第2話 弱小騎士と悪徳令嬢らしくない日常
朝の庭、遠くから一人のメイドと金髪の少女が
正門で待つ白い金装飾の馬車に向かって歩いていく。
金髪の少女の名前はクエンシュ・リベル、この侯爵家の悪徳令嬢である。
メイドは昨日準備した鞄をクエンシュに渡し、送り出す。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「オ!..」
クエンシュは軽く返事をする。
十歳まで全く言うことを聞かなかったが、今の十四歳のクエンシュは
どこか成長した印象を与える。
過去とは違い、より鋭くなった目つきと洗練された所作から、
まだ十四歳なのかと疑わしくなるほどだ。
クエンシュは右手側の馬車の扉に向かいながらメイドに訊ねる。
「オレが言ったのは準備したの?」
「はい、ハイスベテムケナク。」
クエンシュはメイドの答えを聞き、馬車に乗り込む。
しばらくして馬車は出発し、メイドは頭を下げて馬車が去るのを確認した後、
頭を上げて振り返り、再び家事へと戻っていく。
馬車は山道を早く進む。
馬車内のクエンシュは両腕をひじ掛けにかけ、背を預け、
足を組み、視線をわずかに上に向け、淡々と待っていた。
王国騎士団の訓練場では、多くの騎士が鍛錬中だった。
教官は入口付近に立ち、彼らの訓練を見守る。
教官は背の高い、スラム風のスタイルで、顔色も良くない男だった。
その中でも、特に目を引く新人がいた。
他の騎士に比べ動きは遅く、速度も一拍遅れていた。
息も荒く、呻き声がこちらまで聞こえる。
しかし、目だけは生きていた。
その目の熱意は、まるで炎のように形を持つかのようだった。
時間が経ち、クエンシュが乗る馬車は内城に入り、すぐ城内へ。
クエンシュは王国騎士団に所属する騎士として、
日課を城内の訓練場で過ごさねばならない。
クエンシュは訓練場正門前で下車し、建物内部へ入る。
今日はやけに気合の入った騎士たちが鍛錬中で、
ここでも、あそこでも、団体で走ったり、試合をしていた。
クエンシュはすぐに精神がざわつき、場所を変えようとしたが、
騒音で満ちた広い訓練場では特に行く先もなく、
低い木箱に腰を下ろし、左足を半ば組み、右肘を反対側の足首に置き、
手で顎を支え、体を前に傾けた姿勢で、クエンシュは鍛錬中の騎士たちの中、
ただ一人ぼーっとしていた。
後ろで休む騎士たちの数人から、ささやき声が聞こえる。
クエンシュとは距離が離れていても、スキルでその内容はわかった。
「またあいつ来たな…」
「ああ…あの任務で不正な手段も選ばず使う人だ…」
「で、どうしてここに残ってるんだ…」
大体事実を口実にした自分たちの陰口であった。
もともとクエンシュは騎士団内で良くない印象を持たれていた。
しかし、クエンシュは気にせず、ただ黙っていた。
そのとき、教官が目を留めていた新人の一人が、
木剣を握り、肩をすくめながらクエンシュに近づいた。
朝の庭、遠くから一人のメイドと金髪の少女が
正門で待つ白い金装飾の馬車に向かって歩いていく。
金髪の少女の名前はクエンシュ・リベル、この侯爵家の悪徳令嬢である。
メイドは昨日準備した鞄をクエンシュに渡し、送り出す。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「オ!」
クエンシュは軽く返事をする。
十歳まで全く言うことを聞かなかったが、今の十四歳のクエンシュは
どこか成長した印象を与える。
過去とは違い、より鋭くなった目つきと洗練された所作から、
まだ十四歳なのかと疑わしくなるほどだ。
クエンシュは右手側の馬車の扉に向かいながらメイドに訊ねる。
「オレが言ったのは準備したの?」
「はい、ハイスベテムケナク。」
クエンシュはメイドの答えを聞き、馬車に乗り込む。
しばらくして馬車は出発し、メイドは頭を下げて馬車が去るのを確認した後、
頭を上げて振り返り、再び家事へと戻っていく。
馬車は山道を早く進む。
馬車内のクエンシュは両腕をひじ掛けにかけ、背を預け、
足を組み、視線をわずかに上に向け、淡々と待っていた。
王国騎士団の訓練場では、多くの騎士が鍛錬中だった。
教官は入口付近に立ち、彼らの訓練を見守る。
教官は背の高い、スラム風のスタイルで、顔色も良くない男だった。
その中でも、特に目を引く新人がいた。
他の騎士に比べ動きは遅く、速度も一拍遅れていた。
