39話 休息日
公爵邸での作業を終えた翌日。
今日は休息日にすることにし、外出はしないことにした。
最近はなにやら人と関わる事が多く、知らずの内にも心労が溜まっているのか、よく溜息を吐いてしまう。
ここでリフレッシュして、一度思考をクリアにしておきたい。
(にしても、昨日は分かりやすい現象が出てくれて助かったな)
龍脈の近くで起こる、オーロラに近い現象。
確か、明るさが限りなく低い(0.01lx程度。街灯のない夜道ぐらい)状態でないと見えないもので、特に活用方法も少ないことで、さっぱりと記憶から消えていた。
今回はあれのおかげで、しっかりと波長を合わせられていることが確認できたのは大きい。公爵令嬢に大口を叩いておいて、失敗したとあっては途方に暮れていたかもしれない。あの天然娘に弱みを握られるという状況事態が恐ろしくもある。
一か月もあれば、ある程度成果も出るだろうと考えつつ、屋敷の廊下を移動する。
(さてと、今日も庭か?)
人には多様なリフレッシュ方法があるだろう。
前世での俺は、風呂に入ったり汗を流したりして休息していた。友人に至っては、徹夜でアニメを視聴することで精神回復していたらしい。目に隈を作りながらも笑う姿は、いっそ狂気的であったが・・・・・・
そして今世は、前世とは比較にならない程効果見込めるであろう方法がある。
「ケルン、一緒に遊ぼうか」
「キュっ? キュキュッ!」
伯爵邸の庭、その一角。
アイオーン達が過ごしやすいようにと、カルナ森林に生殖しているものと同種の木々を生やした区画がある。闇オークションで分捕ってきた品を換金した一部がここにあてられた。景観を重視するダルセンはやや消極的であったが、大切な精霊の環境整備の方が重要に決まっている。強引に俺が進めさせた。
そのかいあってか、最近はケルンがよく木々の中を走り回ったり、そのまま枝の上で寝たりしている姿を見かける。メイド達も、時折窓から見える姿に笑みを浮かべているため、全員が反対と言う訳ではないらしい。
「なにをしようか? 玩具を使った遊びか、鬼ごっこ、もしくはかくれんぼ――」
「キュウ!」
「分かった、じゃあかくれんぼにしよう」
ケルンは運動や、目新しいものが好きなようだ。
そしてアイオーンとしての本能か、能力を磨こうとする姿も垣間見える。
俺とのかくれんぼもそのいっかん。
場所は木々の生えている区画に絞るが、ケルンは魔法の使用ありだ。
アイオーンの固有魔法は【時間操作】。絞られた範囲でも、見つけるのは相当難しい。
中位の冒険者程度では、丸一経っても見つけられなくても不思議ではない。
ただ、そこは生物ギルドに所属していた俺だ。
(僅かな足跡、特有の臭いに、爪で登ろうとした跡)
アイオーンの行動方法はある程度頭に叩き込んでいる。
そこから痕跡を見つけて、徐々に追い詰める。
時間操作と言っても、まだ幼いケルンでは数秒が限界だろう。再び魔法を発動する前に、見つけてしまえばいい。
「ケ~ル~ン~」
目を光らせながら、四足で目線を合わせたりして索敵を続ける。
時折楽し気な声が聞こえたりして、惑わされたりもする。ケルンも揶揄うのが上手い。
「見つけた~」
「ピぃィイイイ?!」
幹の影から顔を出すと、隠れていたケルンが驚いた声を上げて勢いよく振り返る。
腰が抜けたように四足をがくがくさせている体を両手で抱え上げ、胸元に引き寄せる。
「す~~~~~~~~~~~はぁ~~~~~~~~~~~~」
勝者特権で、ふわふわの体毛に顔をうずめて深呼吸。
太陽と、独特の臭いが鼻孔を通って、満足メーターが振りきれる。
ケルンと一緒にいたら疲れ知らずで働き続けられそうだ。
このまま過ごせば、頂き女子もびっくりな金額を貢ぐことになるかもしれない。
