~ 第八話 森は高級食材の宝庫でした
翌日、俺はジョンさんとサリーちゃん、そしてアルミンと一緒に、採集に出掛けることにした。ジョンさんが色々教えてくれるという話をどこからか聞きつけたアルミンが、自分も行きたいと手を挙げたのだ。
まぁなんとなく、情報源は分かる。おそらくサリーちゃんから聞いたんだろうな。
サリーちゃんが一番イジっている……仲良くしているオークがアルミンなんだ。誰からも愛される男、アルミンである。近い将来ジョンさんにもイジられていることだろう。
『ぶぎょぶ! ぶきゅう!』 (楽しみだなー、アルト!)
一体こいつはサリーちゃんから何を吹き込まれたのだろうか。テンションの上がり方がスゴイ。まぁ、楽しんでいるならよしとするか。
しばらく森の中を進む。人数的にも戦力的にも大丈夫だろうということで、今日は森を奥へと進んでいる。サリーちゃんもこちら側に来るのは初めてだ。
「はぁ……この実にしても結構貴重なんだぜ? わんさか生ってるじゃねぇか」
そう言いながらジョンさんが手に取っているのは、桃っぽい味のする薄紫の木の実だ。はっきりいって、この辺りの森ではそこら中に生えているようなものである。
――なんで、このみが、きちょうなの?
「ん? この実って美味いだろ? 高級フルーツっていうか、お偉いさん方はこういうのを好むんだよ」
言われてみれば、前世でも桃は少し贅沢な果物だった気がする。これが桃なのかどうかは別として値が張る果物だと言われれば、分からないでもない。
「ある程度、森を深くまで入らないと採れないってのも、貴重な理由だな」
ジョンさんの説明に納得する俺。ちなみにサリーちゃんとアルミンは、さっそく桃もどきをゲットして、ムシャムシャと食べていた。アルミン……皮剥いてもらったのか。よかったな。
なんだか見ていると俺も腹が減ってきた。なので、近くに生っている、桃もどきとは違う種類の実を獲って食べる。
桃もどきも美味いけど、この実も美味いんだ。なんか口がシュワシュワするんだよね。
「……ちなみに、今アルトさんが食ってる実、毒があるんだけどな」
嘘だぁ! この実、しょっちゅう食ってるぜ? 全然大丈夫だぜ?
「……オークってのは、ほんと丈夫なんだな」
呆れたような声を出すジョンさん。……えっ、マジで毒あんの? 冗談じゃなくて?
「ちなみにその実、俺たちが食うと舌が痺れて、息が苦しくなる。あと、下痢」
あっ、ほんとにダメなやつだ。食べ過ぎたら死んじゃうんじゃね? 恐ろしいな……まぁ、食うけど。
「おーい、サリー。俺にも『ピルミー』一個くれや」
桃もどきは、『ピルミー』というらしい。うーむ……オークにとっちゃ、ただの紫の甘い実だからな。いちいち名前なんか覚えてられねぇよ。
にしても……犬が桃食ってる光景って、なかなかにシュールだな。
元日本人としては、あんたが食うのは桃じゃなくてきびだんごだろ、と言いたくなってしまう。猿とキジはどこ行ったんだ?
桃もどきを食べつつ、森をさらに進む。色合いは毒々しいけれど、食ってみると美味い実がそこらに生えている。ただ、ジョンさんは華麗にスルーだ。……やっぱ、毒あんのか?
「……おっ! アルトさん! この辺りがコショウの実だぜ」
この森の中にあるにしては地味な実だ。小さい緑色の実が細長い房状に連なっている。サイズとしては、BB弾くらいか? この小ささゆえに、オークはスルーしてきたわけだ。腹の足しにならんからな。
ちなみにこの実、熟すと赤くなるそうだ。
緑の段階で収穫するか、赤くなってから収穫するかで、ブラックペッパーになるかホワイトペッパーになるかが変わるらしい。そもそもペッパーにホワイトがあるという事を知らなかったぜベイビー!
「おっ! 『肉の恋人』もあるじゃねぇか」
ジョンさんや? なんだいその北海道土産みたいな名前は?
視線の先には、コショウの実よりもさらに小さい、白い実が生っていた。なんだろう……小さい花だと言われれば、そう思ってしまうようなフォルムをしてるな。
「アルトさん! こいつは肉の下ごしらえをするのに最高なんだ。こいつを使えば、どんなに筋張った堅え肉でも、柔らかくなっちまう。しかも、肉の旨味まで引き立ててくれるんだ」
なんだよその反則みたいな調味料は! そんなもん、地球でも聞いたことねぇぞ? すげぇな! この世界はっ!
「こいつはなぁ……どこに生えるのかがイマイチ分かってないんだよな。それこそ街の近くでも、思いもよらないところに生えてたりするんだ」
そのくせ栽培するのは難しく、成功例はないとのことだ。
「この森、イノシシとかは出るのか?」
――たまに。
イノシシは、熊よりも圧倒的に数が少ない。
地球のイノシシと比べると、その特徴は無駄に顔がデカイことだ。はっきりいって、生き物としてのバランスを崩していると言えるほど、顔がデカイ。よくあれで、つんのめらないものだと感心する。
多分、俺たちオークと先祖は近いのだろうが、特に気にすることなく見つけたら狩っている。味はまぁまぁで、肉の量は熊より少ない。ゆえにそんなに旨味のある獲物ではない。
強いて言えば、異様にデカイ顔面がスゴイ勢いで突っ込んでくるその姿が、なんだかちょっとかわいいくらいのもんだ。
「そうか! こいつで下処理したイノシシの肉は最高なんだ。俺がこっちにいる間に、狩りてぇもんだな!」
なるほど! ジョンさんがそこまで言うのなら、是非とも狩ろう!
……あれ? サリーちゃんとアルミンは?
辺りを少し見渡してみる。……居たよ。
アルミンに、まるで『高い高い』をされているように抱きかかえられているサリーちゃん。どうやら高い所に生っている、ヤシの実みたいなやつを獲りたいらしい。
……サリーちゃん、馴染みすぎだ。アルミンを使いこなす姿が自然過ぎて、ジョンさんが半笑いじゃねぇか。
「オークは人間の女を襲う……信じていた昔の俺が、なんだかアホみたいに思えてくるな」
まぁあれだよな。都市伝説ってのはそういうもんだ。
信じるか信じないかは、貴方次第です。……出来ればオークに関する都市伝説は、信じないでください。女騎士に興味はないのです。




