レオという男の話
もう一つの「誰かの代わり」のお話。
フォルクマン公爵家の三人姉弟の末っ子に産まれたレオンハルトは、生まれながらにしてスペアの存在であった。
物心ついたときには、その扱いを受け止め、姉と兄双方の補佐が出来るようにと、勉学も武道もそれなりに詰め込まれた。
「二人に何かあったらって、勉強も武道もやりましたが、二人分を詰め込まれるのって、案外大変なんですよね。それなりの優秀な成績も求められたので」
歳の離れた姉は自身の価値を最大限に活かして、同じ年の第二王子の元に嫁いだ。
歳が近い兄は公爵家次期当主として、国内の貴族のバランスと本人の希望により、伯爵家の令嬢と婚約を結んでいる。
両親も健康で、兄もやや自信家すぎるところはあるが、公爵家の内情は安定していることから、姉の嫁ぎ先で使用人として働いている。
兄が継げば、スペアとしての役目も終わることから、公爵家が持っている子爵家などを引き継ぎ、このままここで働かせてもらえるように、それなりに頑張っていたのだ。
「安定した収入が得られて、姉夫婦が仲良く過ごしているのを見ていられるなら、幸せだなって思ってたんです」
その風向きが変わったのが、兄の婚約者であったローザリンデ様の事故。
そして、失意の兄が再起出来ないかも知れないという情報からだった。
父より自分たちに話があると言われたのは、事故から半年後のこと。
「新しい婚約者がおらず、本人も結婚を考えることはないと言い切っている。貴族のとくに高位のものはそれではいかんのだ。愛情が持てないなどの問題ではなく、共に領民を守り、国を支えなければならない。あと一年で、新しい婚約者が現れず、仕事もしないというのであれば、レオンハルトを嫡男とする」
驚いたが納得してしまった。
自分はスペアだと言われ続けて、多くのことを学んだように、兄は公爵家を継ぐ者として育てられたはず。
公爵家を継ぐに値しないと判断されれば、立場は大きく変わるのだ。
「準備しておけと言われましたが、具体的に何をすれば良いのか分からなくて、姉の夫である殿下に内情を話し、政務について学んでいたのです」
そして、子爵家から嫁ぐことになったテレーゼが婚姻届にサインを書いたものの、兄は拒否したと聞いた。
家令のニクラスから、両親はこれまでの心労から旅行に出てしまい、兄は今まで通り自室に引きこもり、遠路はるばる一人で嫁いできた女性を放置しているのだという。
姉と共に、一度実家に帰ることにしたが、テレーゼは意外と芯の強い女性だったため、家政の手始めとして使用人を仕分けし、客室に執務室を作り、高位貴族のマナーなどを学びたいと希望を出したそうだ。
「兄の妻になるはずの人が、兄の存在を全く必要としていないことに、興味を覚えました。姉はテレーゼが選んだ人が当主になると分かっていたのでしょうね。俺が貴方を補佐するようにと向こうでの仕事を長期休暇としてくれました」
姉からマナーを学ぶテレーゼを観察しながら、ニクラスと共に、家のことや領地のことを確認する。
事故から一年経っても、兄は仕事をしておらず、両親とニクラスが色々とこなしてくれていたようだ。
本来なら兄がやるべきことだったけれど、これからはテレーゼとニクラスが担うことになると思うと、何だか怒りが湧いてくるようだった。
「何も知らされていないテレーゼは与えられた環境で、精一杯の努力を見せてくれました。でも兄はそんなことを見ていなかった。だったら、補佐が得意な俺が貴方を支えれば良いと思ったんです」
結局、兄は平民として元婚約者と結婚することになり、家を追い出された。
兄に嫁いだはずだけれど、婚姻届が提出されていなかったから、最初から俺と結婚したことになるテレーゼは困惑している。
「テレーゼ様が許してくださるのならば、一生を掛けて我が兄の罪を償い、貴方を支えると誓います。・・・もし、嫌でしたら、ちゃんとレオに戻ります。貴方をずっと補佐し、貴方が大変なときに一番の味方でいます」
本音でもあるし、嘘でもあった。
テレーゼに代わる人なんていないし、テレーゼの横にいたい。
誰かのスペアじゃなくて、代わりじゃなくて、自分自身を見て欲しい。
ずっと誰かの代わりで誰かの補佐だったテレーゼと自分が、代わりのいない存在になれたら良いと願ってしまう。
でも、その気持ちが叶わないのであれば、仕事としてのテレーゼの補佐だけは手放したくないと思う。
婚姻の了承をしてもらえた安堵と、こみ上げる嬉しさに暴れたくなったが、まだ彼女の前なので冷静を装う。
急に気持ちを切り替えることは難しいと思うから、ゆっくりと俺を好きになって欲しい。
真面目で、平民でも使用人でも分け隔て無く接する彼女に好意を持つ者は少なくないけれど、夫婦という肩書きの中で、共に支え合って、話し合って、良好な関係を築ければ良い。
そういえば、彼女は忙しくしていたから気づいていないけれど、彼女の実家は離散となることが決まった。
子爵家が傾き始めたのはテレーゼが家を出てから、彼女の父が怪しい取引に手を出したし、母は浮気した男が裏社会に通じている者、妹の夫となった者が結婚式に早馬で駆けつけた俺に失礼なことを仕出かしたってことで、連帯責任の取り潰しになる。
結婚式に現れたテレーゼを攫って、実家の問題の片付けをやらせようとしていたなんて、彼女は知らないで良い。
気づいたら伝えるつもりだけれど、しばらくは俺と公爵家のことで忙しくしていてもらいたい。
「大切にして、大切にして、自分が誰かの代わりだなんて思わないようになって欲しい」
――少し経ってから、レオンハルトの本音がバレた際、テレーゼが怒った。
「私もそうですが、貴方だってずっと誰かの代わりだったじゃないですか。貴方だってもう誰かの代わりじゃないんです。私の大切な人なんです」
反省したレオンハルトと、テレーゼはよくよく話し合い、支え合い、時に喧嘩もして、公爵家を繁栄させたのだった。
最終話とレオのお話で、完結です。
最後の最後まで読んでいただきありがとうございました。
久しぶりに完結した作品を載せられました。
これからまた少しずつ色んな話を書いていければ良いなと思います。
閲覧、ブクマありがとうございます。
とても励みになりまして、次の作品も書きためています。
また、どこかでお目に触れることがありますように。




