~ 第十話 か弱い女の子を誘拐するオーク……誤解だっ! ~
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では、どうぞっ!
あぁぁっっっ! ……やっちまった。
せっかく大賢者にまで昇格したのに……いまの俺は誘拐犯。まぁ、オークに似合うのは、大賢者よりも誘拐犯だよね!
笑えねぇ……。
だって仕方ねぇだろうよ! あのままじゃあ殺されるか捕まるかの二択だぜ? んでもって、捕まったら殺されるから、実質一択だぜ? 逃げるでしょうよ!
……えっ? 逃げるなら、一人でもよかったんじゃ?
うん。ぐうの音も出ない。
とっさに……とっさにやっちまったんだよっ!
両脇に少女が一人ずつ。メアリーちゃんとリリーちゃん。……『リリー様』って呼ばれてたよな。全身鎧の人があれだけ殺気だっていたところを見ると……たぶん、偉い人。
身分の高い女の子を掻っ攫う……マジで誘拐じゃねぇか! えっ、身代金とか要求したほうがいい? ダメに決まってるよね!
ダメだ。現実逃避してる場合じゃねぇ。とにかくこれからどうするか考えないと。
さすがにこの二人を連れて、集落に戻るのはリスクが高すぎる。
ただでさえ、『人間 = ゴブリンへのプレゼント』な価値観のオークだ。まして今は、人間に対するピリピリ感が半端ないことになっている。この子達の身の安全を保障出来ない。
とりあえず……どっかの洞穴にでも隠れよう。森の奥に逃げ込めば、隠れられそうな洞穴の目星はつけられるからな。
……はぁ。なんでこんなことになっちまったかなぁ。
………
……
…
森の中をガンガンと進んで、少し大きめの洞穴にたどり着いた。
ここは、森の中にあるちょっとした岩山のようなところだ。まぁ、山と呼べるほどデカくはないか。丘? ……なんか違うな。まぁ、ちっちゃな岩山だと思ってくれ。
そんな洞穴で、女の子二人を下ろす。……うん。完全にビビられてるよね! そりゃそうだ。
「あの……大賢者様?」
メアリーちゃんが恐る恐る話しかける。……あっ、ちょっとえずいた。結構揺らしちゃったもんなぁ。ゴメンね。
「ここはその……大賢者様が住んでいるところなんですか?」
違う違う。……伝わらないよな。よしっ、首を横に振れば……。
「えっと、ではここはどこなんでしょう?」
うーん。洞穴だよね。とりあえず、何を伝えるべきか。……よし、土下座だなっ。
「ちょっ! 大賢者様っ!? どうされたんですか!?」
言葉が通じなくても、謝っていることは通じるはず。なぜならそれが、ジャパニーズ土下座の真髄だからっ! マジでごめんなさい!
「頭をお上げください……大賢者様」
メアリーちゃんとは違う声。……リリーちゃんだな。
俺はそっと、顔を上げた。すると目の前にリリーちゃんの顔があった。包帯……痛々しいな。
「突然あのようなことになってしまい、申し訳ありません。あのように、武器を向けられれば逃げるのも致し方ないことです。大賢者様は、何も悪くありません」
すごいな、この子。
状況から判断して、俺がなんで謝っているのかまで理解したのか。頭がいい人ってのは、こういう人のことを言うんだろうな。
「改めまして、リリー=オルブライトと申します。大変失礼なことを伺いますが、大賢者様は私達の言葉が分かるのですね?」
素直に頷く俺。
しかし大賢者様……面と向かって言われると、照れるねっ! 人間にはオークの表情が分からないっぽいし、にやけてもバレないよねっ!
「では……文字は、書けますか?」
俺、がっくし。
字が書けない大賢者。……賢者じゃないじゃん。
「そうですか……。大賢者様が何を伝えたいと思ってらっしゃるのか。それを理解出来ないのが、もどかしいです」
同感です。伝えられないのがもどかしいです。誰か僕にこの国の国語のドリルをください……一年生用から。
「大賢者様……それで、その……リリー様のお顔は、治してもらえませんか?」
おずおずと、という感じでメアリーちゃんが話しかけてくる。
治すったって、まずはどういうケガなのかを見ないことには、なんとも言えないな。まずは包帯を外してもらおう。
さぁここで、森のジェスチャーゲーム大会のスタートです。回答者はメアリーさんとリリーさんです!
顔の包帯を取っているジェスチャーをする、イケメンオークのアルトさん。
「……顔がかゆいんですか?」
メアリーさんっ! 残念っ! よく見て! 掻いてないからっ。
「なにかの儀式でしょうか……」
リリーさんっ、違うっ! むしろ儀式だとしたら、なんの儀式なのか気になるっ!
それから数分、試行錯誤を繰り返し、ついに俺の意図が伝わった。
「あぁっ! 私が包帯を外せばいいんですね!?」
正解だよリリーちゃん。思わず拍手しちゃったよ。
すると、ノリノリでジェスチャーゲームをしていたリリーちゃんのテンションが急降下してしまった。
「大賢者様……その、私の顔は今、非常に醜いです。お気を悪くしないでくださいね?」
当たり前だよ、リリーちゃん。美容整形外科医として以前に、人間として、そんなことはしない。頷いて、真っすぐに目を見ることしか出来ないけど、どうやら気持ちは伝わったようだ。
ゆっくりと、リリーちゃんの包帯が外れていく。
『ぶ……ぶごっ』 (これは……ひどい)
思わず声が漏れちまったよ。
包帯に下にあったのは、広範囲にわたる重度の火傷の跡。特に頬の辺りが酷く、赤黒く変色している。化膿も見られるな。救いがあるとすれば、髪の毛に燃え移らなかったことと、目が無事っぽいことくらいか。
なんとかしてあげたい。
俺に出来るか?
いや……俺がやるしかねぇじゃねぇか。
真っ白な光が目の前を包む。その光に、俺は覚悟を決めた。




