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~ 第一話  馬車に乗るオーク ~

大変お待たせしました。いやぁ……難産。落としどころに苦労しました。ですが、とりあえずは書ききれたと思います。


この十章は、本編を12話と閑話をいくつか、という予定です。


それでは、どうぞ!

 ぱぱっ、ぱーぱーぱっぱーぱぱーぱーぱー。


 ……異世界の車窓から。


 すまん、言ってみたかっただけなんだ。


 というわけで、久しぶり! さすらいの旅人、アルトだよっ!


 現在、俺は馬車初体験中なのだ。


 馬車って聞くと、前世の感覚からしてすごいレトロなイメージだったんだけどさ? 舐めてたね! 全然揺れねぇの!


 秘密は車輪にあるらしい。


 なんでも車輪そのものが魔法の補助具になっているらしくて、魔力を込めれば揺れをほとんどなくしてくれるという、サスペンションもびっくりの代物らしいんだ。


 燃料がわりに魔力を満タンにすると、丸二日は大丈夫という優れもの。教えてもらった時はその技術の高さにぶったまげたね。


 昔は馬車がガタガタ揺れて大変だったんだそうな。道だって舗装されてないしね。そこで、当時の魔道具職人さん達が死ぬ気になって開発したらしい。必要は発明の母ってやつだな。


 噂じゃ、王族が乗る馬車は、馬車そのものが魔道具になっているそうだ。魔力を込めると重さがほとんどなくなり、人でも引けるようになるらしい。……それでも人力車じゃなく馬車なんだな。 


 この全然揺れない車輪のおかげで、前世の車でも結構大変なんじゃないかって道も快適に進むことが出来る。


 見渡す限り何もない……ど田舎だな。


 そんな所なので、すれ違う人もいない。大きな豚さんが馬車の小窓から外を覗いていても問題ないというわけなのだ。


「アルトさん、なにか見えますか?」


 わくわくしたようなリリーちゃんの声に俺は小窓を譲る。窓の外を楽しそうに眺めるリリーちゃん……癒されるわぁ。


 今回、この馬車に同乗しているのはリリーちゃんと、リリーちゃん専属メイドのボインちゃん、改めアガサちゃんである。


 このアガサちゃん、リリーちゃんが俺に会いに来てくれる際には毎回付いて来ていたので、オークである俺にも慣れてくれている。

 

 ちなみに後ろにはもう一台馬車が走っており、そこには辺境伯家のお役人さんらしき人が乗っていた。万が一、『山の民』と交渉することが出来た場合はこの人達の出番となるのだろう。お仕事ご苦労様です。


 あと、護衛の皆さんはそれぞれ馬に乗ってらっしゃる。


 華麗に馬を乗りこなすサリーちゃんのドヤ顔を見て、なぜか敗北感を感じたのは内緒にしておこう。……俺だって、デカくて頑丈な馬さえいれば乗馬くらい出来るもんねっ!


「キレイですねー」


 のどかである。


 どこまでも続くかに思える大平原。たまに人間の村らしきものがあるくらいで、本当に何もない。その中を馬車がゆっくりと進んでいるのだ。


 目的地のゾルデギルまでは、このペースで休憩を挟みつつ、まる二日かかるらしい。体感でジョギングくらいの速さでまる二日……中々な距離である。


 そして今日はその二日目。人里からもだいぶ離れたところを走っているというわけだ。


 さて、記念すべき俺の初めてのお仕事だが、そのゾルデギルに住む『山の民』の人達との交渉役だ。


 まぁ正確には通訳なんだけどな? 要は、オークのリスニング能力を生かして、『山の民』の言葉を聞き取ってくださいってなことだし。


 たださ、不安なんだよね。


 ハリソンさんから詳しく聞いたところ、『山の民』の声を聞いたことがある人すら一人もいないらしい。それって言葉が違うとか以前の問題じゃんよ! 無視されてるだけじゃね!?


 怖くなった俺は、『実は無視されているだけ説』をハリソンさんにぶつけたのだが、それは無いと断言された。一体何を根拠に言ってるのやら。……不安である。


 不安ついでにもう一つ。今回の遠征に、ジョンさんはついてきていない。


 なんでも、国によってはジョンさんのような獣人さんに対して差別的な意識をもっていることがあるらしい。万が一、『山の民』が獣人嫌いだった場合を考えて、これまでの交渉の際にも獣人が同行したことは一度も無かったそうだ。


 なるほど、それほどまでに慎重に交渉を進めているわけですね。素晴らしいことだと思います。


 ……俺、オークなんですけど?


 獣人どころか、魔獣扱いされてますけど!?


 これで、俺の顔を見た瞬間に『山の民』の人がその瞬間にぶちギレて、交渉がダメになっても責任取れないぜ?


「先触れは出しております。今回の交渉には『森の大賢者』様を連れていくということ。『大賢者』様は、オークの姿をしていることを、すでに伝えてあります」


 もっとも、『山の民』が我らの言葉を理解してくれていれば、ですが。とハリソンさんが続ける。


 ……不安しかない。ご対面の瞬間からマジでやり合う五秒前って展開だけは勘弁してほしい。


「『山の民』の様子を見る限り、文明的にもかなり発展していて理知的です。いきなり荒事にはなりますまい」


 ハリソンさん……信じるぜ? もとい、責任は丸投げしちゃうぜ? もちろん全力で頑張るけどさ?


………

……


「『山の民』の皆さんは、どんな人達なんでしょうね」


 ハリソンさんとのやりとりを思い出して不安感マックスな俺に、リリーちゃんが声を掛けてくれる。リリーちゃんも、ゾルデギルは初めてらしい。


 そもそも今回の交渉は、端的に表現すれば言葉が通じない原住民との交渉だ。当然危険が伴うので、本来ならリリーちゃんが同行すべきではない。


 今回に関しては、オルブライト辺境伯の娘であるリリーちゃんが、俺の『大賢者』とやらの身分を保証するために、同行してくれているそうだ。つまりは、俺に箔をつけるために来てくれているというわけだな。


 ……言葉が全く通じてなかったとしたら、箔もクソもない気がするのはスルーしておこう。胃が痛くなりそうだし。


 俺の内心の不安をよそに、馬車はのんびりまったりと進む。


 あぁ……のどかだねぇ。 


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