息も荒く、呻き声がこちらまで聞こえる。
しかし、目だけは生きていた。
その目の熱意は、まるで炎のように形を持つかのようだった。
時間が経ち、クエンシュが乗る馬車は内城に入り、すぐ城内へ。
クエンシュは王国騎士団に所属する騎士として、
日課を城内の訓練場で過ごさねばならない。
クエンシュは訓練場正門前で下車し、建物内部へ入る。
今日はやけに気合の入った騎士たちが鍛錬中で、
ここでも、あそこでも、団体で走ったり、試合をしていた。
クエンシュはすぐに精神がざわつき、場所を変えようとしたが、
騒音で満ちた広い訓練場では特に行く先もなく、
低い木箱に腰を下ろし、左足を半ば組み、右肘を反対側の足首に置き、
手で顎を支え、体を前に傾けた姿勢で、クエンシュは鍛錬中の騎士たちの中、
ただ一人ぼーっとしていた。
後ろで休む騎士たちの数人から、ささやき声が聞こえる。
クエンシュとは距離が離れていても、スキルでその内容はわかった。
「またあいつ来たな…」
「ああ…あの任務で不正な手段も選ばず使う人だ…」
「で、どうしてここに残ってるんだ…」
大体事実を口実にした自分たちの陰口であった。
もともとクエンシュは騎士団内で良くない印象を持たれていた。
しかし、クエンシュは気にせず、ただ黙っていた。
そのとき、教官が目を留めていた新人の一人が、
木剣を握り、肩をすくめながらクエンシュに近づいた。
「あの、ボクとダイレンしてくれないんです…!」
「は?イヤ、別のやつとやれ。」
「でも、他の方はボクとダイレンしてくれないんですよ…!」
新人の騎士は焦りながら、懇願する。
「お前みたいなザコは、どこかで転がってきた一般人でも簡単に勝つんだぜ。」
クエンシュは彼を無視した。しかし、クエンシュの言う通り、彼は体力不足で実力も凡庸な一般人レベルの弱者だった。初めて彼を見るクエンシュでさえ、すぐにその実力を見抜く。それだけでなく、さっきからこの建物の中で自分以外の別の騎士への不満の声も一緒に聞こえてきたことを、クエンシュは瞬時に理解し、間違いなくこの男に違いないと確信した。その騎士は、せがむのをやめると同時に疑問を口にした。
「わかりました。それなら他の方にお願いしてみましょう。でも、なぜあなたはただ黙っているだけなのですか?」
「そんな中途半端な連中から学ぶことがあれば学べばいい。俺は名目上ここにいるだけで、意味はない。」
騎士たちを無視して言葉を続け、その場を立ち去ろうとした瞬間、顔立ちがごつく日焼けした体格の良い騎士が、漆黒の大剣を肩に載せてクエンシュに近づき、話しかけてきた。
「こんなことまで聞いたら、放っておけないな…。」
「一度、俺の稽古に付き合え。」
男性が高い声でそう告げると、周囲は騒然となった。
「団長が稽古だ!」「あの女の自信満々の顔を見るのも、これが最後か。」
その男性は王国騎士団の団長だった。団長は自身の武器である黒い大剣を抜き、事実上、稽古を口実にした実戦勝負が成立する。そこにクエンシュは一切表情を変えず、退屈そうな顔で団長と稽古を始めた。しかしクエンシュは素手であまりにも軽く団長を倒し、背を向けるとつまらなさそうに手までひらりと返す。そして立ち去ろうとしたその時、入り口のそばに背を預けて稽古を見ていた教官が言った。
「おいクエンシュ!こいつと王都を巡回してこい。」
稽古を監督していた教官は、カリスマ性あふれる声で話しかけ、以前から目をつけていた新人騎士をクエンシュに付け、巡回を命じた。
「は?!なんで俺が行くんだ!」
面倒な仕事は嫌いなクエンシュは反抗的に言い返す。すると上官は強圧的な口調で命じる。
「黙って行け!上官の命令だ。」
上官が今日に限って強圧的に出たため、表情を歪め歯ぎしりするクエンシュは、その堅固な意思に押され、仕方なく従う。上官が強圧的に命じた理由は、情熱はあるが才能に恵まれない新人騎士と、才能で覆われたクエンシュという、相反する能力値の可能性を感じ、半分は興味本位、半分は期待と私心を抱いて二人を急遽組ませたのだった。クエンシュは不満を抑え、その騎士と巡回に出た。
二人がその場を離れた少し後、一人の騎士が団長に近づき、倒れている団長の腕を自分の肩に掛けて支えながら言った。
「大丈夫ですか!? 団長!」
団長は目を閉じ、口角を少し上げてすっきりした表情でつぶやいた。
「やはり、ああいう奴はどうやっても手に負えないな。」