そのまま遊び続けて数時間。
お昼ごろになると、満足したのかうとうとと瞼を閉じ初めて眠たそうにあくびを繰り返すケルン。
完全に意識が途切れたところで、母親のアイオーンに身を預ける。
身を丸めて眠るケルンを覆うように尻尾を動かす母アイオーンの姿に思わず涙を流しながら、俺はその場を離れた。
「えっ! 絵を描きたい、ですか?!」
「そうだ」
一通りの職務が終わっていそうなナーラに声を掛ける。
王都に来た当初は、彼女のドジな面が炸裂していたが、シルの教育もあってか、改善されつつある。
まあ、トレーニング後の水分補給では何故か躓いて、俺の顔に撒き散らすが。
これもいずれは治ると信じたい。今ではお家芸とでも思っているのか、使用人の誰も動揺せず、静かにタオルでふき取るようになった。
いや、お前等が担当を変わってやれよ。
「え、えぇ~ 絵なんてそんな、恥ずかしいです~」
「いいから早く来い」
「ひゃ、ひゃい!」
なにやらもじもじしているのを一喝し、自室に入れる。
取り敢えず椅子に座らせ、対面に俺が座る形で、そのまま模写を始めた。
(素晴らしい肌艶だ)
光沢のある肌。鋭い視線、そして体の周囲に見える淡い炎。
精霊種のサラマンダー。出会ってからまだそれほど時間も経っていないというのに、既に一センチ程成長している。
今のうちに姿を記録しておかねば、すぐに成体になってしまうかもしれない。
できれば精密に記録できる媒体が欲しかったが、そこまで早く用意はできない。
仕方なく 、絵に収めようということだ。
あまりサラマンダーにも負担はかけたくない。
筆の速さを意識して、それでも詳細に勇ましい姿を描写する。
ふと、視界内のナーラの動きに視線がいった。
緊張した面持ちで、なにやら表情に気を使っている様子。
(・・・・・・そう言えば、なにを被写体にするかは言ってなかったな)
表情を見れば自ずと彼女の心情が伝わってくる。
『どうな風に描いて貰えるんだろう! ちゃんと背筋も伸ばさないとだよね!』とでも考えているのだろう。
「・・・・・・伝え方が悪かった俺のミスか」
俺はサラマンダーの絵を描き終えると、紙をそっと二枚目に移す。
人物を描写する機会なんて早々ないため、あまり期待はするなよと内心で思い浮かべながら、あたりをつけてナーラと、彼女になついているサラマンダーの姿を絵にした。
「きゃぁああ~ ありがとうございます! クリス様は絵もお上手なのですね!」
「本職とは比べるべくもないがな」
「そんなことはありません! こんなに綺麗に描いて下さるとは・・・・・・一生大切にしますね!」
「こけて水で濡らすなよ?」
「ダルセンさんに頼んで、防水処理して貰います!」
「・・・・・・こけない自信はないんだな」
ドジを直すよりも、大切な物を保護することを優先するとは。
ある意味で自分の能力を客観視できているとも言えなくもないが、メイドとしてはどうなのか。
(まあ、いいか)
ある程度描き終えたものを渡せば、ナーラは花が咲いたように笑みを浮かべた。
「私達の絵だって。ねぇ~ 良かったね~」
肩にいるサラマンダーにも喋りかけている。
チロチロと舌を出しているサラマンダー。前世の爬虫類は感情がないと言われているが、サラマンダーはかなり自我があるような気がする。
目を細めたり、ナーラの頬をつついたり、体を寄せたり。
まあ爬虫類に近い見た目ではあるが、精霊だからだろう。どのような成長を遂げるかが楽しみだ。
その後は、鈍らない程度に体を動かして一日を終えた。
精霊と遊んで興奮し、柄にもなくメイドに感謝されたりと、今までできなかった経験でリラックスできたかは怪しいことろではあるが、悪くない一日だった。
(;O;)す~~~~~~~~~~~はぁ~~~~~~~~~~~~




