~ 第八話 未来予想図 ~
このお話で、第六章が終了です。
では、どうぞっ!
「リリー様……いったい、どういうおつもりですか?」
いつものメイド服ではない、簡素な服に身を包んだアガサが、泣きそうな顔でそう問いかけてきます。ここ最近、周りの人に心配をかけっぱなしでとても心苦しいです。
「伺っていた話と違います。森に住むだなんて……何を考えているんですか?」
日中、アルトさん達とお話をしている時、私はアルトさんに思い切ってお願いしてみました。
――いつか……森に家を建てて、そこに一緒に住みませんか?
他の誰にも言ってなかった、私の未来予想図。本当ならば、もっとオークの皆さんと関係性を深めてから申し入れるつもりでした。
しかし、久しぶりにアルトさんに会い、変わらないその人柄に感極まってしまったのです。……まだまだ未熟ですね。
「落ち着きなさい。何も今すぐに森に住むというわけではないのですから」
「当たり前ですっ!」
怒られてしまいました。
無理もありません。
予定では、今後、定期的にこの村でお会いする機会を設けられないかと提案するつもりでした。何度も顔を合わせることで、私達とオークのみなさんとの間に信頼関係を築いていきたいと。
ですが、私がオークの皆さんに会いに来る度に、この村に迷惑をかけるのは忍びないことです。
オークが村にやって来るというのは、やはり心労が溜まることでしょう。特に女性は、いくら大丈夫だと説明されても、不安に感じるはずです。
また、貴族である私が来訪し、今日のように一泊させてもらうということも、かなりの負担になるはずです。気を遣うなという方が無理な話なのですから。
ならば、いつか森の中に家を建ててしまい、そこに住んでしまえばいいと思ったのです。そうすれば村の人達に迷惑を掛けることもありませんし、なにより私達が本気でオークと仲良くなりたいんだという気持ちを示すことが出来ます。
オークのみなさんに信頼してもらうためには、まずはこちらが歩み寄る姿勢を見せなければならないと、私は思うのです。
出来ることならば私は、アルトさんと一緒に暮らしたい。二人で仲良く暮らしていく姿を見せることが、人間にとってもオークにとっても、安心できる材料になると思うのです。私達は、共存出来るのだと。
「お気持ちはよく分かりました。ですが……森に住むのがリリー様である必要は無いじゃありませんか。あまりにも危険です」
「危険だからこそ、私が住まないと。貴族である私が森でオークと共に暮らす。それは少なくとも、私達人間には大きな衝撃をもたらすはず。固まってしまった価値観を変えるためには、それくらいのことが必要だと思うの」
なにより、まるで誰かを生贄に捧げるようなやり方は、したくありません。私がアルトさんを、そしてオークのみなさんを信頼しているから、自分の意思で共に暮らす。あくまでも自発的な行動でなければならないのです。
あと……アルトさんのことをもっと知りたいという想いも少しあります。恥ずかしいので、表には出しませんが。
「まずは、何度もこの村に足を運び、オークの皆さんと信頼関係を築くことです。簡単なことではないでしょう。それが上手くいってから、私が移住するか否かの判断すればいいんじゃないかしら?」
そんな私の提案に、ため息で応えるアガサ。
「リリー様……言い出すと、聞かないじゃないですか。心の中ではもう、答えが出ているんでしょう?」
そんなことはありません。出来るだけ、周りの意見は聞くようにしています。ただ、譲れないものがあるというだけです。
「とりあえず! このことは、旦那様には報告させていただきますからね!」
怒ったようなアガサの声を共に、この話は終わるのでした。
………
……
…
夜が明けました。
アルトさんとグレゴールさんは、昨日のうちにオークの集落へと帰っています。そして、私も今から屋敷へと戻ります。
「村長さん。色々を気を遣わせてしまって申し訳ありません。また、今後もご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「と、とんでもないことですじゃ! 何もない村ですが、是非またお越しください!」
村長さんは、私が貴族ということで、とても恐縮してくださっています。それは当たり前のことなのかもしれませんが、なんだか少し寂しいのも事実です。いつか、普通にお話が出来るようになればと思います。
そして私は、あまり言いたくはない、けれども言わなければならないことを口にします。
「これから私は、オークと信頼関係を築いていきたいと思っています。それはつまり、今はまだ、信頼関係が出来ていない、ということです」
村人が森に入り、出会ったオークがアルトさんならば、なんの問題もありません。
しかし、もしもそのオークが、人間のことを嫌っているオークであったとしたら。
「不用意にオークに近付くことは、これまで通り避けて下さい。まだ、危険ではないとは言い切れませんので」
私のこの言葉が、もしかすると人々のオークへの恐怖心を掻き立ててしまうかもしれません。ですが、これは貴族の娘として、領民の皆さんを守るために言わなければならないことなのです。
「分かりました。村人一同に徹底するよう、お約束します」
恭しくお辞儀をしてくださる村長さん。そんな彼にお礼を告げて、私は村を後にする準備を始めます。そんな私に、村長さんの声が届きました。
「いつか……オークと仲良く出来る日が来るといいですな」
静かな声が、胸に染み込みます。その言葉は私にとって何よりも嬉しいものでした。
これからも一歩一歩、より良い未来へと進んでいきたいと、改めて強く思うのでした。




