第36回 張郃、夏侯淵の死に涙する
定軍山の戦いから退却、ようやく長安に到着した。
長安には曹操が既に入っているという。
張郃は単身、曹操に定軍山戦の事のあらましを説明し、敗戦の責任を取るため、出頭した。
曹操が言う。
「儁乂よ、妙才のことはまことに残念であったが、その後の退却戦は見事であったと聞く。良くやってくれた。」
「曹操様。私は何もなしてはおりません。曹操様にとってはご一族の、この魏にとっての宿将の夏侯淵様を亡くしたこと、全て副将である私の責任です。」
「儁乂、自分を責めるのでない。今回の敗戦の責任を誰がとるのかと言えば、この私だ。関中と漢中で兵力の分散を修正しなかったのも、この私だ。」
「しかし、それでは責任の所在があいまいになってしまいます。敗軍の将が、その責を負うのが通常でございます。」
「儁乂、敗戦の責任をお前がとるというのなら、次の戦いで必ず戦功を挙げよ。」
張郃は、夏侯淵のことを思い出す。
時に行き過ぎるところはあるにはあったが、大体の事はこちらの提言を受け入れ、自重してくれた。
そして何よりも、張郃や徐晃、郭淮など、人の事は良く見ており、適材適所の仕事をさせていたと思う。
失敗にも寛容で、挑戦することは否定をせずに受け入れてくれた。
一部の者は、夏侯淵の事を猪突猛進の猪武者、と評することもあったが、それは表面上の事であり、本質的には状況を見極めて行動することが出来る人であった。
張郃は、夏侯淵の無念を思うと、自然と瞳が涙で濡れた。夏侯淵のためにも、戦い続ける決意をしたのである。




