~ 第一話 ミニブタはペットである。害獣ではない。 ~
第七章、スタートでございます。
それでは、どうぞっ!
リリーちゃんと再会を果たし、人間の村での座談会で盛り上がったあの日から、かなりの月日が経った。
……相変わらずオークは、アバウトにしか日数をカウント出来てないんだな、って思ったろ? そう思っただろ?
甘い! 綿菓子よりも甘いぜ! いつまでもオークが進歩しないと思うなよ?
あの座談会の日から数えると……だいたい、四か月くらいが経っている。ふはは! どうだっ! 具体的だろうっ!
まぁ、種を明かすとなんてことないんだけどな。
あの日、リリーちゃんと約束をしたんだ。これからは定期的にこの村で交流を深めていきましょうってな。
そしてその後は、だいたい一か月に一回のペースでリリーちゃんが村まで足を運んで来てくれている……らしい。そして、こないだ四回目の交流会があったってわけだ。
……えっ? 結局日付に関しては人間に丸投げじゃねぇか、って?
そうだけど、何か? 誰かに頼ることって、大切だと思うよ?
………
……
…
さて、四回もお話をしていれば、色々な話題も出てくる。何から話すかな。
よし、まずは教科書のお話だ。
人間用の教科書を巨大化させた本も、かなり冊数が増えて来た。ありがたい限りだよ、毎月本当に。特に最初はどう見ても手書きだったからさ。労力もかかっているんだろうなって。
ただ、二か月目には印字っぽいものに変わっていた。どうやら印刷技術はあるらしい。
っていっても、たぶん判子みたいなモノを手動で押しているって感じだな。文字の列にズレが見えるし。タイプライター的な物は無いらしい。
大急ぎで作ったんだろうな……オークサイズのデカい判子。ほんと、苦労かけてます。
おかげ様で俺の語学能力もだいぶ向上してきた。少なくとも、小学校高学年レベルにはなっているはずだ。それはすなわち、簡単な言い回しで良ければ、言いたいことをほぼ伝えられるレベルだ。
あと、集落のオーク達の中にも、人間の文字を学んでくれている奴が増えて来た。やってる本人は遊び感覚っぽいけどな。それくらいの方が上達も早いってもんだよ。
そうそう……その教科書から、衝撃の事実が発覚したんだよ。
その事実とは……ずばり、『獣人』だ。
例文にさ、当たり前でしょ? みたいな顔して登場してくるんだよ、この『獣人』って言葉。最初にこれを見た時はさ、「あぁ、きっと俺たちオークも獣人なんだろうなぁ」なんて思ったわけさ。
でも、何かがおかしい。
教科書に出てくる獣人さん、みんな人間社会で暮らしてるんだよね。俺たちみたいに森で暮らしてるような奴がいないわけよ。いつまでだってもキュートな豚さんの姿も出てこないしな。
そこで思い出したわけ。……そういえばオークって、『魔獣』って呼ばれてなかったっけか? ってな。
なので、その疑問をリリーちゃんにぶつけてみた。教科書に出てくる『獣人』という言葉を指さし、次に自分自身を指さす。
すると、リリーちゃんは申し訳なさそうな顔をしながらも教えてくれたんだ。悲しい真実を。
『獣人』は、動物的な特徴を持ちながら、人間社会で暮らしている種族のことをいうらしい。そして、その大きな特徴として人間の言葉を話せることが挙げられる、とのこと。
たとえば、二族歩行の犬ことジョンさん。リリーちゃんの護衛のうちの一人だな。
彼のような、犬の特徴が出ている種族のことを、犬人族というらしい。そして、この犬人族は人間の言葉を喋れる。だから彼らは獣人だ。当然、人間のコミュニティーで暮らしている。
他にも、二足歩行の猫と二足歩行の鳥がいるらしい。犬、猫、鳥。これら三種族が『獣人』ということだ。ちなみに犬人族以外の二種族は、それぞれ猫人族と翼人族というらしい。
そして、俺たちみたいに言葉が喋れず、人間社会に参加していない奴らを何というか。
『魔獣』だ。
魔力により、動物的特徴を有したまま進化した害獣、ということらしい。要は、俺たちオークは質の悪いイノシシみたいな扱いってわけだな。無駄にデカイし、力は強いし、肉は不味い。最悪じゃねぇか。
けどさ? 別に人間様の農作物を荒らしたりなんかしないぜ? 害獣扱いは酷いよな。
ちなみに、オーク以外にも魔獣に分類される種族は複数いるとのこと。他にはどんなのがいるのかねぇ……不遇な動物シリーズ。
しかし、豚は害獣で、犬や猫は獣人ときたか。
……あれか? ペット枠なのか? 地球でペットとして人気だったから、こっちの世界では人間の言葉を喋れるのか? ペット特権なのか?
だったらさ!? ミニブタをペットで飼ってる人だっているじゃねぇかよ! 俺たちもペット枠に入れてくれよ、神様! せめて家畜枠には入ってるだろ、絶対!
……しかし、ペット枠か。ってことは、二足歩行のハムスターとかウサギとかもどこかにいるのかね? あとは……熱帯魚?
ウサギといえばバニーちゃん。これは熱い! 是非お会いしたい! 網タイツを履いてもらいたい!
……ゴメン、やっぱ無しだわ。
犬人族のジョンさんから推測する限り、ウサギ人族が居たとしても、その姿はほぼウサギなはずだ。ウサ耳をつけた人間のお姉さんを期待するほうが間違ってる。
おそらく、二足歩行のモフモフなウサギが出てくることだろうよ。網タイツから溢れる、モフモフの毛。うーん……無いな。
そんな、残念なバニーちゃんの図を想像していると、頭の中から声が聞こえてくる。
(マスターは、バニーちゃんが好き、と)
いつもからかわれている気がするので、ここはあえて無視してやろう。
(……ちっ!)
イブさん!? 今、舌打ちしたよね!? ほんと、怖いスキルだよ。次会う時が超怖いんですけど?
……あっ、ちなみにだけど、翼人族は空は飛べないみたいよ? 翼を使ってグライダーみたいに滑空するのが限界なんだって。
豆知識って、なんか得した気分になるよな。