緊急会議!
「緊急会議だぞい!!!」
とある休日ーーー。
私たちは今、スカーレットのグスタフソン侯爵邸に集まっている。
参加者は、私、ミレーネ、モアナ、ダミエレ様、そしてアドバイザーとしてスカーレットのお兄様たちであるフレイム様、シャーマ様、モアナのお姉様であるマリエ様である。
なぜ、みんなが集まっているかというと・・・
「リュドヴィック殿下のお誕生日プレゼント!考えるぞい!!」
そう高らかに宣言したスカーレットは、真っすぐに拳を突き上げた。
「「「「お~!」」」」
スカーレットの後に続いて、声を上げて拳を上げる私たちである。
一番声が大きくてノリノリなのはマリエ様であるが、スカーレットに合わせてあげるフレイム様、少し面倒くさそうにしながらも無下にはできないシャーマ様。そして、スカーレットに慣れっこのモアナに、恥ずかしそうにしながらもピンと腕を伸ばすミレーネ、無表情だけどちゃんと合わせるダミエレ様。
私は、理由が何であれ、こうして集まれていることが嬉しくて、自分の精神年齢も忘れて大きな声を出して拳を高く上げた。
先日、リュドヴィック殿下から誕生日パーティーの招待状をいただいたのだが、まさか手ぶらで参加するわけにもいかないため、こうして緊急会議を開催したわけである。誕生日パーティーまでは1ヵ月もないのだ。
しかし、まだ私たちはまだ子供。王族への贈り物もしたことがないため、何を贈ればいいのかも想像がつかない。
私は、たしかに前世では贈ることはなかった贈り物たちを準備したことはあったが、それは殿下の婚約者となった中等部の時から。まだ10歳にも満たない殿下が、何を欲しがっているのか、何が王族の子供に相応しいのか、私にも分からないのだ。
そのため、年上のフレイム様たちに助言をいただこうと協力してもらっているわけである。
緊急会議の幕があけると、白熱した意見が交わるかと思いきや沈黙の時間のほうが多い。
それぞれが考え込んでいる。
「王族・・・」
「王子・・・」
「8歳・・・」
「高価すぎるのは買えないぞい・・・」
皆が同じようなことをブツブツと呟きながら、やはり同じことで悩んでいるのがわかる。
8歳の王族の男の子に相応しいのは何か、と。
しかも、私たちの希望で、私たちのお小遣いの範囲で用意できるもの、だ。
今回のリュドヴィック殿下の誕生日パーティーは公的なものではないため、私たちは”友人”として招待をされた。だから、私たちも友人として贈り物をしたいというのが満場一致の意見であった。
しかし、やはり”王族”という立場を考えてしまい難航しているわけである。
「やっぱり、無難なところは羽ペンかしら・・・?」
「殿下は、いいものをお持ちだろう」
「あら!?お友達が選んでくれたのなら嬉しいに決まってるわよ!なんてったって、かわいいモアナが選ぶのだから!!」
「選ぶのはモアナだけではないだろう。このシスコンが」
マリエ様とフレイム様の軽快なやり取りを聞きながら、
「羽ペンも高価なものは高価だけど、私たちのお小遣いを合わせれば手触りがいい羽ペンくらいは買えるかな?」
私も提案してみたが、みんなの反応を見るにあまりパッとしないようだ。
その後も、あーでもない、こーでもないと話し合っていると、部屋の扉がノックされた。
すると、スカーレットが、
「来たぞい!!」
と、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
みんなが「誰が?」という顔をしながら見合わせていると、扉が開き侍女がお辞儀をしながらスカーレットに伝える。
「スカーレットお嬢様、お客様をお連れ致しました」
「ありがとう!入っていいぞい!!」
スカーレットが声をかけると、侍女の後ろからひょっこりと顔を出したのはーーーーー。
パン屋さんのアンであった。
侍女に促されて、おずおずと入室してきたアンだったが、目の前にいる貴族の多さに驚いているようだ。
「「「「アン!!」」」」
私たちが駆け寄ろうとするよりも前に、シャーマ様がアンのもとへ駆け寄った。
「アン!どうしたんだ!?」
「あのね、えっと、スカーレット......さまに、誘われた......です」
パン屋さんへグスタフソン兄妹はよく行くそうだ。パン屋さんでは約束通り敬語も敬称なく呼んでいるのだろうが、ここでは拙い敬語を頑張ろうとしている。
「スウ!どういうことだ!?」
シャーマ様が、何も聞いてないと言いながらスカーレットのほうを見るが、スカーレットは腰に手を当てながら自信満々な態度で、
「ふっふっふぞい!よくぞ聞いてくれたぞい!!アンにも意見をもらおうと思ったんだぞい!!」
「アンに?」
「そうぞい!ダミエレ様から、リュドヴィック殿下は庶民の流行に興味を持ってるって聞いたぞい!だから、アンに聞くのが一番だと思って誘ったんだぞい!!」
「ダミエレ、そうなのか?」
