リュドヴィックからの招待状
もう少しで、夏休みへと突入する頃ーーー。
学園の授業が終わり、私、ミレーネ、スカーレット、モアナは、ある場所に向かって学園の廊下を歩いていた。
今日は、期末テストの結果発表があり順位が廊下に掲示されたのだが、4人とも昨年よりも順位が1つずつ上がり、私が6位、ミレーネが7位、モアナが8位、スカーレットが9位だったのだ。ちなみに、1位は変わらずにリュドヴィック殿下、2位はダミエレ様である。
スカーレットなんて、「シャーマ兄上に自慢できるぞい!」と言いながら、廊下をスキップして喜びを全身で表現しているし、その後ろからモアナが、「スカーレット、、落ち、、着き、、が、、ない」とツッコミを入れているしで、私とミレーネはクスクスと笑ってしまう。
みんな、露店の課外授業を手伝ってくれているおかげなのか、人に教えることで自分の復習にもつながり、授業内容の理解度を上げたようだ。特に、スカーレットの一番上のお兄様であるフレイム様には、「剣にしか興味を示さなかった、あのスカーレットが・・・」と、感謝までされてしまった。
しかも、フレイム様は今年から高等部へと進級したのだが、高等部のカフェで購入したのであろうお菓子(おそらくアンのパン屋さんの)まで、お礼にといただいてしまった。
きっかけが何であれ、スカーレット自身が努力したからなのだが・・・。
しかし、ここでお礼を拒否するのも子供らしくないかと思い、「ありがとうございます!」と笑顔で受け取った。私だけでなく、ミレーネとモアナにも「いつも、妹と仲良くしてくれてありがとう」と、お菓子を渡していた妹思いの優しいフレイム様である。
それをモアナの隣で見ていた、モアナのお姉様でありフレイム様の婚約者でもあるマリエ様が、「フレイムがカフェでお菓子を買ったの!?買っているところを想像するだけで・・・ムフフッ!!」と、フレイム様をバシバシ叩きながら大笑いしていたのは、今日のお昼休みの出来事である。
期末テストの結果に満足する者、お菓子をもらえて満足する者、それぞれがホクホク顔のまま目的地へと到着した。
ーーー音楽室である。
『ーーー今日の放課後、帰る前に渡したいものがあるから、音楽室に来てほしいんだ』
リュドヴィック殿下の言葉だ。
食堂で言われたのだが、食堂では渡せないものらしい。あまり、人には見せられないものなのかな。
そのため、帰るために馬車の待機場へは向かわずに音楽室へと来たのである。
音楽室の扉をノックしようとしたのだが、その前に内側から扉があけられてしまった。
「どうぞ」
人の気配を察知する素晴らしい能力だ。さすが殿下の側近候補である。
ダミエレ様があけてくれた扉から私たちが入室すると、すでにリュドヴィック殿下も待っていた。
ダミエレ様は廊下を確認してから扉をしめると、殿下に頷いてみせる。
「わざわざ来てもらって申し訳ないね。でも、来てくれてありがとう」
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「どうしたぞい?何かあったぞいか!?」
「音楽、、室、、防音、、バッ、、チリ」
「な、なにか、し、して、しまいましたか?」
四者四様の返答である。
「あはは、そんなに身構えなくて大丈夫だよ。食堂でも伝えたように、みんなに渡したいものがあったんだ。でも、モアナ嬢の言う通り、防音設備がしっかりとしているから音楽室にしたんだ」
音楽室は、芸術を学ぶためにピアノやバイオリンなどを演奏する教室である。そのため、音が外に漏れないように防音設備がなされている。人の話し声だって廊下にいても聞こえない。
何か重大な話をされるのかと少し身構えてしまうが、
『初等部2年生の私たち4人に重大な話なんてするかしら?』
