41話 迷宮内実習(1)
迷宮での実習が始まった。
実習内容は単純で、迷宮内の敵性生物の討伐。
討伐証明として、部位の一部を持ち帰る必要がある。当然、強い敵であるほど評価も高いが、自分達の実力を見誤れば一大事だ。
救命手段として、先生方へ危険を知らせることのできる水晶が各班に一つづつ支給されているが、先生の到着までの時間もあるため、下手をすれば命を落としかねない。
(星一、星二は大丈夫でも、星三になれば五人でも十分な脅威。気を付けないと)
幸い、同じ班には友人のアリスがいる。他三人との面識はないけれど、最低限一人でも連携が取れそうな相手がいることで安堵感があった。
「槍って難しくないっすか? 洞窟だと余計に、長物は岩肌に当たって動きにくそうな感じっすけど」
「確かに言う通りだ。ただ、技量である程度補うことができる。慣れない武器を使うよりは貢献できるはずだ」
「かっけぇ! 俺も負けてられねえっす!」
班の先頭を担う二人の男子生徒。
一人は貴族で、名前はヘレン・リーバー。
あまり知らない相手だったが、彼からは貴族特有の傲慢な気質はあまりみられない。
なにより、平民を侮った視線がないように思える。
そんな彼の横で、楽しそうにしているもう一人の男子生徒。
名前はユーリ。私達同様の平民だ。
今回が初めての交流になるが、私は彼を知っている。
同じ平民と言う事で、自ずと意識したというのもあるが、今までの実戦訓練や、先の交流戦でも彼の話はちらほらと聞こえてきた。
三回生の中でも一二を争う身体強化魔法を扱うという。
一体どれだけストイックな人物なのだろうと、勝手に人物像を想像したりもした。
(実際こうしてみると。なんというか、天然・・・・・・いえ、天真爛漫? あまり変わらないか・・・・・・)
ひたすらに鍛錬をし続ける修羅の道を行く漢、ではなく。かなり陽気な人物のようだ。
先程から『すっす、すっす!』と言っているのは、彼の中では敬語に該当するものらしい。
どこかの高位貴族に粗相をする前に、ちゃんとした敬語を伝えるべきだろうか?
「・・・・・・やっぱり迷宮の中って暗いんだね。視界が悪いから、ちょっと怖いかも」
「うん、気は抜けないね。でも後ろは私が死守するから、安心して」
「カレンちゃん・・・・・・」
アリスは怖がりだが、耳の近くで優しくしゃべりかけると安堵するらしい。
雷の日に、半泣きで部屋に来た彼女をなだめるため、添い寝した時に気づいた事だ。
「エルも皆さんを守りまス!」
すぐ傍で、もう一人励ましの言葉をかけるのは五人目の班員。
エステル。聖国からの留学生という彼女。姓はないのか、それとも伏せられているのかが分からないが、本人を見ていると育ちの良さが垣間見える。
幸いなことに、彼女も偏見はないようで、私達には階級差をなくした友好的な交流を望んでいる様だった。
容姿に関しては、綺麗な金髪を肩口まで伸ばし、一部編みこんでいる。
王国ではあまり見ない紫の瞳を持っていて、柔和な笑みが少し色っぽくも見える。
ただ、彼女は熱心な信徒でもあるとのことで、色香はあれど性とは無縁に違いない。
(改めて見ても、大きい・・・・・・)
そして彼女は、非常に目立つ。
整った容姿もそうだが、それ以上に際立って身長が高い。
百八十センチを超える体格を持っていて、集団の中では頭一つ抜けてる。
女子の中では高い方の私でも見上げなければいけない。本人が言うには、まだ成長が続いているというのだから、大人になったらどうなるのか。
「エルは治療できますから、怪我したらすぐに言って下さいネ?」
「治癒が苦手だから、助かるよ」
「私はちょっとどんくさいから、迷惑かけちゃうかも・・・・・・」
「ふふっ、迷惑だなんて。仲間は助け合うものでス。カレンさんも、主に願い、献身的に動けば自然とできるようになりますヨ」
彼女は私と同じ光魔法に適性がある。
学年でたった二人の光魔法の特性を持つ私達が同じ班になっているのは、相手の力を学べとの方針なのだろうと思う。
