nineteen suit
明日。
そう言えるのは、零時を過ぎる前までのこと。
僕は今、眠れずにいる。
父は江祇時家の当主。
父の言うことは絶対。
それは、小さい頃から言われてきた。
「お父様のご期待に全力を」
そう言って、育ててきた母と祖母。
母は、嫁に来た身だから、口出しはあまりできないのだが、やはり、真矢さんの幸せを考えれば、僕と結婚するのは、良いとは言えない。
祖母は体が弱く、バリアフリーのマンションへ移り生活している。
年に数回顔を合わせるだけになってしまった時もあった。
しかし、今は儀式は全てに出席し、できる限り、式関係のことは行っている。
そんな二人は、大切な家族だ。
胸を張って、良い親だと言える。
母と祖母のことを考えていたら、いつの間にか寝ていて、朝になっていた。
今日は足の感覚がある。
今日は歩ける。
そう思った。
思った通り、歩けた。しかし、自分の体重の重さに少し耐えられない。
必死にスクワットをしていると、タイミングを探しじっと見つめてくる気配を感じた。
「誰だ?」
僕は、やっと立てるようになった足を広げ、仁王立ちをしてみた。
「澪、もう、歩けるのか?」
そろりと出てきたのは、兄の史乃だった。
「兄さん!驚かさないでよ」
安堵する。
「ごめん。なんか、タイミングを探してた」
あははと笑う兄だが、ずっと30分くらいじっと息を潜めながら、廊下で立っているのは、疲れただろう。
「歩けるは歩けるけど、満足にはまだ」
「そうか。でも、よかった」
安堵を見せる兄は何故、僕の所へ来たのか。
「兄さん、なんでここへ?」
マンションは、防犯のため、夜は外からも中からも出られない。
今はまだ、ロックが解除されていない。
「それは、察してくれないか?」
そう言って、顔を赤らめる。
可愛いと、一瞬だけ、思ってしまった。
「真矢さんが18で、兄さんは20か。どうせ、母さんに言われたんだろ?」
こくりと頷く兄。
「で、どうだったの?実感は?」
「まったく、皆無」
あ、そうですか。
真剣な表情。
「母さんと、父さんが夜ホテルのレストランへ来るように、と」
僕も気が締まる。
「いつものところへ?」
こくりと頷き、一つため息を吐いた。
「真矢さんと、知十世さんも出席だそうだ」
「チトセも!?」
反応してしまう。
「祖母様は?」
首を振る。
「今日は、マンションの扉を閉めて出入りをできなくするらしい」
閉じ込めるってこと。
「結構、すごいこと、するんだ...」
兄も、少し緊張している。
「澪、今日は、スーツだぞ?」
僕が一番めんどくさいと、思う格好。
これならまだ、儀式のほうが動きやすい。
「わ、わかった」