一方、外城の首都のある通りで、クエンシュとその騎士は巡回していた。周囲には一般市民が歩き回り、賑やかだった。その中、二人は互いに目も合わせず、無言で歩いていたが、騎士が沈黙を破るために先に口を開いた。
「あっ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はヴァンレアです。」
「名前以外に取り柄のない、たいしたことない騎士ですが、これからよろしくお願いします。」
ヴァンレアは実力も指揮もぎりぎりで、彼が持っていたのは恐らく前向きな考え方と常に明るい笑顔くらいだった。
「用はない。」
前を歩くクエンシュは興味なさそうに目を下げ、ヴァンレアの反対側を見ながら歩いた。すると突然、遠くから騎士姿の男性を見た女性が、同行していた金髪の女性に焦った表情で駆け寄ってきた。それはヴァンレアと同行するクエンシュだった。女性はクエンシュに近づき、こう言った。
「あなた方は騎士ですよね?!…お願いです、助けてください…!1時間ほど前に道を歩いていた娘を見失って、今頃一人でいるはずです…身長はこのくらいで、ピンクのフード付きシャツを着ています…」
女性は手で娘の体型を示したり、服の色を言ったりと、焦りのあまり説明が支離滅裂だった。その焦る女性に、クエンシュは言う。
「は?そんなの自分でやれ。」
クエンシュは面倒くさそうに、冷たく拒否した。
「クエンシュさん?!」「それはひどいです!この女性も必死なのに!」
ヴァンレアは一瞬戸惑い、急いでクエンシュを呼び、何とか説得しようとする。
「お願いです…お願いです…。うちの娘は心が弱いので、今頃どこかで泣いているかもしれません…」
「クエンシュさん…!」
「ああ、うるさい!それほど重要なら、お前が助ければいいだろ!」
悲痛に助けを求める女性と急かすヴァンレアを見て、クエンシュはヴァンレアに押し付けるように言い、これ以上話すことはないと背を向けた。ヴァンレアは女性に近づき、クエンシュに向かって言う。
「はい、クエンシュさんがやらないなら、私がやります。」
ヴァンレアはクエンシュの態度に呆れたように表情を引き締め、結局、女性とヴァンレア二人で娘を探すことになった。その直前、クエンシュは助言する。
「おい、娘と通った道を戻った方がいいぞ。」
ヴァンレアは、無責任な言葉だと思いながらも、不思議な感覚を覚えた。しかし娘の居場所が分からず、クエンシュの言う通り、女性と娘が通った道を聞きながら探していくと、ほどなくして娘を見つけることができた。女性は娘を見つけて喜び、抱き上げる。娘に聞くと、母と離れた後、偶然通った場所を覚えていて、そこにじっといたという。女性は謝った。
「すみません、実はあまり頼りにならない方だと思って隣の女性に声をかけたのですが、完全に誤解でした。」
「あ…はい。」
ヴァンレアは作り笑いを浮かべつつ、内心少し悔しさを感じた。その直後、ヴァンレアはクエンシュの助言で感じた不思議さの正体が分かりそうな気がした。
「これは確かに、ただの無責任な言葉じゃない…」
そして後日、ヴァンレアはクエンシュを探し、ある店のテラス席に座って話す。ヴァンレアの向かいに座ったクエンシュは、腕を組み、椅子を半分後ろに倒し、意地の悪い微笑みを浮かべてヴァンレアを見つめる。その余裕ある態度に、ヴァンレアは少し緊張し、慎重に質問する。
「もしかして、あれを知った上で言ったのですか…?」
「何を?」
「あの助言のことです!」
クエンシュはヴァンレアの問いにじらすように答え、ヴァンレアが大胆に尋ねると、クエンシュは淡々と返答した。
クエンシュは淡々と答えた。
「まあ、位置と姿さえ特定できれば、スキルで数分以内に見つけられる。」
クエンシュは女性の必死の訴えを聞くや否や、探索系スキルを使い、王都から1時間ほど離れた場所からわずか数分で、多くの民が行き交う王都の中で女の子1人の位置を特定したことを、あたかも大したことではないかのように語った。
「じゃあ、クエンシュさん、全部知ってたんですか?」
「おお、すごいな。俺もクエンシュさんみたいになりたい!」
「なら好きにすればいいだろ、なんでわざわざ遠回りするんだ?」
「でも俺は虚弱だし、クエンシュさんみたいなスキルもないし、頭も悪いから――」
「何言ってんだ、こんなの、お前みたいな小物でもできることだ。」
