~ 第四話 とあるゴブリンの怒り ~
よろしくお願いします!
では、どうぞっ!
許せねぇ!
あのアルトとかいうオーク、絶対に許さねぇ! あいつが余計なことを言い出したから、人間の女が犯せなくなったじゃねぇか。ふざけてんのか!?
せっかく無傷の、それも具合の良さそうな女が手に入ったのに、俺たちに渡さないだなんて、いったいどういう了見なんだ!?
そりゃオークには感謝してるぜ? 俺たちじゃあ人間の女を生け捕りにするなんてマネは出来ねぇからな。
だけど、言っちゃ悪いがオークが連れてくる女なんか、だいたいは外れなんだっ! いつも傷だらけで、すぐに死んじまうような女ばっかりだ。
分かってるさっ! 人間だって必死に抵抗するんだろうし、ケガしちまうのは仕方ないだろうよ! オークの馬鹿力でふっ飛ばされて、死ななかっただけマシってもんだ。
だからこそ! 今、オークの集落にいるみたいな、まったく無傷な女が手に入るなんて滅多にないことなんだよ。あれならちょっとやそっとじゃ死なねぇぜ?
それなのに、あいつらはあの女を俺たちに寄越さない。使いもしねぇのに、自分達の集落に住まわせてやがる。はっきり言って無駄遣いじゃねぇか。てめぇらで使うならまだしも、なにもせずに放っておくって意味が分からねぇ。
馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だとは思ってなかった。自分達を殺しに来た人間を集落で匿って、へらへら笑ってやがるんだぜ? 頭おかしいんじゃねぇのか?
人間と仲良くするだぁ?
あいつらは俺たちを殺しに来てるんだ。そんな奴らと仲良く出来るわけねぇだろ。それどころか、舐められたら一気に滅ぼされるかもしれねぇんだぞ?
俺はゴメンだね! どうせ殺されるなら、少しでも人間を巻き添えにして死んでやるって話だ。
このナイフにしてもそうだ。
アルトの野郎は、人間と仲良くすれば、こういう便利な道具がもっと手に入るって言ってたけど、馬鹿だとしか思えない。
そんなもん、殺して奪えばいいじゃねぇか。このナイフだって、襲ってきた人間を殺して奪ったんだろ? 仲良くしなくても手に入るじゃねぇか。オークなら、普通にやれば人間なんざ殺せるだろ。
それでも足りなきゃ、人間の集落を襲えばいい。
俺たちゴブリンとオークで襲えば皆殺しに出来るはずだ。集落の人間を皆殺しにすれば、もしかしたらオークの馬鹿力でも使えるような道具だってあるかもしれねぇじゃねぇか。
あぁ、ちきしょう。女が欲しい。
ゴブリンの女もいいけど、人間の女はやっぱり格別だ。
俺たちゴブリンを下に見てるクソ女が、許してーって泣き叫ぶ姿が一番興奮するんだよ。許すわけねぇだろバーカ。
ムチャクチャにしてやるから最後には壊れちまうんだけど、それだって快感だ。生意気な人間の女を、俺たちの力で壊してやったっていう達成感があるからな。ざまぁみろって話だ。
オークの奴らめ、ふざけやがって。
あいつらだって、きっと俺たちを下に見てるんだよ。だから俺たちに何の相談もなく、人間と仲良くするなんてことを言い出したんだ。俺たちのことなんか何も考えちゃいねぇ。なんて勝手な奴らだ!
それに、爺さんも爺さんだ。
人間の女を襲うことさえ我慢すれば、ゴブリンは今みたいに簡単に死なずに済むようになる、とか言ってるけどよ。ふざけてんのか? そんなのどうなるかなんて分かりゃしねぇだろ。適当なこと言ってんじゃねぇよ。
オーク共から『ゴブ造』なんて訳わかんねぇ名前を付けられてご満悦なのかしれねぇけどよ? なんでゴブリンのくせにオークの肩を持つんだよ。あんたはオークじゃねぇだろ。
そりゃ爺さんは年だから、枯れちまってるんだろうけどな? 俺たちはまだまだ若いんだよ。てめぇは若い頃、人間の女を使って散々いい思いをしてきたんじゃねぇのか? それなのに、いまさら俺たちに説教してんじゃねぇよ。
腹が立つことばっかりだ。
ゴブリンの女どもまで、オークや爺さんの言ってることが正しいとか抜かしやがる。
人間の女が使えなくなった分、お前らが引き受けてくれんのかって話だ。身体壊しても知らねぇぞ? 俺たちは、ゴブリンの女のことを考えてやってるのによ!
