そして剣士は白い灰になった
「お前について行くぞ」
と、ジルが言い出した。
何かと言えばノア君との再会を果たした後のことで、ノア君が起きるのを待ちながらこれからも今まで通り冒険者として活動するよと言った私への最初の一言が、それだったという話。
天空城でのんびり暮らせばって提案もされたけど、ボケーっとしてるとかえって老け込みそうだよね。
アンチエイジングな決意の私としては、老けるってより一足飛びにボケそうなそういう生活、受け入れられません。
って言うか、今まで良くしてくれた仲間がいるんだもん。中の人がジルな"身体だけなノア君"はいても、
本当のノア君がいないお城で暮らすとか、ありえないし。
「なんで?」
正直こんな銀色の怪しいものに付いて回られると、ちょっと困る。
これまで私のことストーキングしてた(らしい)時みたいに、透明モードでついて来てくれるならまあいいけど、それにしても何のためについてくるのかと首を傾げる私にジルが言う。
「監視と護衛だ」
えー?
「……待って。護衛はいいけど、監視ってなに?」
「お前は粗忽に過ぎる。私がいるのにマスター・ノアが目覚める前、事故で万が一があっては申し訳ないだろう。阿呆な事をしないよう監視する必要がある」
「……ぐっ。それは……色々一杯いっぱいで周囲に目がいかなかったからであって……!」
「その一杯いっぱいの状況が今後無いとお前は言えるのか?」
……言えなかった。
そうだよ、もしものことがあって私が死んじゃったりしたら、ノア君がたった一人で目を覚ますことになっちゃうんだった。
それはいけない。
ダメ、絶対。
そう思ったから私はよろしくお願いしますと頭を下げたのだけど、そうなると困るのはやっぱりジルのこの姿。
銀色の球体って、天空城の人達にとっては金色の王様の持ってる伝説級の魔道具って位置づけなんだよね。
私が自分が書いた恥の歴史『虚ろ(?)の魔導書』を渡される時だって、こんな小娘にそれを与えるだなんてとんでもないって目で見られたのに、魔道具まで私にくっついて来たら私、お城の人達、完全に敵にまわすんじゃないのかな……?
嫌そうにそう言う私の話を聞いて、ジルは天空城の有翼人達が最近選民意識が高すぎるから再教育が必要だってちょっとご立腹だったりしたんだけど、考えてみればお城で一番偉い王様がお城の奥で殆どずっと休眠してるんだもんね……そうもなるよ。
ゴールディロックス階層世界の中のいろんな知識と技術を天空城の人達が管理してるんだし、上は普段留守だしじゃあ、冗長くらいすると思う。
「なら……いっそしばらくの間、金色の王を溶液で保存せずに私が天空城の住民の考えを正しつつ、お前が冒険に出かける時には同行し……」
「やめて!」
「なぜだ?」
「金色の王様って、ノア君の予備ボディ兼用なんでしょ!? それ他に予備ってあるの!?」
「無いが、私とてそうそう無様なミスはせんし───」
「ジルが入った状態の予備ボディって、老化しないの!?」
「……まあ……するな。肉体を動かす命令は私にも出せるが、あの身体の本当の主ではないのだから、精神と肉体との結びつきがほぼ無いのだ」
「ちょっと……っじゃあ、もし今寝てるノア君の身体に何かあったらどうするのよ!」
老化してヨレヨレの予備ボディしかなくなっちゃうってことじゃない!