同じ光魔法ではあるが、私は攻撃系統が得意で、反対にエステルは治癒と防御が得意のようだ。
こうしてみると非常にバランスの取れた班だと思う。
前衛を近接が主体の二人が担い。中衛を遠隔から攻撃するアリスとエステル、後衛を私が担ってアリス達を守る。
それぞれが役割を徹底できれば、大抵の相手には後れを取らないだろう。
・・・・・・
・・・
迷宮の深部にいくにつれ、空気中の魔素が増幅するのが関係しているのか、比例して生物の強度も増すというのが一般的。
例に漏れず、この迷宮でも奥にいくにつれて生物の強さが上がっていく。
ただ――
「ふッ」
飛び掛かろうとした蜘蛛型の生物が、堅い甲殻を破壊されて、そのまま致命傷となり動かなくなる。討伐した当人は、周囲に敵がいないことを確認してから、討伐部位を採取して軽く汗を拭っている。
実習が始まり二時間近く。
幾度かの戦闘を経たが、ユーリの敵を認識する速さが尋常ではない。
奥に進むにつれ、迷宮の形も複雑になり、通路の上に横穴があったりなどと警戒する場所が増える。ここに住む生物に地の利がある地形だが、それにも関わらず、相手より先に動いたりする彼のおかげで、今のところ奇襲に合っていない。
どういう絡繰りなのかと、丁度休息の合間ということもあり聞いてみる。
「勘、だな!」
「・・・・・・」
「いや待ってくれ。疑う気持ちも分かるが、これは本当なんだ」
不信が顔に出てしまったようで、ユーリは慌てて言葉を続けた。
「俺は冒険者ギルドの依頼でよく討伐依頼を受けてるんだが、続けているうちにかすかに空気に乗る匂いや、視線を感じるようになった」
「・・・・・・まるで心眼みたい。だけど、あなたより経験があってもそんな感覚がない人の方が多いと思うけど?」
「まあ才能もあったんだろうとは思う。逆に、俺は魔法の適性はあるはずなんだが、使いこなせないんだ。発動させるだけで時間はかかるし、魔力操作に集中するからその場から動けなくなる」
「実戦じゃ厳しいわね」
「そうなんだよ。火力はあるんだが、完全に宝の持ち腐れでな。代わりに、身体強化魔法を磨いてるって訳だ」
ユーリは苦笑するように首を竦めて、大袈裟に首を振った。
できないことより、まずは身近な部分から手を付けて着実に成長してきたのだろう。
そして実際に戦いながら、実戦で利用可能な手札だと理解していることが強みとなっている。
(私も討伐依頼を受けようかな)
意識の変革も、成長には欠かせないものなのかもしれない。
「やっぱり簡単に成長できるようなものはない、か・・・・・・」
「まあ知らないものはあるだろうけどな。あんた、え~とカレンも俺から見れば十分凄いぜ!」
「凄い? なにもしてないけど」
「いんや、常に周囲に気を配ってるし。班員全員のペースを把握してる。戦闘になっても的確な動きと指示ができるってのが、俺からすれば別の生物に見えるぐらいだ」
全体を俯瞰する最後尾には欠かせない能力だが、こんな普通のことでも褒めてもらえると、少しむず痒い気持ちになる。
「リーバーさんはこんな狭所で槍を使いこなしてるし、アリスは前衛の呼吸に合わせて魔法を発動するから体感だと倍は戦闘が楽になる。エステルの治癒能力なんて、国で見ても稀有だ。全部俺にはできない」
視線は少し離れた先、小さいが怪我を負ったヘレン・リーバーをエステルが治療し、補助が間に合わなかったアリスがぺこぺこと頭を下げるのを、手を振って謝罪は不要だと苦笑している負傷者の姿があった。
ユーリはできないと言いつつ、言葉に否定的な気持ちはない。
相手への賞賛だけがあるように感じた。
「ふふっ、ユーリは人の長所を見つけられる天才ね」
「俺の長所だな! なあに、どれだけ自分が凄くても隣の芝生は・・・・・・隣の芝生は?」
「青く見える?」
「それだ! ・・・・・・余談だが、俺の短所には筆記が絶望的というのがある。ちなみにカレンの成績は?」
「この前は学園で六位だったわ」
『どうか教えて下さい!』と土下座をするユーリを慌てて立たせ、今度の休日に勉強を見る約束をした。
(●´ω`●)




