~ 第十六話 彼女がアルトにくれたもの ~
本日二話目です!
では、どうぞっ!
鏡の前で涙を流しながら、ずっと自分の顔を見ているリリーちゃん。良かった……本当に良かった。生まれて初めて神様ってやつに感謝したよ。ありがとう、豚の神様。立場が弱いなんて言ってごめんよ?
オペが終わって、森の洞窟に戻ってから、本当はすぐにでもガーゼを外して結果を確認したかった。
だけど、それをするのは俺じゃあいけない。リリーちゃんが、自分の手で外さなきゃいけない。そう思って踏みとどまった。……まぁ、オークの指が太すぎるからガーゼが外せないって事情もあったんだけどな。
ガーゼが外れて、オペが成功していたことを知った時は、腰が抜けたね。本当に良かったよ。
その後は、追手の人間にバレないように注意しながらのサバイバルだ。足跡を残さないように、とか、煙が出ないように、とか……いやぁ、逃亡者ってのは大変だね。俺、完徹だぜ?
とはいえ、そこはオーク……視力、聴力は人間よりもいい。嗅覚に至っては圧倒的だ。豚鼻をなめんなよ?
ってなわけで、周囲を警戒することは得意なんだよ。無事に、一夜を過ごして今に至る。
あっ! あともう一つ!
スキル……無事に発動出来たよ!いやぁ、焦った焦った。心の中で、「スキル発動!」とか「治療開始!」とかそれっぽい言葉を叫びまくったんだけどさ、全然発動しないの。
それで困り果てて、「イブさん……マジでお願い」って言ったら即発動。イブさん……何者だよ。
『私はマスターの助手です』
うん、分かった。それは何度も聞いた。そして、史上最高のドヤ顔を止めたまえ。
………
……
…
それからしばらくして、リリーちゃんの気持ちが落ち着いてから、治療開始だ。
ちなみにメアリーちゃんは既に別室へ移動済み。なんでも、昨日はリリーちゃんのことが心配で、テレビで流れていたアニメを観ていられなかったらしい。『今日こそはしっかりと観ます!』と鼻息荒く別室へと消えていった。あの気迫……娯楽に飢えてるんだろうなぁ。
「さて、それでは始めますね?」
そう声を掛けて、治療を開始する。行うのは、頬に残るツギハギ感を無くすための治療だ。
細胞を活性化させる光を照射することで、新しい皮膚をより自然に馴染むようにしていく。一回じゃあ効果が出ないので、何日かはかかるというわけだ。
それが終われば、薬用成分の入った化粧水で肌に栄養を与える。まずは、化粧品が肌に合うかのチェックからスタートだ。
化粧水くらいはこの世界のモノを使おうとも思ったんだけどさ。やっぱ、日本のとは全然違うらしいんだよね。実物も見たことないし、ここはリスクを取らないように慎重に行こう。上手くいけば、明日から使えるしな。
こういう術後治療に関しては、このスキルってめっちゃ便利なんだよ。なんたって時間が短縮出来るからな。化粧水が肌質にあうかどうかのチェックなんて、日本でやればそこそこ時間がかかるぜ?
……ってかそもそもなんで、化粧水があるんだろう。しかも、見覚えのあるメーカーのが各社揃っているという充実ぶり。まぁ悔しいから、イブさんに確認したりはしないけどね! そんな残念そうな顔で見ても、知らないんだからねっ!
治療の最中、俺は気になっていたことをリリーちゃんに聞いてみた。
「リリーさん。どうして治療を受けようと思ってくださったんですか?」
あの時、果たして俺は信頼に値する男だっただろうか? 自分自身では、そうは思えない。なぜ彼女は、俺に自らの顔を託してくれたのだろうか?
その問いに、リリーちゃんは少し困ったような表情を浮かべた。
「……泣きそうだったからです」
「えっ?」
「『あなたの顔を治させてください』って言ってくださった時……アルト様、泣きそうな顔をされていたんです。その顔を見て、この人は真剣に私のことを考えてくれてるんだって実感できたんです」
そうか……俺、そんな顔してたんだ。
患者の前で泣きそうな顔だなんて……ほんと、医者失格だよ。
だけど、なんでかな。悪い気がしねぇや。
「……信じていただいて、本当にありがとうございます」
自然と頭が下がる。この子は俺に、大切なことを思い出させてくれた恩人だ。本当に、ありがとう。
※
治療も無事に終わり、洞窟に戻ってきた。
唯一、アニメの山場で強制送還されたメアリーちゃんがプンスカしていたが、明日までのお楽しみ、ということにしてもらった。
顔の様子も良好で、化粧品も肌に合っている様子。この様子ならば、あと何度かの治療で傷はかなり目立たなくなるだろう。共同サバイバル生活も長くてあと一週間だな。
「いいですかアルト様。これが『あ』、これが『い』、これが『う』です」
そして今、リリー先生による読み書き講座が絶賛開催中だ。生徒は俺とメアリーちゃん。ちなみにメアリーちゃんは、数字と自分の名前は書けるらしい。
治療中、人間の文字を教えてはくれないだろうかと頼んでみたところ、リリーちゃんは快くオッケーしてくれたのだ。これはマジでありがたい。少しでもコミュニケーションが取れるようになれば、人間と殺し合いをすることが無くなるかもしれない。
『ぶぶご?』
「そうですね。こっちが『ぬ』でこっちが『め』です。似ているので注意してください」
ちなみに言葉は、ひらがなでも無ければアルファベットでもなかった。なんかよくわからん独特な形をしている。ひらがなを使って説明しているのは……便宜上ってやつだな。
こうして、森の夜は更けていく。
しかし、こうして勉強してると学生時代を思い出すね。あの頃は女子と一緒に勉強なんて考えられなかった。それどころかイジメられて、人間扱いされてなかったからな。特に、女子がブサイクを見る目って、えげつないじゃん?
そして今、あの頃よりもさらにブサイクになった俺は、女子二人と勉強している。それもかなり和やかな雰囲気で。
不思議なもんだよな? 顔……豚なんだぜ?
もはや人間じゃないのに、ちゃんと人間扱いされている。面白いもんだよな、人生って。
明日、更新分にて一段落がつく予定です。妄想で書籍化した際には、一巻の終わりの予定……妄想は自由ですよね!ww
来週は、ストックを増やす期間にしようかなと思っています。他の作品のこぼれ話も書きたかったりします。
なので、少し更新が空いてしまいますが、見捨てずに待っていていただければ幸いです。
まずは明日、しっかりとこの章を完結させてからですね。頑張ります!
それではまた明日! 香坂蓮でしたー!!