~ 第四話 犬の神様め……ズルいぞ!? ~
土曜日なので二話目を投稿。本日一話目をまだお読みでない方は、ご注意ください。
では、どうぞっ!
夜が明けて、俺とグレゴールは森を浅い方へと進む。『共鳴の真珠』は変わらず、いや、さらに光を増していた。
正直、生きた心地がしない。
クマより大きい、オークな俺。俺より大きい、スーパービッグなグレゴール。
そんな巨体が、隠れられるはずもない。間違いなく、相手に先に見つけられるだろう。もし敵対していた場合、いつ奇襲を仕掛けられてもおかしくはない。
今のところ、人間の匂いはしないし、変な音も聞こえてこない。ただ、人間の中でも強い奴らは、オークに気付かれることなく不意打ちをかますことが出来るらしい。……忍者かよ。勘弁してくれ。
一歩踏み出す。さらに真珠が明るくなった……気がする。
『ぶごが……ぶぎゅる』 (近いぞ……グレゴール)
『ぶ? ぶごご』 (あぁ? すまん)
『ぶぎゃ、ぶごぶがぶぎょ、ぶごふぎゃぶぶが!』 (いや、お前が近いんじゃなくて、人間が近くにいるぞ、って意味だよ!)
そっと俺から距離を置くグレゴールに、思わずツッコむ。
別にいまさらオークがパーソナルスペースに居たところで、何も感じやしねぇよ! 俺だってオークだしな! このタイミングで天然な発言をしてくれるな! 集中力が切れるから!
そんな俺の鋭いツッコミボイスに、木の向こうからガサガサと音がした。
一気に警戒感を強める、俺とグレゴール。
草陰から現れたのは、一人の人間と、ペットの犬だった。ただし、犬まで二足歩行なう。身に着けているものは、泥やら草で汚してある。なるほど……あれで匂いを消してるわけね。
ところで、あの二足歩行をする犬は何度か見たことがある。たぶんオークの犬バージョンなんだろうと勝手に思ってる。だって、顔なんか完璧に犬なんだもん。モフモフしてるし。
……犬なら飼ってくれるのに、豚は飼ってくれないって、差別じゃね? あれか? 猟犬的なことなのか? だったら俺だって探してやるぜ? キノコとか。
「失礼! その『共鳴の真珠』、オークの大賢者であるアルト=バイエルン様とお見受けするが、いかがか?」
今のところ、警戒心こそ感じるものの、敵意は感じない。そして、隣にいるグレゴールからの『えっ? お前、大賢者だったの?』っていう視線が辛い。
とはいえ知らんぷりをしてる場合じゃない。
『ぶご』 (いかにも)
と、大賢者っぽく頷いておく。……グレゴール、キラキラした目で見るのだけは止めてくれ。頼むから。
「ハリソンさん、気を付けてくださいよ?」
「あぁ……分かってる。とはいえ、礼を失するわけにもいくまい」
おそらくこちらに聞こえない声で話したつもりなんだろうけど……聞こえちゃった。オーク、耳がいいからさ。
……っ!? えぇーーっ!? おい、犬っ! お前、喋れんの!? なに普通に人間とお話ししちゃってるわけ!? ちょ……気のせいじゃないよね!? もっかい喋ってみて!?
「……!? 大賢者様、どうされましたか?」
と話しかけてくれる人間さん。俺のターゲットはあなたじゃない。隣に立っているワンコロさん。ロックオン! 注目! ガン見!
「あの……俺がなにか?」
喋ったよ……完全に人間の言葉だったよ。
マジか? 前に会った犬は、ガウガウ、ワンワン吠えてたじゃんよ? 吠えまくりながら森の中を追い回してくれたじゃねぇか。あれ、なんだったんだよ? あれか? 興奮したら吠えるのか?
えっ? その時の犬はどうなったかって?
結局逃げきれなくて戦いになって、お仲間の人間と一緒に殺しちまったよ。……なんかゴメン。
でも……よく考えたら人間を遭遇した時って、逃げるのに必死で誰が話しているかまで確認なんかしねぇもんな。そもそも犬が喋ると思ってねぇし。
……豚が色んな種族の言葉を聞き取れるんだったら、犬も豚の言葉が分かったりするんじゃね? これは、実験の価値がありますぞ! ってなわけで、レッツトライ!
『ぶごーぶごー。ぶぎゃふぎゃぶごー?』 (もしもーし。俺の言葉分かりますかー?)
「……? 何か話しかけてくださっているのですか?」
『ぶぎゃぶごー。ぶごふぎゃぶごー』 (あなたじゃないよー。犬さんのほうだよー)
「ハリソンさん。このオーク、なんか俺の方をジッと見てる気がするんですけど」
「ジョン! すいません、この者、言葉遣いが悪くて……」
犬の言葉遣いなんかどうだっていい。犬が言葉使いなことのほうが問題なんだよ! あっ、言葉使いってのは、魔法使い的な意味で、言葉が使える人ってことね? イケメンの言葉遊びってやつさ。
さて、どうやら犬さんには、俺たちの言葉は分からないみたいだ。そして、人間の言葉は分かるし喋れもするらしい。通訳になってもらうのは無理そうだ。
ひとまず、嫉妬の感情は置いておこう。後で豚の神様に心の中で説教をするとして、今はそれどころじゃない。……あっ、犬の神様にも恨み言を言っとかないとな。犬ばっかりズルいぞー! 豚にも人権をよこせー!
ひとしきり心の中で叫んだあと、俺は指を地面に這わせる。意図の読めないその行動に、何か攻撃でもされるのかと警戒する人間と喋る犬。ふっ……そこで黙って見ているがいい!
――こんにちは。あると=ばいえるん、です。
これが、オークで一番の達筆じゃい! ……まともに字が書けるの、俺しかいないけどな!
「なんと!? オークが文字を! ……いや、失礼。大賢者様ならこの程度、当たり前のことですな」
感動するような目をした人と犬。崇拝するような目をした隣の豚。うむ、気分が良いぞ。頑張って練習した甲斐があったってもんよ、お習字。
とりあえず、コミュニケーションの第一段階は突破出来たはずだ! なんたって、挨拶が出来たんだからな。




