~ 第七話 死んだ意味、生き延びた理由 ~
よろしくお願いしします。
では、どうぞっ!
……なんだか、光が見える。
ここ、どこだ? 目を開けるのもめんどくせぇ。……身体、痛いなぁ。床、堅くねぇか?
しゃぁない、起きるか。うーん……藁? 屋根なのか? なんか、ボロイところだな。どこだよ、ここ。
『ぶご?』
「うわぁぁぁあぁぁあぁっ!」
『ぷぎゃぁーっ』
オーク!? なんで!? 逃げねぇとっ!
身体を起こそうとした俺は、そこで初めて気付く。
「……っ!? 縛られてる!?」
たぶん、なんかのツタだ。それにしちゃ太すぎるけど、少なくともロープには見えねぇ。クッソ……がっちり縛ってやがる。
目の前にはオークが座り込んでいる。ってことは、ここは……オークの家か? なんでこんなところに居るんだよ、俺は!?
少しでも距離を取ろうと後ずさりしているうちに、だんだんと記憶が戻って来る。……そうだ。俺達は、オークの討伐に失敗したんだ。
………
……
…
今、自分がどういう状況に置かれているのかを把握した俺は……絶望した。
ハロルド、ジャック、ステファン。みんな、オークに殺されちまった。元の形が分からないくらいに、潰されちまった。
ルーシーは……自分で自分の命を絶ったんだろう。最後に見た時、ナイフで首を切ってたはずだ。女の身でオークに攫われるくらいなら、そうした方がマシだ。
薄情なことに、涙すら出てこねぇ。現実感が無くて、あれ悪い夢の中の出来事だったんじゃないかとすら思う。
でも、これは夢じゃない。目の前には、みんなを殺したオークがいる。
ルーシーが命を捨ててでも避けたかった状況だ。この先に待ってるのは、死ぬよりも辛い、オークに犯され続ける未来だ。
なんで……死ねなかったんだ。
どうせなら、みんなと一緒に死なせてくれよ。
役立たずがチームの足を引っ張ったからか? その罰なのか?
死んだ仲間のことを想った時には出てこなかった涙が、今さらになって溢れだしそうになる。泣くもんかっ! 仲間のために泣いてすらないのに、自分のために泣いてどうする!
必死で涙を堪えて睨み付ける俺に、オークが近づいてきた。あぁ……いよいよ、犯されちまうのか。
「……えっ」
この期に及んで諦めきれず、身体を固くする俺の目の前で、オークが意味不明な行動をとる。地面に指を這わせて……これは、字か?
――ぼくを、あるみん、です。
これは……もしかして自己紹介なのか? 間違ってるけど、意味が伝わらなくもない。すごく汚い字にも見えるし、偶然生まれた、ただの模様にも見える。
――なまえ、おしえる?
……偶然じゃないよな、これ? たぶんだけどこのオーク、俺たちの字が書けるんだ。たどたどしいってか、所々間違ってるけれど……それでも俺たちの言葉が分かるんだ。
名前……言うべきか? そもそも俺の名前なんかを聞いてどうなる? 犯す前に、相手の名前くらい知っておこうってか? クソ……思い通りになんか、なってやるかよ。
その後も、いくつか質問をされたけど、俺は答えなかった。こいつはみんなの仇だ。そんな奴と話すことなんか何もない。怒らせたところで、もう知ったことか! 犯すなら、とっとと犯しやがれっ!
「……っ!」
突然入ってきたオークに、俺は目を見開く。
こいつ……一匹じゃなかったのか? もしかして、オークが群れを作ってるのか?
そういや、外からずっと音がしてたけど、もしかして足音だったのか? だとしたら……二、三匹どころの数はねぇぞ。
『ぶご?』
『ぷぎゅうー! ぶごぷぎゃぶごー』
二匹のオークが、鳴き声をあげる。俺にはそれが、話をしているように見えた。
馬鹿らしい、と一瞬思う。聞こえてくるのは、意味などあるはずもない豚の鳴き声だ。喋っているはずがない。
でも、さっきオークは字を書いていた。だったら、オーク同士で喋ることだって、出来るのか? もう、わけが分かんねぇよ。
今まで俺を見張っていたオークが出て行き、新しいオークがまた、地面に字を書く。その字はさっきのオークよりも読みやすく、明らかに丁寧に書かれたものだと分かる。
――はじめまして。あると=ばいえるんです。おなまえは?
さっきのオークが書いていたものよりも、難しい言葉遣い。オークがここまで頭が良かったなんて。
っていうか、こいつは一体なんなんだ?
さっきの奴が俺を捕まえたオークだとしたら……交渉役か? ってか、そもそもさっきの奴が俺を捕まえたオークなのかすら、怪しくなってきたぞ。
こういう時……ジャックだったら、うまくやったんだろうな。あいつは頭がよかったから。上手くオークをだまくらかして、この場から逃げ切ったんじゃねぇかな。……俺には、無理だなぁ。
そんな俺に、オークは続けて字を書いていく。
――しばらく、きみをつかまえていないといけない。
――だけど、きみをころすつもりは、ない。
殺され……ない? 嘘だろ?
一瞬安心しかけた俺は、現実を思いだして失望する。
……そんな都合のいい話、ねぇよな。
そうだよ、殺されはしねぇだろうよ。……死んじまった女は、犯せねぇからな。
そんな俺の様子をみていたオークは、なにかに納得したような様子を見せてから、もう一度何かを書き始める。
――きみを、おかすつもりもない。
その言葉に、今度こそ力が抜けた。
真っ暗だった俺の心に、光が差し込んできたみたいだった。
期待しちゃダメだ。そんな旨い話があるわけがない。いくらそう思っても、心の中の弱っちい俺は、その希望にすがってしまう。
「……本当か?」
『ぶご』
俺の問いかけに、返事をするかのように頷くオーク。そのあまりにも人間っぽい仕草に俺は脱力する。
なんだよ……オークは魔獣じゃなかったのかよ。人間の女を見つけたら見境なく襲い掛かって来る、理性のない化け物だったんじゃねぇのかよ。
俺たち人間と変わらねぇじゃねぇか。獣人と何が違うっていうんだ。
そこまで思い知らされて、ようやく気付く。
さっきのオークも、そしてこのオークも、ずっと俺のことを気遣ってくれていたんだ。俺の不安を取り除くために、頭を悩ませてくれていたんだ。
なんだろうな……もう、なにがなんだか分からねぇよ。いろんな感情が、ごちゃごちゃに混ざってやがる。
もしかして……みんな、死ぬ必要なかったんじゃねぇか? だって、普通に話が通じるんだぜ? いや、元々オークを追いかけなければ死なずにすんだんだけど。
それに俺、これからどうなるのかなぁ。犯さないんだったら、なんで生かしてくれてるんだろう。
俺はどうすればいいんだ? ダメだ……もう涙が我慢出来そうにねぇや。