と、今度は不思議に思っていると、殿下がご自分の鞄から4通の封筒を取り出した。
「ぜひ、みんなに来てもらいたいんだ」
殿下が自ら、私たち一人ひとりに封筒を渡していく。
淡い黄緑色をした可愛らしい封筒の封蠟を見て、私は僅かに目を見張ってしまった。
『この封蝋は・・・王室のものではない。リュドヴィック殿下個人の封蝋だわ』
王室主催の晩餐会の招待状や政治的な手紙には王室の封蠟が使用されるが、王族ごとに個人の封蝋も存在する。個人の封蝋は完全にプライベートなもので、例えば友人や婚約者などへの手紙に使用されるものだ。前世の私も、殿下の婚約者となり初めて殿下とお茶会をする時に、殿下から手紙をもらった。それには殿下個人の封蠟が押されていたが、あの手紙が最初で最後だった。
少しだけ前世のことを思い出して寂しくなっていると、
「わ~!!あけてもいいぞいか?」
そこに、スカーレットの明るい声が響く。音楽室のためか、いつもより響いて聞こえる。
「うん!」
殿下の年相応な明るい声も響く。なんだか、殿下のほうがワクワクしているように見えるのは気のせいだろうか。
「失礼します」
私も、そう口にしてから封筒をあけると、中に入っていたのは招待状だった。
「誕生日......パーティー?」
誰の?と思ったが、この招待状を渡してきたのは、まぎれもなくこの国の第一王子であるリュドヴィック殿下である。まさか、他人の誕生日パーティーの招待状を殿下が渡してくるわけがない。
「おぉ!ついにやるんだぞいね!!」
「行く、、おなか、、すかせて、、行く」
「ぜ、ぜ、ぜひ、行かせてください!」
「えっ!?みんな知っていたの!?」
どうやら、驚いているのは私だけのようだ。
「まだ誕生日パーティーを開くか確定していない時に、ボクがポロっと口に出してしまったんだ。だから、みんなには確定するまで内密にしてほしいって頼んでいたんだよ。ごめんね?ボクの誕生日パーティーは初めてするんだけど、クリスティナ嬢にも来てもらえたら、すごく嬉しいな・・・」
「いえ.....少し.....驚いてしまっただけで.....えっと.....はい、行かせて、いただきます」
殿下本人を目の前にして、断れるわけがない。
私は戸惑いを隠せずに返事をしてしまったが、殿下は何故かパァ~っと朝日が昇ってきたかのように笑ってくれた。
「でも、どうして音楽室なんぞい?」
「それはね、今回の誕生日パーティーは公的なものではなくて私的なものなんだ。だから、ボクが信頼している親しい人しか参加しない小規模なものだから、あまり知られてほしくないんだ。パーティーの日も、学園は夏休み中だし話題になりにくいかなって」
「「「「なるほど・・・・」」」」
私たち4人の声がハモった。
「場所は・・・王宮の庭園ぞいね!楽しみにしてるぞい!!」
「王宮は初めてです!わたしも楽しみです!」
「えっと......私も楽しみにしています」
「殿下、、誘え、、た、、男」
こうして、モアナの謎な言葉とともに、私たちは夏休み中にリュドヴィック殿下の誕生日パーティーへ参加することになったのだった。
ーーーーーリュドヴィック殿下の誕生日は8月。
夏の太陽のように光り輝く金色の髪、夏空のような青い瞳の持ち主に相応しいと何度思ったことか。
前世の殿下は、誕生日パーティーをするような方でも贈り物を受け取るような方でもなかった。
だから、今世の殿下から誕生日パーティーの招待状をもらって驚きすぎてしまったのだ。
どういう心境の変化があったのだろうか・・・と。
誕生日パーティーに出席するのことが本当に正しいのかわからない。
これ以上、親しくならないほうが平穏なのではないかと考える自分がいる一方で、「ボクが信頼している親しい人しか参加しない」という、殿下の言葉を嬉しく思ってしまった自分もいる。
