~ 第六話 哀しき殲滅戦 ~
バトル回……上手く書けているのといいのですが。
では、どうぞっ!
呆気にとられる俺を尻目に、サリーちゃんが大きな声で叫ぶ。
「おーいっ! アルトがいたぞーっ! ここだぁぁっ!」
もしや集落のオークの誰かが近くまで来ているのかと周りを見渡す俺。残念ながら、近くにオークの気配は無い。クッソ……オークが大量に来たら、こいつらだって戦意を喪失したかもしれねぇのに。
「みんな探してくれてるからな! もうちょっとで助けが来るはずだからっ!」
そう言いながら、俺の側まで駆け寄って来るサリーちゃん。手に持ってるのは木の棒だ。丸腰では無いとはいえ、さすがに軽装備すぎる! ……サリーちゃんの投げナイフ貰ったの、俺だった!
『ゴギャゴガ! ゴガギャァァァッッ!』 (女だっ! 奪えぇぇぇっ!)
『ゴガッ!ゴガッ!ゴギャァァ!』 (殺せ殺せっっっ!)
ゴブリン達には、もはや冷静さなど欠片も残ってない。サリーちゃんを犯したいのか殺したいのかすらあやふやになっている。
今までの俺を囲うような陣形も捨て、一斉に襲い掛かって来るゴブリン達。四方八方から石が飛んでくる。
マズい!
俺なら痛いだけで済むけれど、サリーちゃんは大ケガしちまう! 彼女は人間の女の子だぞ!?
とっさにサリーちゃんに覆いかぶさるようにする俺。背中やら頭やらに石が何個も当たる。クッソ……大したケガにはならないとはいえ、全く痛くないってわけじゃねぇんだぞ!?
サリーちゃんをかばって動けない俺の身体に、ついにゴブリン達が到達する。
四方八方から殴りかかってくるゴブリン達。
どうやら、ナイフを使っている奴も何人かいるらしい。時々鋭い痛みが身体に走る。まだ死にはしないだろうけど、これが続くとさすがに辛い。たぶんもう、身体は小さな傷でいっぱいのはずだ。
ダメだ! 限界だ!
ナイフ持ってる奴が、背中をよじ登ってきたっぽい。首のかなり近くを刺された。この調子で首を何度も切られたら、さすがに死んじまう。
サリーちゃんを抱きかかえるようにして、俺は勢いよく立ち上がる。
幸い石の数も減ってきて、サイズも小さくなってきている。準備してた石が尽きてきたんだろう。……あんにゃろ! 俺の身体に当たって跳ね返ったやつを使ってやがる!
とにかく最優先すべきはサリーちゃんの無事だ。飛んでくる石が彼女の頭に当たらないよう、腕で防御しながら周りにいるゴブリンを蹴散らす。
数が多いっ!
蹴散らした先から、一斉にしがみついてくる。こいつら……俺を引きずり倒すつもりだ! クソっ! 何人いるんだよ!?
『ぶぎゃぁぁっっ!?』
この野郎!? 足の甲のところを、ナイフで刺しやがったな!? それはさすがに痛いよっ!
足を攻撃して、立ってられなくするつもりか? させねぇよ!
刺された右足を思いっきり振って、ゴブリンを振り払う。その隙に今度は左足に、大量のゴブリンが集まってくる。
もう、加減をしている余裕はない。サリーちゃんの頭を守っていた左手で、全力を込めて薙ぎ払う。
『ゴギャァァァァッッッ!』
五、六人のゴブリン達が弾き飛ばされた。そのうちの何人かは、首から上があらぬ方向に曲がってるので、もはや命は無いだろう。
そんなオークの圧倒的な怪力を目の当たりにしても、ゴブリン達は止まらない。それどころか、一層の殺意を剥きだしにしてくる。ダメだ……これはもう、どっちかが死ぬまで終わらない。クソッタレが!
諦めの心境で、再び腕を振り下ろそうとした俺の耳に、新たな声が聞こえて来た。
『ぶきゅう! ぶぎゃぁぶがっ!?』 (アルト! 大丈夫か!?)