オークには、普段からお世話になってるんだから、なんて寝ぼけたこと言ってる女もいたけど、冗談じゃねぇ。俺たちが世話してやってるんだよ。
畑に種をまいたりとか、そういう細かいことはからっきし出来ないじゃねぇか、あいつら。
そりゃ、肉を貰ったり、食料を分けても貰うこともあるけれど、それは当然の対価ってやつだ。人間の女をもらうのも、その対価の一つだったはずだ。
あぁ……あの女、具合がよさそうだったなぁ。ああいう小さい女は、締まりがいいんだよ。それに、なんか生意気そうな顔してたしな。犯してぇなぁ。ムチャクチャにしてぇ。
……殺すか、あのオーク。あいつさえいなきゃ人間と仲良くなるなんて話、消えるだろ。
まともにやりゃあ、俺たちじゃあオークは殺せねぇ。あいつらクソ頑丈なうえに、馬鹿みたいに力が強いからな。
だけど、大勢で囲ったら、一人くらいなら殺せるんじゃねぇか? あいつに恨みを持ってるゴブリンは多いからな。それに、今ならナイフだってある。これを使えば、オークの分厚い皮膚も引き裂けるだろ。
あのクソオークさえ殺せば、オークの間抜け共も目を覚ますだろ。だって、人間よりも俺たちゴブリンとの付き合いの方が長いんだからな。普通に考えれば、俺たちを優先するのが当たり前なんだよ。
そうだよ……なんで思いつかなかったんだよ。単純な話じゃねぇか。
アルトを殺して、あの人間の女を貰う。
これから人間を殺したときは、ナイフがあれば拾ってきてもらう。そうすれば、俺たちゴブリンは便利な道具が使えるようになる。それはオークにとっても悪いことじゃねぇはずだ。
完璧じゃねぇか。なんで誰もこんな簡単なことに気付かないんだ?
まぁ、周りは馬鹿ばっかりだし、仕方ねぇか。
※
その知らせがオークの集落にもたらされたのは、集落に残ったオークが一日の仕事を開始し始めた頃だった。狩りや採集を担当するオークは、既に出掛けている時間である。
『ゴゴブフ、ゴブフ!?』 (アルトは……いるか!?)
一人のゴブリンが、息を切らせてオークの集落に駆け込んでくる。
『ぶきゅう? ……ぶぎょぶがぶひ?』 (アルト? ……もう森に入ったと思うけど?)
オークから返ってきた答えに、そのゴブリンはガックリと膝を着く。あまりの様子に、そのオークは何かあったのかと問いかけた。
『ゴブゴフゴブ……ゴゴブフゴフブ!』 (若い連中が……アルトを狙ってるっ!)
『ぶぎゃぶ?』 (狙ってる?)
『ゴブゴフゴブゴ!』 (殺そうとしてるんだ!)
切羽詰まったゴブリンの大きな声がオークの集落に響き渡り、オーク達は一斉に騒然となる。件のゴブリンは、さらに大きな声を張り上げて、状況を説明する。
彼曰く、人間の女を譲ってもらえなくなったことに腹を立てた一匹の若い雄ゴブリンが、その原因であるアルトを殺そうと考えたらしい。そうすれば、今まで通り人間の女を譲ってもらえるようになると言いだしたそうだ。
そして、多くの雄ゴブリンがその誘いにのったとのこと。どうやらその若い雄ゴブリンは、周囲の興奮を引き起こすことに長けていたらしい。
『ゴブゴフゴブ、ゴブゴゴブ、ゴブゴブホゴブ!』
(爺さんがなんとか止めようとしたんだけど……っ! どうしようもなくて)
火急を知らせに来たゴブリンが涙をこぼしながら言う。
ちなみにこのゴブリンも雄である。今回のゴブリンの暴動に乗らなかった、少数派の雄ゴブリンであった。
この時、アルトの命を狙って動き始めていた雄ゴブリンの数は総勢でおよそ七十匹。集落にいる雄ゴブリンのおよそ七割である。
ただし、ゴブリン自身はその正確な数を把握していない。彼らはそもそも、自分達が総勢で何人いるのかすら把握していないのだ。ゆえに、彼には漠然とした説明しか出来なかった。
『ゴブフブゴブゴゴ、ゴガゴブゴブゴフゴブ!』
(いくらオークでも、あれだけたくさんのゴブリンには殺されちまうよ!)
ただ、あまりにも必死なそのゴブリンの様子に、オーク達も事の深刻さを悟る。
ちょっぴり風変りな、だけどオーク達にとっては欠かせないムードメーカーを救うため、彼らは森へと向かう。集落に残るのは、ケガなどで森に入ることが出来ない者だけだ。
ほぼ誰もいなくなった集落には、書きなぐった文字が残されていた。まるで巨大な身体をした幼児が書いたかのような、お世辞にもキレイとは言えない文字。
――あると、ごぶりんに、ころされる。
その隣には、慌てて走り出したかのような小さな足跡が残されていた。
ゴブリンの身勝手さ。それは、『相手の善意でしてもらっていた』はずの事が、いつの間にか『してもらって当然』であるかのように錯覚してしまったことにあります。
最初は感謝していたはずなのに、いつの間にか図々しくなる。それこそ、『なんでしてくれないんだ!』なんてことを言ってしまうほどに。
そういった心情を描けていればと思います。
それでは次話もよろしくお願いします。
香坂蓮でしたー。