問い詰めるように話すクエンシュに、ヴァンレアは答えようとしたが、クエンシュは途中で口をさえぎり、くだらない考えを否定した。
「よく聞け。そんな細かいこととは関係なく、魔力さえあればスキルは誰でも使えるんだ。」
熱意はあっても、能力や知識面でほとんど何も持たないヴァンレアを、クエンシュはやや気の毒に思いながら、スキルの概念を説明する。ヴァンレアは自分でもスキルを習得できるという事実に、少し心が躍る。
「え?本当ですか?」
「そうだ。スキルは習得するには、一定の行動レベルが特定の基準に達すると、スキルとして認識され、使用者の頭にその情報が入り、スキルを覚えるんだ。しかし最初に覚えたスキルは情報が粗雑だから、習得したスキルは熟練度を上げれば、使用時の情報がより精密になり、使用効率が上がる。そしてスキルの本質への理解が深ければ熟練度も早く上がる。覚えておくといい――」
話している途中で、クエンシュはふと我に返る。つい話しすぎてしまったことに気づいたのだ。
見ると、ヴァンレアは完全に夢中になったように目を輝かせていた。クエンシュは再び姿勢を正し、ヴァンレアに選択肢を示す。
「今のお前に魔力があるかどうかも分からん。」
「え?!じゃあ、スキルは覚えられないんですか?」
クエンシュは哀れむように言った。
それを聞いたヴァンレアは目を見開き、突然焦って慌てる様子を見せた。
「いや、別にそういうわけじゃない。スキルには5系統の属性がある。元素系、精神干渉系、物理系、強化系、炎神系だ。そして物理属性スキルは魔力なしでも習得できる。だからそれを教えてやる。」
「はい!ありがとうございます、頑張って覚えます!じゃあ、まず何から始めればいいですか?」
「お前は戦闘系スキルには向かない。逃げる、物を運ぶ、投げる、救助する――そんな雑用向きのスキルがいい。」
「それってスキルなんですか?!」
ヴァンレアはクエンシュに教えを請い、クエンシュはスキルを推薦する一方で彼を軽んじる。しかしヴァンレアは、自分が軽んじられたことに気づく。
「言っただろ、一定の行動が特定の基準に達して初めて習得できると。やみくもに手に入れられるわけじゃない。」
そう、ヴァンレアのようにすべてがギリギリの騎士にとって、これらのギリギリのスキルですら、やっと基準に達したものだった。ヴァンレアはその言葉に納得する。
「私…クエンシュさんを誤解していました!こんなに素敵で博識な方だったなんて!」
ヴァンレアは感謝の気持ちを伝え、ここからクエンシュを騎士として憧れるようになる。
巡回終了後、訓練場で教官に首都での迷子事件を報告し、それがヴァンレア単独で解決したこととして報告され、ヴァンレアの功績となった。報告前、ヴァンレアはクエンシュが助言してくれたことを言及したが、一緒に報告に来ていたクエンシュは横からこう言った。
「は?!何言ってんだ、俺は何もしてないぞ。」
上官は疑念を抱いたが、クエンシュの証言で一応、ヴァンレアの功績として報告された。
正午を過ぎ、クエンシュは訓練場を出ようとする。
その瞬間、背後から誰かが走ってくる。
「クエンシュさん!」
クエンシュは足を止め振り返る。ヴァンレアが喜ぶ様子で駆け寄り、クエンシュの前で止まる。
「本当にありがとうございます。あの時直接出なかったのは、私が事件を解決したように見せるためだったんですね。しかも助けた女性が王国の重要人物だったので、その功績のおかげで騎士団から除名は免れました。」
ヴァンレアは、クエンシュが直接動かなかった理由を自分で理解し、輝く目で感謝する。
「勘違いするな。あの時は本当に面倒だっただけだ。」
クエンシュは淡々と背を向けて再び歩き出す。その大らかさに、ヴァンレアは最後まで手を振り、声高に感謝した。
「スキルを教えてくださってありがとうございます!私に可能性を与えてくださってありがとうございます!」
ヴァンレアは、遠ざかるクエンシュの後ろ姿を見ながら独り言をつぶやく。
「本当に…」「本当にどれだけ感謝しても足りない方だ。」
クエンシュはフラッシュ暗算が得意だろう。
クエンシュは団長を倒すとき、一度もスキルを使わなかった。
個人の技量だけで勝ったのだ。
クエンシュ・リベル:14歳
バンレア:17歳
団長は決して弱くない。
次回はバンレアの修練と、悪徳令嬢の冒険者としての日常が描かれる予定だ。




