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ビューティー・オーク  ~ オークになった美容外科医、世界を変える ~  作者: 香坂 蓮
リリーさん……あなたの護衛の犬について、話があるのです。
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~ 第五話  ただいま交渉中 ~

よろしくお願いします!


では、どうぞっ!

「改めまして、私、リリー様を守護する騎士、ハリソン=ホーガンと申します」


「同じく、ジョン=シートンだ……です」


 犬の人よ。別に喋り方、普通でいいぜ? 無理して丁寧に喋らんでも……と伝えたい。クソ、単語が出てこねぇ。学生の頃の英作文の時以来の苦しみだ。辞書をくれー!


 とりあえず、こちらももう一度挨拶を返そう。あと、グレゴールの紹介もな。


 まずは、さっき書いた自己紹介の文章の自分の名前を指さしてから、俺を指さす。


「ふむ。あなたが大賢者、アルト=バイエルン様なのですな」


 大賢者では無い事をツッコミたい。しかし俺に、ツッコミの技量が足りない! なんでやねん! って叩いたら、たぶんボケ担当の首が飛んじゃう。


 俺はグレゴールの事を指さしてから、もう一度、地面に文字を書く。多分、綴りもこれで合ってるはずだ。


――ぐれごーる=どぅーぜ


「なるほど。こちらの方は、グレゴール=ドゥーゼ殿とおっしゃるのですな?」


 そうそう! 伝わってよかった! あと、グレゴールの家の名前、これで合ってて良かった。さて、次は俺たちのフルネームから、名前の部分だけを丸で囲んでっと。……伝わらないか? 頑張れっ!


「……! あぁっ! 下の名前で呼んでくれってことか!」


 犬さん、正解! なかなか良い勘をしてるじゃないか。大賢者が褒めて遣わそう。……調子にのりました、ごめんなさい。


「では、アルト様、グレゴール殿と呼ばせていただきます。よろしいですかな?」


 よろしくない! 何故に俺だけ様付けなんだ。……大賢者だからか。


 首を横に振って否定の意思を示してから、地面に『様』と書いてそれをバッテンで消す。綴り……間違ってたらゴメンな。


「あぁ……自分だけ『様』付けは嫌だってか?」


 イエス! ナイス! さすがはドッグ! 

 

 サムズアップは、地域によっては失礼な意味になるって聞いたことがあるから、ひとまず首を思いっきり縦に振っておく。ヘビーメタルのコンサート並みだぜ、ベイビー。


「ジョン! 言葉遣いに気をつけろ!」


「だってよ? この大賢者さん、普通に喋っても怒りそうにないっていうか、むしろ普通に喋って欲しそうだぜ?」


 そうそう、怒らないよー。気楽に喋ろー。仲良くなろー。


「ほらな? ハリソンさんも、普通に喋ればいいじゃねぇか」


「お前と言う奴は……! えっと、すいませんアルト殿。お気遣いに感謝します。この者、言葉遣いは荒いですが、どうかご容赦ください」


 うむ、苦しゅうないぞ。

 

 しかしハリソンさん。苦労性なんだなぁ。見た感じからして、しっかりしたおじさんだもん。中間管理職タイプって感じか? 雰囲気だけで言えば、霞が関とかで働いてそう。まぁその割には髭と筋肉がヤバいけどな。


「さて、アルト殿。今日は、リリー様に会うために、こちらまで出向いてくださった、と考えて間違いはないですか?」


『ぶご』 (はい)


 ……返事しても伝わらないんだった! 怪訝そうな顔されちゃったよ! にしても、いちいち首振って返事するの、しんどい。肩こっちゃう。


「リリー様は、この先の村に滞在しておられます。私達は、アルト様を迎えに参りました。ただ……お連れの方がいるとは想定していなかったもので」


 本当かぁ? 絶対、連れがいるパターンも想定してただろ、この人だったら。要するに、「一人で来い」ってことを、オブラートに丁寧に包んで言ってるって理解で間違いないだろ、これ。


 ……心が読める豚。メンタリスト・アルトの誕生だな。


「アルト殿お一人で同行いただくことをお願いしたいのですが?」


 ……せっかく心を読んだのに。二秒後に答え合わせって、ひどくね? もうちょっと名探偵気分ってやつを味わいたかったのにさ。


『ぶぎょぶご』 (それは認めん)


 グレゴールの低い声。


 少し怒っているような声だが、残念ながらその言葉は、人間には伝わらない。伝わっていないことを悟ったグレゴールは、俺のマネをして首を横に振ることで、意思を伝える。


「ならば……失礼ですが、身体の一部を拘束させていただくことは可能ですか?」


『ぶご……』 (それは……)


 ちょっと嫌だよな。


 まだこの人達が、本当にリリーちゃんの遣いなのかどうか、完璧に確認出来たわけじゃないんだから。首輪とかつけられて、そのまま出荷されちまったら悲劇だろ。


 首を横に振って、否定の意思を示す俺。ハリソンさんは、難しそうな顔をしている。


「あぁ、アルトさんよ? ぶっちゃけた事を言うぜ?」


 ジョンさんが口を挟む。……犬が喋ってる。違和感が半端ない。レントゲンとか撮ってみたい。


「俺たち二人は……割と強い。二人で戦えば、たぶんオークのあんたでも、殺せるはずだ。大賢者ならではの魔法でも使われない限りはな」


 止めようとするハリソンさんを制して、喋る犬。……ダメだ。絵面がシュール過ぎて集中出来ない。なんで名前がジョンなんだよ! もうちょい犬っぽくない名前にしてくれよ!


「ただ、相手が二人となれば……苦戦するだろう。ケガくらいはするかもしれねぇな。つまり、リリー様を完璧に守り切れない可能性が出てきちまうってわけだ」


 ほうほう。この言い方だと、ほんとはすげぇ強いんだろうな。まぁ貴族の娘さんを護衛するために来たんだとしたら、納得も出来る。


 しかし、やっぱり護衛って大変なんだな。いくら相手より強くても、護衛対象をケガさせちゃアウトなんだから。……いや、襲わないよ? オーク、優しいよ?


「ちなみに、あんたらが三人以上で来ていた場合は、顔を見せることすらせずに逃げるつもりだったんだぜ?」


 あちら側の内情を打ち明けてくれるジョンさん。……ハリソンさん、横で頭抱えてるよ。大変だなぁ。


「ってなわけで、こっちとしてはあんたがリリー様を襲わないっていう保証が欲しいわけだ。……なんとかならねぇか?」


 うーん。こいつは難題だな。

 保証ったって、俺に何が出来るよ? 保証書でも書くか? ……書いてみるか。


――おーくは、ひとをおそいません。


 どうだ! これが俺の切り札じゃい! めっちゃ練習したんだぞ?


 ……あれ? なんか、風が冷たい。もしかして……滑った、俺?


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