第32回 張郃、漢中にて張遼の活躍を聞く
曹操が漢中争奪戦を繰り広げている最中、曹操が留守であることをいいことに、孫権が「合肥奪還」の戦いを仕掛けてきた。
合肥を守る総大将は、張郃の友と言える張遼である。
合肥城の総勢七千に対して、孫権軍は一〇万を超える大軍での侵攻であった。曹操は漢中に赴くとき、張遼に文を出していた。非常に短い内容である。
「孫権が攻めてきたら、張遼と李典は城を出て戦え。楽進は、城を守れ。」
これだけであった。
しかし、実際問題、一〇万の大軍に城を出てどう仕掛けるのか。出来ることと言えば、奇襲、夜襲であろう。
張遼は覚悟を決めて、八〇〇人の精鋭部隊を率いて、孫権本陣に夜襲を仕掛けたのである。
孫権は軍営で、魏軍が夜襲を仕掛けてきたと聞いた時、そんなことはあるまい、と笑って否定した。
しかし、敵の勢いは増すばかりで、この本陣に向かって一直線に突撃してきているという報告が入ってきた。兵を率いるのは張遼であるとわかった。
孫権はまずい、と思い、一目散に逃げだした。
張遼は深追いをせず、この奇襲以降は城門を固く閉じ、出てくる気配がない。
兵力格差は圧倒的であるのに、膠着状態が続いていた。
孫権軍も滞陣が長くなると、少しずつ伝染病に罹患する者が増えてきた。そして、孫権はとうとう退却を決めた。
退却の動きを見て取った張遼は、久方ぶりに城門を解放し、追撃戦を展開。ここでも、孫権をあと一歩まで追い詰めるという獅子奮迅の働きを成し遂げたのである。
この武勇伝は、各地の魏軍にもあっという間に広まり、張郃の耳にも入ってきたのである。
「流石は文遠よ。七千で一〇万の大軍を退却させるとは。」
この張郃の言葉を聞いて、夏侯淵が言う。
「儁乂よ、お前も僅か二〇〇の手勢で陽平関を落としたのだ。張遼の武功に劣るものでもあるまい。」
「お言葉、ありがとうございます。この儁乂、この漢中の為に更に力を尽くす所存です。」
「儁乂、頼りにしているぞ。」
こうして、張遼の未曽有の働きを聞き、負けじと励む張郃であった。