今度はフレイム様がダミエレ様に問うと、ダミエレ様はコクンと頷いた。
「はい、その通りです。殿下は、庶民の方々の生活などに興味がおありですが、さすがに庶民の方々が好んで使うようなものをご自分で用意することはできないようです」
「まぁ、たしかに王族の品位を保つためには、簡単にはいかないのかもしれないな」
フレイム様も納得するように頷く。
リュドヴィック殿下は、王都にある庶民向けの学校へ定期的に剣術や勉強を教えに行っている。そこで、庶民の方々と触れ合ううちに庶民の生活にも興味を持ったのだろう。
「でんか?」
アンが目を丸くしている。
「ア、アン!座ってぞい!!」
スカーレットは、アンに詳しくは説明していないのだろう。あまりに不自然な態度で、アンの手を引きながらスカーレットの隣に座らせている。
なぜか少しだけ不機嫌そうにしながらも、シャーマ様もご自分の席に戻られた。
しかしながら、アンに詳しく説明できなかった気持ちもわかる。まさか、「王族であるリュドヴィック殿下の誕生日プレゼントに庶民で流行のものを贈りたいから相談にのってほしい」なんて、言われたほうも恐れ多すぎて気が引けてしまうだろう。
そのことに誰もが察知したようで、それからは殿下の名前は出さずに話が進められた。
「このパンのカスタードクリーム、美味しいわね~!!」
空気を変えるようにマリエ様が、アンが持ってきてくれたパンに感動の声をあげる。アンが、おやつにもなりそうなカスタードクリームやチョコレートクリームが入ったパンを、籠いっぱいに持ってきてくれたのだ。
「あ、ありがとう.....ございます。でも.....あたしが作ったから.....不格好で.....ごめんなさい」
「まぁ!このパン、アンちゃんが作ったの!?」
「は、はい。まだまだ、父さんや母さん、兄さんのようには上手くできない......できませんが」
「あら!ほんっっっと~~~に美味しいわよ!!アンちゃんは天才!!やっぱり、かわいいモアナの周りには、かわいい子や天才な子が集まってくるのね~!!」
「シスコン、うるさい。それで、アン。今、庶民の人々のなかで流行っているものはあるかな?」
フレイム様がマリエ様を静かにさせると、アンに優しく問いかける。
アンは、マリエ様とダミエレ様だけが初対面ということもあり最初は緊張していたが、他のメンバーとは以前から交流があるため、少しずつこの場にも慣れてきたように答える。
「流行っているもの・・・底が焦げにくい鍋とか?」
「「「鍋・・・」」」
「鍋を傷つけにくいお玉とか?」
「「「お玉・・・」」」
王族に鍋やお玉を贈っても使うだろうか。
「アン、、遊ぶ、、ものは?」
「遊ぶもの・・・学校では紙ヒコーキを作って誰が一番遠くに飛ぶかとか、ドッチボールをしているよ」
王宮で紙ヒコーキを飛ばしていいのだろうか。ドッチボール・・・って、人にぶつけ合うものよね?王族に対してボールを当てていいのかしら・・・リュドヴィック殿下なら笑って「いいよ」と言いそうだが、やはり現実的ではない気がする。
ほら。
皆、首を横に振っている。
「アン、身に着けるもので流行っているものはある?」
今度は、私がアンに質問してみる。
「う~ん。あっ、ミサンガとか?」
「「「ミサンガ?」」」
「うん!あっ.....はい。ミサンガは糸で編んだもので、手首とか足首につけるの!です。編む模様によって意味があって願いが叶うって言われていて!です。自分用に作る人もいるし、友達や恋人にプレゼントしたり交換する人もいるみたい!です」
「ブレスレットやアンクレットみたいなものなんだね~」
ミレーネは、ミサンガに興味があるようで瞳をキラキラさせている。
すると、頬に手を当てながら考えているマリエ様が、
「どういうものなのかしら?まずは、実物を見ないことには何とも言えないわよね~」
「ごめんなさい。あたしは、ミサンガつけてないんです・・・」
「あら!?アンちゃんが謝ることではないわよ~!!責めてるわけじゃないから気にしないでね~!!」
マリエ様がアンの頭を撫でまわす。
「お姉さま、、アンの、、髪、、ぐしゃぐしゃ」
ミサンガというものを誰も見たことがないから、プレゼントに相応しいのか相応しくないのかの判断もつかない。
「誰か持っていれば見ることができるんだけど・・・」
私の呟きに対してミレーネが、
「あっ!侍女や使用人の人なら持ってないかな?」
「ナイスぞい!ミレーネ!ちょっと聞いてくるぞい!!」
そう言いながら立ち上がったスカーレットは、走って部屋を出て行ってしまった。
「誰か~!!ミサンガ持ってないぞいか~!!」
遠くのほうから、そんな声が聞こえてくる。
フレイム様もシャーマ様も、「そんなに走りたいなら鍛錬を増やしてあげよう」と言いながら苦笑いしているではないか。
そうして、数分後には1人の侍女を連れてスカーレットが戻ってきた。
