~ 第十一話 ついに……ついにコミュニケーションがっ! ~
台風……すごいですね(´・ω・`)暴風域のかた、お気を付けください。
では、どうぞっ!
いきなりだが、ドクター=アルトのワンポイントレッスンだ。少し難しいから、細かいことが気にならない人は聞き流してくれ。なるべく分かりやすいように大雑把に説明していくぜ。
美容整形……みんなが言うところの“整形”をする医者。これをなんと呼ぶか。
整形外科医? ……違う。
整形外科医は、骨折とかをした時にお世話になるお医者さんだ。リハビリとかも担当してくれるな。
この整形外科医から派生して生まれたのが、形成外科医だ。形成外科医は、身体の表面に特化して治療するお医者さんだな。
ほら、骨折とか捻挫は身体の中だろ? それに対して、火傷とか切り傷は身体の表面じゃん? 形成外科医の先生は、そういう傷跡とかをキレイに治すのが専門だ。
そして、美容外科医。
これは、形成外科医からさらに派生して生まれてきたんだ。これが、みんながイメージする“整形”をするお医者さんだな。
形成外科と美容外科の違い。それは分かりやすく言えば、ケガが有るか無いかだ。
『顔に傷跡が残ったので、キレイにしてほしい = 形成外科』
『顔が不細工なので、キレイにしてほしい = 美容外科』
と考えてくれたらいい。ほら、不細工は別に、ケガとか病気をしたわけじゃないだろ?
さて、今回のリリーちゃんの場合、必要となる医者はどっちか。……当然、形成外科医だな。
顔全体に広がった火傷の跡をキレイに治すのは、まさに形成外科の専門中の専門だ。
そして……俺の専門は、美容外科なんだ。
………
……
…
診療台の上に横たわるリリーちゃん。その近くには、初めて見るソファに横たわったメアリーちゃんの姿も見える。
リリーちゃんのために頑張ったメアリーちゃんも連れてくるなんて、さすがは俺のスキルだ。イケメンな対応じゃねぇか。
『マスター。お久しぶりです』
イブさん! 相変わらずの美人さんだぜ。少し短くなった髪型に萌えを感じるね。
『この変化に気付くとは……さすがはマスターです』
嬉しそうな言葉と、無表情。ドヤ顔ですらない……だがそれがいいっ!
さて……名残惜しいがイブさんとの触れ合いはこれくらいにしておいて、確認事項だ。
「イブさん。このスキルの空間……最長でどれくらい居れる?」
『マスターのスキルレベルは最高値であるため、かなり長時間の滞在が可能です。丸一日は優に持つでしょう。ですが、マスターの体力が切れ次第、強制的にスキルは終了します』
なるほど……ここに留まって、入院的なことをするのは無理……と。
「じゃあ、スキルの連続使用はどうだ? 一度スキルを終了してから、すぐにもう一度スキルを発動することは出来るか?」
『クールタイムが存在します。一日一度を目安と考えていただいて結構です』
なるほど……そうなってくると、少し厄介だな。
その後もいくつか質問をしているうちに、リリーちゃんが目を覚ます。その後すぐにメアリーちゃんも目を覚ました。
「これが……大賢者様の魔法なんですね」
ひとしきりオペ室に驚いたあと、なんだか恭しく呟くリリーちゃん。そして、少しほっとした表情のメアリーちゃん。感動の再会に、全俺が泣いたよ。
「リリーさん。私は、大賢者なんて大したものではありまんよ。ただの医者です」
いやぁ……言葉が通じるって、素晴らしいね。コミュニケーション最高! なんせ、アルトな俺は、対人コミュ力ゼロだからな。対豚コミュ力は高いけど。
「改めまして……えっと、アルト=バイエルンと申します。無理矢理連れ去るような形になってしまって、申し訳ありません」
一瞬、『水川蒼』の名前も頭をよぎった。だけど、今の俺はアルトだ。オークとしての第二の人生……結構気に入ってるしな。
「バイエルン様ですね。改めまして、リリー=オルブライトと申します」
「出来ればアルトと呼んでいただけると嬉しいです。あまりバイエルンとは呼ばれないもので」
何度も自己紹介をさせてしまって申し訳ないね。そして、『バイエルン様』はさすがにくすぐったすぎるぜ。
「分かりました。それではアルト様。先ほどは、あのように武器で貴方を脅かすようなことになってしまい、大変申し訳ありません。ですが、彼らは私のためにあのようなことをしたのです。彼らを許してはいただけないでしょうか?」
責任は自分が負うと続けるリリーちゃん。いやぁ……大人だねぇ。見た感じ、まだ子供だと思うんだけど、大人な子だ。
「気にされることはありません。あの状況……オークが側にいるとなれば、仕方のないことです。ところで、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「勿論です」
「“へんきょーはく”っていうのは……貴族様ということでいいんですよね? すみません……自分、オークなんでその辺、よく分からないんですよね」
沈黙。ポカンとするリリーちゃんとメアリーちゃん。……あれ? 俺ってば、変なことを聞いちゃった感じ?
だってさ、“へんきょーはく”って聞いたことないぜ? 話の流れと雰囲気から貴族かなー、とは思ったけどさ。貴族って言えば伯爵とか男爵だろ? なんだよ、“へんきょーはく”って。
「っぷっ! くすくす。もう、大賢者様ったら」
リリーちゃんが、初めて笑ってくれた。その表情は、火傷のせいでほとんど動かない。無理に表情筋を動かしたからか、皮膚に血がにじむ。
「はい。私は貴族ですよ。ですが普通に接してください」
「いいんですか?」
「はい! 貴族と言っても人間の貴族です。オークが敬う必要ないじゃありませんか」
声だけが、楽し気に響く。本当ならば、それを笑顔が彩っていたはずだ。……絶対に取り戻さないとな。