そうーーーーー純粋に嬉しかったのだ。
前世ではーーーーー信頼を得られなかったから。
今はーーーーー。
ミレーネ、スカーレット、モアナ、それにダミエレ様もいる。
”私はひとりじゃない”
だから、そんなに気を張らなくていいのかもしれない。
少し楽しいことを考えてみようか。
もしかしたら、王宮のあの場所も見ることができるかもしれないではないか。
そのようなことを弟のネオと遊びながら考えていたら、少しずつ、少しずつ、リュドヴィック殿下の誕生日パーティーが楽しみになってきたのであった。
「ふふふっ」
「きゃ!きゃ!」
なんだかネオも嬉しそうである。
なんで(笑)
リュドヴィックがクリスティナたちに、自分の誕生日パーティーの招待状を渡しているころ・・・。
王宮のリュベルト陛下の執務室には、クリスティナの父グレイソンがいた。
「は?誕生日パーティー?」
「そうなんだよね~。リュドが珍しく誕生日パーティーをしたいって言ってきたんだよ~」
この飄々と話す男が、このコフィア王国の国王リュベルトである。
リュドヴィック殿下は子供ながらに落ち着いていて、大々的に誕生日パーティーなどを開こうものなら、娘を殿下の婚約者に据えたい者や、息子を殿下の側近に据えたい者の「ごますり合戦」が繰り広げられることを理解しているため、そういった公的な催しは周囲がどんなに熱望しようが首を縦に振ることはなかった。
「それで、うちのティナにも参加してほしいって?」
「うん。って言っても、今回は公的なものではなくて、あくまで私的な集まりだよ~。人数も10名くらいって聞いてるよ~。誕生日パーティーをきっかけに親交を深めましょう、的な?今頃、リュドからクリスティナ嬢に招待状を渡してるんじゃない~?」
「私的な集まりって言っても、断れるわけないだろう」
「断らないであげてよ~。あのリュドが、年相応な少年のようにワクワクしながら準備してるんだからさ~。初めて誕生日パーティーを開きたいって頼んできて、ターニアも喜んだんだよ~」
ターニアとはリュベルトの奥様、つまりコフィア王国の王妃である。
「親としては、誕生日パーティーはかわいいお願いで嬉しいかもしれないが、小規模なパーティーということは逆を言えば特定の人物しか誘わないということだろう?貴族ならまだしも、王族が特定の人物しか誘わないとなると、バレた時に面倒なんじゃないのか?」
「そこは、小規模ながらも隔たりがないように調整してるよ~。リュドも阿呆ではないしね~。だから、クリスティナ嬢から誕生日パーティーのことを聞いても、快く送り出してあげてね~」
「はぁ~、ティナを面倒ごとに巻き込まなければ、それでいい」
「グスタフソンもいるし大丈夫でしょ~。あっ、そうそう。誕生日パーティーの前にワグナー伯爵領の件だよ。どうなった~?」
「ワグナー伯爵は、学園の夏休み中にワグナー領へミレーネ嬢と戻るそうだから、その時に俺とティナが滞在する許可をもらったよ。ティナには今日、ワグナー領へ旅行に行こうと話すつもりだ」
「あっちは?」
真面目なトーンで聞き返すリュベルト。
それに対して目を細めるグレイソン。
「コスキネン伯爵も了承済みだ」
「頼んだよ」
その日の夜、グレイソンが例の”古代文字の古びた本”の件で、王室書庫管理室を出入りするようになっていたらしく、グレイソンとワグナー伯爵が仲良くなっていたと知ったクリスティナ。
グレイソンに、夏休みにワグナー伯爵領へ旅行に行こうと誘われたクリスティナは大喜び。大好きな友達、ミレーネの故郷である。
クリスティナは同日に、ワグナー伯爵領への旅行、リュドヴィック殿下の誕生日パーティーと、ビックイベントが2つも夏休みの予定になったのであった。