先ほど、アンを案内してきてくれた侍女である。
「キャシーがミサンガを持ってたぞい!!」
キャシーと呼ばれた侍女は、その手に本を持っており、本の上に乗せられた銀色の小さいトレーには何かが乗っていた。
「キャシー!見せてあげてぞい!!」
「失礼いたします」
キャシーは、テーブルの上へ静かに銀色の小さいトレーを置いた。
トレーに乗っていたのは、白と緑色をした斜めストライプ柄のブレスレットだった。
「これがミサンガだぞい!!」
スカーレットが得意げに言う。
「これが糸で出来ているなんて」
「これを作れるって天才では!?」
各々が、初めて目にしたミサンガへの感想を口にする。
「キャシーは本も持ってたぞい!これに作り方も載ってるぞい!!」
「見せてもらってもいいかい?」
「もちろんでございます」
フレイム様がキャシーから本を受け取り、みんなが見れるようにテーブルの真ん中に置いた。
みんなでパラパラと流し読みしていると、どうやらこの本にはミサンガの模様の意味や、その模様ごとの編み方が書かれているようだった。
糸を使い布に刺繍をすることはしているが、糸でこのように身に着けるものができるとは知らなかった。
「これなら繊細な模様ですし、足首にアンクレットとして身に着けていただくのはどうかな?」
「アンクレットなら、ズボンで隠れて見えないものね!」
「賛、、成」
「ダミエレ様はどう思うぞい?」
「これでしたら、見えない部分に身に着けられるものですし、庶民の方々の流行を取り入れられているので、いいと思います」
「じゃあ!これで決まりぞい!!」
私たちは納得のいく贈り物が決まり、笑顔で頷いた。
「それなら、糸を少し奮発したらいいじゃない!?お勧めは貴族通りにある、あのお店ね!!」
「でも、誰が編むんだぞい?」
スカーレットの言葉に、私たちは顔を見合わせる。
「みんなからのプレゼントだから・・・順番に編んでいくのはどう?」
「いいね!少しずつなら、初めて編むけど安心だもの!」
「異論、なしです」
「スカーレット、、も、、ね」
「うぐっ!が、がんばるぞい!!」
こうして私たちは、初めてのミサンガ作りに挑戦することになった。
ミサンガの糸は質をいいものにして、リュドヴィック殿下の色である金色と明るい青色にした。
そしてミサンガの模様は、稲妻みたいなジグザグ柄に。意味は、”魔除け”や”決断力”らしい。
「乙女、、〇〇、、には、決断力、、必要」
モアナの一言で決まった。正直に言えば、私とスカーレットは意味が全くわからなかったが、ミレーネもダミエレ様も納得しているからいいのだろう。
フレイム様もシャーマ様も、無事に決まったことに安堵していた。
マリエ様とアンは、
「私も編んでみようかしら!?」
「お貴族さまも、ミサンガつけるんですね~」
と、笑いながら話していた。
ーーーーー無事にリュドヴィック殿下への贈り物が決まり、グスタフソン侯爵邸から帰る時。
玄関の扉から外へ出る前に、私は玄関横の壁を見上げた。
その壁には、大きな肖像画が飾られている。
肖像画には、髪は黄赤色をした長いストレート、瞳は茶色をしており、優しく微笑んでいる女性。
すでに亡くなられている、グスタフソン侯爵夫人である。
スカーレットのお母様。
ここへ来た時、「わたしの母上だ」と紹介してくれたスカーレットの瞳が、少しだけ悲しそうに見えたことが気がかりだった。
最後にもう一度、スカーレットのお母様を見上げて伝えたい。
『スカーレットと友人になれた私は、とても幸せです』
スカーレットが、上手にミサンガを編めるように祈ってもおこう。
~リュドヴィックのミサンガが完成するまで~
ミサンガの編み方を本から各々が書き写して、自宅に余っている糸で練習を開始。
プレゼント用の高級な糸は、貴族通りにある貴族御用達のお店で購入しました。
この糸の、なんと肌触りのいいことか!!
ある休日の天使殿を掃除したあとに、クリスティナたちは買いに行きました。
残念ながら、ダミエレは来れなかったようです。
ほとんどの時間をリュドヴィックと過ごすダミエレは、緊急会議のあの日は「フレイム様とシャーマ様に呼ばれた」と伝えていたわけですね。
そう何度も、グスタフソン侯爵家に呼ばれたとなると不自然ですし、何よりリュドヴィックが「オレは誘われないのか・・・」と拗ねてしまいそうなので、ダミエレは4人娘に託したわけです。
ミサンガ作りの練習は、精神年齢17歳のクリスティナは編み方さえわかればお手のもの、ミレーネもモアナもダミエレも器用なほうなので少しずつ上達、不器用なスカーレットは侍女のキャシーに猛特訓してもらいながら練習しましたとさ(笑)
その姿を、扉の隙間から見守る兄や姉たち・・・。
本番のプレゼント用のミサンガを編む順番は、モアナ→スカーレット→ミレーネ→ダミエレ→クリスティナに決まったそうです☆彡
無事に完成できるかな!?




