~ 第四話 求ム! オークの社会進出!
「なんと! これは大物だ! アルト殿は腕のいい狩人なのだな!」
お話の前にまずは手土産を、ということで持参した熊を見せると、貴族様はいたく感動してくれた。
「私も狩りを嗜むが、これほどの大物はなかなかにお目にかかれない。いやぁ……実に素晴らしい!」
――よろこんでもらえて、よかった。
見た感じ、心から喜んでくれているので何よりである。いやぁ……持ってきてよかったよ、熊。部下の皆さんにドン引きされた時には、どうしようかと思ったね。
ニッコニコしながら熊の状態を確認している貴族様の向こうで、リリーちゃんが笑顔をこちらに向けてくれている。その側ではサリーちゃんが、『頑張れっ!』とジェスチャーを送ってくれていた。そんなに緊張してるように見えるのか、俺。
「閣下、それくらいに。アルト殿をお待たせしております」
「おぉ、これは失礼した。アルト殿、この熊だが解体に回してもよろしいか?」
もちろん問題ないので、俺は頷いて了承の意を示す。肉に毛皮、有効に使ってやってください。
部下の人達が熊を担ぎ、村から提供された解体場所に運んでいくのを横目に、俺たちはいつもリリーちゃんとお話をする場所へと移動する。
屋根だけがある吹きさらしの場所。俺としては牧歌的で好みだし、なによりわざわざこれを作ってくれた村人の皆さんの優しさが感じられるので、大好きな場所だ。
ただ、偉い人が座るには少し粗末な気もする。そういうところに細かい人じゃなければいいんだけどな。「俺をこんな所に座らせるとはなんたる無礼!」とかなったら邪魔臭いじゃん?
見た感じ、笑顔が崩れてないから大丈夫だとは思う。腹芸だったら知らん!
「改めて……イザーク=オルブライトだ。よろしく頼む」
――あると=ばいえるん、です。
すいません、名刺切らしちゃってて。……あっ、俺ってばオークだから、元々名刺なんか持ってねぇや!
……小粋な社会人ジョークなんだけど、誰にも響かなかったみたいだな。クスン……。
ところで、俺はこの貴族様をなんて呼べばいいんだ? オルブライト様か? それとも、ハリソンさんのマネをして閣下って呼んだほうがいいのか?
……とりあえず、無難にオルブライト様にしておくか。ファミリーネームに敬称を付けとけば、失礼にはならんだろ。さすがに閣下はちょっと恥ずかしいよ、元日本人としては。
グレゴールも自己紹介を済ませ、オルブライト様がその巨体にひとしきり感動した後、会談がスタートする。
「まずは、娘のリリーのことについてだ」
その言葉に、すでにピシッとしていたリリーちゃんの姿勢がさらに伸びる。
「娘の顔の火傷を治療していただいたこと、心から感謝する。我々ではどうすることも出来ず、もはや諦めざるを得ないと考えていたのだ」
あの悲惨な火傷を知っているであろう人達が、一様に暗い表情を浮かべる。
「女子にとって顔は命。娘の命を救ってくれて、本当にありがとう」
深々と頭を下げてくれるオルブライト様。男親の愛ってやつだな。改めて、リリーちゃんをちゃんと治療できてよかったなって実感するよ。
ただな、オルブライト様よ。
男にとっても顔は命なんだぜ? 不細工に悩んで、それがきっかけで美容外科医になった俺が言うんだから間違いない。命を救うことに、男女の違いなんか関係ないだろ。
――なおせて、よかった。
俺は素直に嬉しい気持ちを表現した。
※
ここから話は様々な方面に渡り、各種問題について熱い議論を交わした! ……なんてことにはならなかった。
そりゃそうだよな。だって俺、筆談だし。普通に話すのに比べたらどうしたってスピードは落ちる。しかも、まだ難しい言い回しとかは出来ないから、ニュアンスがうまく伝わらないこともあるときた。
一つ一つの話題に時間が掛かり、その結果、会談に流れる雰囲気はのんびりとしたものになる。
これも有りだろ? 少なくともいきなり言い合いなんかになるよりはよっぽどいい雰囲気だ。
ちなみに現在の話題は、俺の『大賢者』という称号について。
オルブライト様としては、公的に俺を『森の大賢者』として認めてしまいたいらしい。それくらいしなければ、人間社会がオークを受け入れるのは難しいとのことだ。
また、そもそも今回、オルブライト様が森まで出向いてくれるにあたって、『オークに会いに行く』という理由はどうにも都合が悪いらしい。貴族の矜持がどうのこうのと、他の貴族から突っ込まれかねないんだとさ。
なので今回の森への訪問に関しても、『森の大賢者』に会いに行く、という建前で来てくれたそうだ。さすがに行動を逐一監視されているとは思わないが、念のためということらしい。
元人間の俺としては、そのあたりの建前はよく分かる。社会人たるもの、本音と建前は大事なのだ。あと、社会的立場ってやつも。
ただ、生粋のオークであるグレゴールにはその辺りがよく分からなかったらしい。最終的には、俺が人間にとって『大賢者』になりうる偉大なオークなんだという結論に達していた。一体どこをどうすればその結論にたどり着くんだよ……俺はもう知らん。
「なので、出来ることならばアルト殿に、何か大賢者としてふさわしい功績を挙げてもらいたいのだ。リリーの顔の治療だけでは、対外的に少し弱い……」
オルブライト様の理屈は、大きくまとめるとこうだ。
一、俺が活躍する!
二、オルブライト様が、『マジ半端ないオークがいるんすよ! あいつってばマジ大賢者!』と吹聴する。
三、王族や他の貴族が、『マジで!? オークってそんなに半端ねぇの!?』となる。
四、オークと人間が仲良くなる。
まぁ、ここまで上手くいくかどうかは別にして、アピールをするってことは大事だよな。手柄を挙げて、それを元に有用性をプレゼンする。どこの世界でも新商品を認めてもらうためにすることは同じだ。気分はまさに、やり手の営業マンだな!
とはいえ、だ。いくら俺がやる気をだしたところで、すぐに活躍出来るってわけではない。
「ただ、オークであるアルト殿が携われる仕事となると、どうしても限られてしまう。現状、オークに恐怖を感じる人間の方が圧倒的に多いのでな」
そう、この世界ではオークの社会進出が進んでいないのだ。『人・豚雇用機会均等法』でも作って欲しいところである。豚にも仕事をくれぇー!
結論としては、オルブライト様とその部下の皆さんがしっかりと仕事を吟味し、決まり次第、俺に依頼してくれるということになった。
俺に出来る仕事だといいんだけどな。裁縫とかだったら……泣くぜ? マジで。




