 彼の人格を理解している今ならば、彼の不器用さを理解している今ならば、そんなことはないと判断できます。ですが、一度染み込んだ悪印象は自分の意志だけではひっくり返せないのです。シユウ様を好きになってしまえば楽になるのだと頭では分かっているのに、心が拒絶している。


 親愛が恋愛に発展しない。それは私に焦燥を抱かせるのに十分な不安。今は私に純粋な好意を向けてくれているシユウ様だって、その無条件の愛は果たしていつまでその形を保っていられるのか。見返りの無い奉仕は絶対に長続きしないのです。

 それを理解していて、何も返せない私はきっと、何も持っていないのです。二年前と何が違うというのでしょうか。あの時と同じ。外面だけを体裁良く整えた、空っぽの虚構。それを埋められるだけの何かを、何一つとして獲得できていないのです。


「とうとう一週間前ね……、二年前からストレスを感じないようにして生きてきたから久しぶりの強烈なストレスに胃が悲鳴を上げているわ。料理長に謝っておいてくれる?」

「料理長もアンナ様の事情は把握していますから問題はありません。むしろ、もっと食べやすいものにするべきだったと最近落ち込み気味です」

「それはそれで謝っておいてくれる? 思わぬところに二次被害が及んでいるとは思ってなかったわ。毎日手が込んでいて美味しい食事を作ってくれているのに落ち込む必要はないということも伝えておいて」

「まあ、伝えてはおきますけど……、素直にそれを受け入れるような人ではないでしょう。この二年間、アンナ様の再三再四の辞めた方がいいんじゃないかという呼び掛けに一切応じなかったんですから」

「そうね、確かに彼がここをやめたら荒れるというのは理解していたけど、彼自身がここまで頑なだとは思わなかったわ。かといってお母様にある恩というのが具体的にどんなものなのかは教えてくれないし……」


 この二年間、どうにかして料理長を辞めさせようと色々な手を打ってきたのだけれど、何一つとして有意義に終わることはなかったのです。どう考えたって辞めた方が料理長のためだと屋敷内の使用人全員が理解しているのに、こうも響かないと私たちのやっていることって嫌がらせに等しいのではと思ってしまいます。

 毎回その気持ちは嬉しいと言いながら微塵も届いた様子はなく、徒労感が徐々に芽生えてきているのは私だけではないでしょう。こうして話しているリーデアも、少し前に諦めてしまったうちの一人。そろそろ諦めている人の数が続けている側の人数を越えるでしょうね。数えたくありませんわ。


「一度に二つの問題について話すのはやめましょう。多分胃の負担が増しますから。私を呼んだのは、とうとう七日後に迫った懇親会について何か言いたいことがあったからでしょう?」

「そうよ。貴女に相談するのが正しいとは思ってないし、貴女としても面倒なだけでしょうけど、少しだけ私の話を聞いてちょうだい」

「……さりげなく私が相談相手に適してないって言いませんでしたか?」

「気のせいよ。問題点としてはね、私が未だにシユウ様に対して真っ当な恋愛感情を抱けていないという点なのよ。告白されて、それを受け入れて、二年間親交を深めてきたにも関わらず、浮わついた感情の一つも生まれない。友情ならば感じているけどそれじゃあそこで終わりなのよ」

「……この二年間、お二人を見ていて、確かに恋人というよりは友人のような距離感だなとは思っていました。しかし、まだ初等部に通うお二人にそれを言うのは違うと思い、見過ごしてきました」

「やっぱり、他の人から見てもそんな感じだったのね」


 恋愛経験がある意味で豊富なリーデアだから気づけたのかもしれないとも思いますが、だからこそ、私達の関係の不安定さが否定できない。仲良くないわけではないのですが、それは望まれたものとは違う関係。了承したのとは違う関係。いえ、お互いの立場的にはこれが正しいのでしょうが。

 シユウ様は私を名前だけで呼ぶようになり、お互いに気を遣わなくなっているのは確かです。ですが、それが進むほどにどうしてか心の距離が遠のいている気がするのです。いえ、遠のいているのではなく、お互いに背中を向けた状態のまま近付いているかのような。


「……そういう相談を私にしてくるということは、私にその解決策を求めているのだと思って間違いないですね? いえ、間違いなどあるはずがないですね」

「いえ、貴女にそこまでは求めていないわ」

「安心してください。私がそんなお二人の距離をグッと縮めるナァイスなアイディイアを授けましょう」

「発音がむかつくわね」

「ずばり、ロマンティックなデートをすればいいのです!」

「発音がむかつくわね」


 リーデア、二十八歳。美人なのですが、未だに独身なのにはこういうところに理由があるのでは。

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