プンスカ怒り狂う私の勢いに、ジルが引く。
引くって言うか、ジルのノア君予備ボディ2Pカラーバージョンへのジルの扱いがぞんざい過ぎるのが悪いんだから、私の怒りは正当だよね。
ってか、むしろ私がジルに引く。
とりあえず、なんか別の身体のアテがあるらしいジルは、渋々そっちに入って護衛をすることを提案して来て、私もそれを了承した。
ジルとしては銀色の球体形態が一番動きやすいようだけど、中身の銀色を出した対応はいざと言う時だけにしもらう。
どうやら人形ボディを操作しながら分裂体をステルスモードで動かせるみたいだし、問題はなさそう。
天空城の有翼人達については、今よりも金色の王様の出動頻度を上げて対応するようだ。
知識と技術を管理しているのは有翼人だけど、彼らの生活に必要な物資は下層階に住む一般の生産者や私達冒険者がいなければ賄えないみたいだし、そう言うことをちゃんとわからせるんだと息巻いていた。
───で、だ。
「コレを使う」
と言ってジルが持って来たのが……あろうことかノア君のお父さんだった。
どこからどう見ても、地球にいた頃に隣りに住んでたノア君の父親。
「おじさん……!!」
私は驚きのあまり2mくらい後ろに飛び退った。
あまりにも想定外の人物の登場に、心臓がバクバク言ってる。
「コレには地球滞在以来入っていないが、軽くメンテナンスすれば問題なく使える」
とか言ってるけど……ってことは、もしかしてジルって───
「ノア君パパの中の人……ジル!?」
嘘だ。あり得ない。なんなのこれは。
「酷い……ノア君パパは、こんな偉そうな喋り方しなかったのに!」
よろけながら尚も後ずさる私に、ジルが酷い事実を突きつける。
「この喋りは金色の王の中身をやるに当たり、お前の好みのキャラクターを完璧に演じるため、会話用語彙の刷新と固定を行った為だ」
「そ……そんな……私のせいで……!?」
ガクリ───その場に崩れ落ちる私。
このジル入りノア君のおじさんは最初からノア君のお父さんなんかじゃなかったのは分かってる。
だってノア君、子供に見えてた時にも本当は大人だったって聞いたしさ。だったらあの"お父さん"とは何者だって話だもんね。
分かってるけど、これはあんまりだと思う。
……とんだ想い出ブレーカーだ。
心の中に血涙を流す私の心など素知らぬ風に、ジルはノア君のお父さんの姿でその後も偉そうな口調であれこれ文句を言いつつ、結構こまごまと手助けやお世話を焼いてくれた。
さすがにいきなり『方舟』の皆の前に、天空城の王様が私につけた護衛ですと言ってジルを連れて行った時にはビックリされたし、冒険者としての仕事にもついて行くとジルが言った時には反発もあったりしたけど、思いのほかジルは私達のパーティーのバランスを壊さなかった。
ってよりは、ちょうど足りなかった部分にバシッとハマった。
ほら私、魔導士でしょ?
後衛で魔術発動してる時って、わりと身辺の守りがお留守になっちゃうじゃない?
盾役の熊人はどっちかと言えば剣士のアーセルと連携しての前衛ポジだし、遊撃の犬人に私や射手の兎人を守らせてたら、"遊撃"の意味が無くなっちゃう。
第29階層までの階層ではなんとかなってたんだけど、上の階層の方が難易度が高くてね、まあリエンヌは兎人の特性として身軽だから割と大丈夫なんだけど、魔導発動中の私にジルと言う専属の護衛がいるのって、メリットしかなかったんだよね。
で、なんかいつの間にかジルは『方舟』のメンバーの一人になってた。
冒険者パーティー『方舟』はジルを加えて6人になった。
剣士のアーセル
盾役のウォレス
狩人のドギー
射手のリエンヌ
魔導士のメイ
それから波動使いのジル
……波動使いってなんなのと、私はツッコミを入れたい。
でも、ジルが波動使いってことになってるのは、動かしがたい事実。
何がどう"波動"なのかって言うと、狩りに行く時のジルは特に何も得物を持ってなくて徒手空拳ってやつなんだけど、このジルのノア君パパボディって……頑丈なんだよね。
内臓とか入っていないし、身体を動かす指示系統とエネルギー源は全部ジル本体が賄ってるから、運動に必要な機構だけなんだもん。
ちょっと壊れた部分があってもジル本体のナノマシンがカバー出来るらしく、後から部品を取り換えればいいだけっていう便利モノ。
大体の戦闘は武器なしの徒手空拳で事足りるけど、それじゃ無理な時には分裂して透明モードになってる分身体?って言うか、小さいジルを盾にしたり、小ジルから電磁波とか反重力シールド的何かを出してみたりするらしい。
で、それがはた目から見ると、魔導とは微妙に違う何かだと思われてるみたいで……いつのまにかジルは"波動使い"と呼ばれるようになってた。
波動……うん、波動だよ。波紋じゃなく波動だからセーフ……。
天空城の王様に遣わされた護衛なので、多少怪しい技を使ってもそういうものと納得されてるっぽい。
良いのか悪いのか分からないけど、たぶん良いんだろうと思う。
とにかく、冒険者パーティー『方舟』はジルを加えて6人になった。
その一年後、リエンヌが子供を産む為に抜けて5人になるまでは、だけど……。
ちなみに、リエンヌのお腹の子供の父親はアーセルでは無い。
何年間も彼女に好きだとも言えずにいるヘタレ剣士が父親のわけが無い。
アーセルはリエンヌの妊娠報告を聞いて、真っ白な灰になった。




