表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

第1話

人の顔色を伺いながらも、真面目に生きてきた女の子が、誰かの代わりでもちゃんと幸せになっていくお話です。


「へぇ、君が妻となる人か。僕に関わらないでいてくれれば、勝手に家にいて良いよ。ニクラス、後のことはやっておいて」



 下級貴族のクリスマン子爵家の中で、愛されていない方の令嬢である私――テレーゼ・クリスマン に、急な結婚の話が持ち上がったのは、一月ほど前のことだった。


 目の前で扉から出て行こうとする男性――マクシミリアン・ファルクマン公爵令息は、社交が好きな我が妹から貰った情報では、幼い頃から大切にしてきた婚約者のローザリンデ様を不幸な事故で亡くし、一年経った今でも悲しみのうちにいるという。


 金髪に、タレ目にもツリ目にも見える金色の瞳、長身で細身であるし、拒絶の言葉ではあったけれど聞こえた声は低く落ち着いている。

いわゆる好青年なのだろう、笑顔でいれば。


 婚約者がいなくなった貴族家の嫡男としては新しい婚約者を探さなければならないけれど、本人が深い悲しみにくれている中で、立候補するような貴族令嬢はほとんどいないそうだ。

もしくは、立候補してくるとしたら、財産目当てか、よっぽど自分の美貌に自信がある者に限られる。

 フォルクマン公爵家の当主は多くの家に話を持ち寄ったものの、幸せになれないことが分かりきっている家へ嫁がせる貴族当主はいなかったようだ。


 そして、その分かりきっていることを飲み込み、ここに嫁がせたのが我がクリンスマン子爵家であり、私が嫁ぐ最終決定は妹のユリアーナの一言だった。


『私は嫌。嫁ぎ先が見つかる見込みもないお姉様が行ったら良いのではなくて?』


 金の長髪がふわりと揺れながらも笑みを崩さず、拒否の言葉を口にする妹。

我が家の中心は、明るくて可愛くて華やかで、貴族としての誇りを持って微笑む妹で、見た目が地味で読書が好きな姉の私ではない。

 あっさりと妹の言葉に同調した両親から、フォルクマン公爵家に返答したのが二十日前、縁談話を逃してはいけないという両家の圧の下で、最低限の荷物だけで家を出発したのが十日前、そして、書類にサインもせずに部屋を出て行かれたのが今だった。


 薄々気づいていたが、誰も彼もが私の意見など聞いてくれないことにとうとう疲れた。

婚家へのご挨拶を義両親にした後、夕方までここで放置され、冷めてしまった紅茶で喉を潤す。

一人だったら、このままソファに突っ伏してしまいたかった。

首元まで詰まったドレスが邪魔をして、そんなことは叶わないけれど。


 扉が閉まって、私が紅茶を飲むのを見届けたニクラスと呼ばれた初老の紳士が一礼する。


「お嬢様、申し訳ございません。お二人でお話をしていらっしゃる間に、旦那様方は旅行へ出発されました」

「そう・・・ですか・・・」

 なぜ公爵家ともあろう方々が、婚姻という大切な契約の場を放り投げて旅行にいけるのだろう。

 息子について諦めているのか、子爵家側から断ることはないと考えているのか…ひとまず、これから先の見通しが立たないので、ニクラスさんと相談できれば嬉しい。


「こちらの宣約書は後日マクシミリアン様にサインをいただきますので、宜しければお嬢様の署名をいただけますでしょうか?」

「・・・今、署名しないと行けませんか?」

「・・・いえ、署名いただかずとも結構です。ですが、この場で署名いただければ、今後は当家の奥様として、我々は貴方様にお仕えすることが出来ます」


 ニクラスさんの言葉の意味を目を瞬いて、考える。

 公爵家当主にはお目通しがかなったものの、今は下級貴族令嬢のままであることから、フォルクマン公爵家に滞在することは客扱いであるが、マクシミリアン様と結婚するつもりで来ているため、私が結婚の宣約書にサインまですれば、夫人としてこの家にいることが出来るということだ。

 あそこまで好き勝手に言われてしまったけれど、私にはこのまま結婚を無かったことにして、実家に帰ることは出来ない。

 家を出た時点で、妹とその夫となる人がクリンスマン子爵家を継ぐと決まってしまったから、出戻ったところで、今まで以上に居心地の悪い実家になるだろう。


 誰も彼もが私の意思など聞いてくれないのならば、少しでも安定した立場で過ごせるように動いてもいいのではないかと、考えを改める。

小さくため息をついて、書類にサインをする。

相手方の同意はないが、ひとまずサインしてしまった。


 小さく口角を上げたニコラスさんに、ちょっとだけ安心したのは確かで。

勝ち気な妹や片方にだけ甘い両親、関わる気のない夫、誰も彼も自分勝手なのだから、私も勝手気ままに過ごさせてもらおうと、軽く重ねていた指に力を入れる。

どうせバレたらこの家を追い出されるだろうから、期間限定の暮らしを楽しもう。

「奥様。これより末永く宜しくお願いいたします」

「あっ・・・おく・・・さ・・・ま・・・は、まだ心の・・・準備が・・・」

概ね完結まで作っているお話です。

修正を加えて毎日投稿します。

応援いただけましたら、作者の励みとなります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