大きな足音が森を揺らす。こんなに近くに来るまで気付かなかったほど、俺は切羽詰まっていたらしい。
『ぶぎゅう! ぶぎょふぎゅ!』 (グレゴール! 助かった!)
なんとかなるかもしれない。
だってそうだろ? ゴブリンからしてみれば、俺一人でも苦労していたところに、オークがもう一人現れたわけだ。しかも、そのオークはめちゃくちゃデカいグレゴールだ。
これで戦意が折れてくれれば、もう殺し合いなんかしないで済む。
『ゴヤゴブ! グギャゴブゴギャ!』 (チキショウ! アルトだけでも殺せっ!)
『ゴブゴフゴギャ!』 (女を奪えっ!)
そんな俺の淡い期待は、一瞬にして裏切られた。
すでに苛烈を極めていたはずの俺への攻撃が、さらに激しいものになる。
ゴブリン達も必死だ。もう後には引けないんだろう。
そして、そんな様子を見たグレゴールが、キレた。
『ぶぎゃぶ……ぶぎゃぶご!』 (お前ら……許さんぞっ!)
『ふぎゃ! ぷぎゃぶぎゃ!』 (待て! 落ち着けっ!)
俺の声は、誰にも届かない。
ゴブリン達にも、そしてグレゴールにも。
グレゴールの手には、オークお手製の斧がある。尖った石が太い木にくくりつけられただけの、斧とは言えないような代物だ。
当然それは、グレゴールの巨体に合わせて大きく作られている。先端に付けられた石は、もはや小さな岩だ。そのサイズは、ゴブリンの上半身と同じくらい大きい。
そんな物が、オークの中でも一番の怪力によって振り回された。
一瞬だった。
一瞬にして、ゴブリンが吹き飛んだ。今の一撃で、何人のゴブリンが死んだのかも分からないくらいだ。何人かのゴブリンに至っては、まるで上半身が爆発してしまったかのように、粉々になってしまった。
それでもゴブリンは止まらない。きっとこいつらには、目の前で仲間が木っ端みじんになったことすらもう、目に入ってないんだと思う。
いや……違うな。見ないようにしてるだけだ。
その証拠に、さっきまでは怒りと高揚感に溺れていたはずのゴブリンの目に、悲壮感が見える。泣きそうになってるじゃねぇか。
もう……止めろよ。
なんとしてでも、俺からサリーちゃんを奪おうとしてくるゴブリン達。
グレゴールが、斧を振り下ろす。
ゴブリンが潰れる。
振り払う。
吹き飛ぶ。
とうとう、俺に取りついていたゴブリン達がグレゴールの方へと向かい始める。
止めろって。勝てないって。
グレゴールはお前らを殺すつもりで来てるんだぞ? それに、お前らもう疲れちまってるじゃねぇかよ。数だって減ってるじゃねぇかよ。
無駄死にするんじゃねぇよ。……クソッタレ。
俺はついに自分の周りにいたゴブリン達を吹き飛ばす。掛値無しの全力で、殺すつもりで拳を振るう。
何人かをぶちのめして、相手の戦意を折る段階は、とっくの昔に過ぎ去ってしまった。こいつらはもう、全滅するまで止まることはないだろう。
下手に手加減をしたところで、大ケガをしてしまえばその先に待っているのは死だ。
ゴブリンにもオークにも医者なんかいない。ケガの痛みに苦しみながら、地獄のような時間をゆっくりと過ごして死んでいくだけ。
だったら、ひとおもいに死んだ方がまだマシだ。
残っているゴブリンは、もう十人もいない。そのゴブリン達もグレゴールに向かっていき、一人、また一人と肉の塊になっていく。
最後の一人になったゴブリンが、俺に向かって走って来る。その顔は、すでに血まみれだ。
『ゴブゴ……ゴギャゴグゴガ』 (お前さえ……お前さえいなけりゃ)
恨みの言葉と共に、俺に向かって弱々しくナイフを振り上げるゴブリン。
『……ぶごぎゅ』 (……すまない)
俺は拳を振り下ろす。
足元に転がるうつぶせになったゴブリンの遺体。その首だけが不自然にねじ曲がり、怒りと苦痛に歪んだ顔が俺を見据えていた。




