お誘い
「ひょ……」
教師から渡された成績表を見て。ちょっと変な声が出ちゃった。いや、でも、これはちょっと予想外だし……。
学園では、当然ながら幼少から教育を受けてる貴族が有利だ。商人の子供ならともかく、そうでもない家の子供では下から数えた方が早い順位になる。
私も前世の知識があるとはいえ、この世界の歴史とかマナーとか知らないことが多いから、座学以外は自信がなかったんだけど……。
「五位……!」
まさかの順位だ。驚きの一桁。本当に、びっくりした。
自分の席に戻りながら、詳細を確認する。どうしてこの成績なのかを教師が書いてくれているのだ。
えっと……。座学は優秀。上級貴族と同等以上の能力あり。ま、これぐらいはね。
マナーやダンスといった項目も、すごく評価されてる。これはシャーリーに感謝だね。食堂での一件のあと、猛特訓させられたからね。いや、ほんと、思い出したくもない……。二度目がないように、今後もがんばる。
魔法についてはハンデがあるとはいえ、学ぶ姿勢が認められるってことでかなり色をつけてもらってるみたい。今後に期待すると書かれてるけど、それでもかなり良いように書いてもらってる。
これは、自慢できるのでは……!
というわけで、放課後! 今日は私からシャーリーに突撃だ!
「シャーリー!」
「え!?」
いや、なんでそんなに驚愕の表情になってるの? 信じられないものを見たような目はやめてくれる? 確かにこの学園に来てから、私から話しかけたのってあまりないけどさ。
「これを見ろー!」
成績表を広げて、シャーリーの机に叩きつける。どやあ!
「わ、五位ですか。シャル、すごいですね!」
「でしょでしょ!」
「私は一位でした」
「まあシャーリーは落ち込まずに……、は?」
シャーリーが成績表を見せてくれる。おお、すごい……。詳細もべた褒めだ。なんだこれ。すごい。なにこのリアルチート。これが、才能の格差……!
「これもシャルのおかげです」
「何が? 私、何もしてないよ?」
いや、本当に。一緒に勉強をしたことはあっても、私が教えることってほとんどなかったはずなんだけど。
「シャルに負けたくなかったんです」
「はい?」
「シャルが優秀なのは知っていましたから。私、これでも負けず嫌いなんですよ?」
いたずらっぽく笑うシャーリー。むう、ちょっとかわいいかもしれない。
でも、そっか。シャーリーは私をライバルとしても見ていたのか。そう言われると、なんだかこう、くすぐったいのもあるけど、ちょっとだけ申し訳ない気持ち。
だって、今回は本気とは言えなかったし。自分でもかなり適当だったと思う。
そんなことは言えなくて、何とも言えない気持ちになっていたら、シャーリーが笑いながら、
「シャル、シャル」
「んー?」
「来年は、是非とも本気のシャルに挑戦したいです」
「…………」
全てお見通しですかそうですか。ちょっぴり恥ずかしい……。幼馴染みって、怖いね。うん。
「分かった。来年は、私も本気で頑張る」
「はい。是非」
どこまでできるかは分からないけど……。シャーリーがそう望んでくれるのなら、頑張ってみるのもいいかもしれない。
成績表をもらったら帰宅です。ここから二ヶ月の休みだ。この二ヶ月の間に年越しもある。いつもなら家族でのんびり過ごすんだけど、学園に通ってる今でも同じように過ごせるのかな。どこかに呼ばれることになりそうな気もする。やだなあ……。
「ただいまー」
この後のことを考えてちょっと落ち込みながら帰った私を待っていたのは、
「おかえりなさい、シャル」
にっこり笑顔のシャーリーでした。なんでやねん。
「いやいや。いやいやいやいや。なんでもういるの!?」
「屋敷に戻って荷物をメイドに預けて、すぐに着替えてここに来ました」
何故。何がシャーリーをここまでさせるのやら……。
「シャル。シャル」
「んぎゅ。おもい」
なんか、後ろから抱きつかれた。重たいです……。
「重たいから離れてよ」
「嫌です。学園では我慢したので、シャル分を補充するんです」
「なにその謎の成分。子供じゃないんだから……いや子供か……」
シャルに抱きつかれたまま、えっちらおっちらお店の奥へ。お父さんが笑いを堪えていたので、とりあえず足を蹴っ飛ばしておいた。
「シャルはあったかいです」
「んむー。私の体温はあったかい方らしいからねー」
シャーリーを引きずりつつ、自室へ。階段はさすがに歩いてくれました。
自宅の私の部屋は、寮の部屋と大差ない。さすがにあれよりは広いけどね。あと、ぬいぐるみがちょっとだけある。犬と猫が少しずつ。
シャーリーは私の部屋の入ると、勝手に私のベッドに座った。いつものことです。そしてベッドにある子猫のぬいぐるみを抱きしめた。いつものことです。あの子猫のぬいぐるみはシャーリーのお気に入りなのだ。
そんなに気に入ってるのなら持って帰ってもいいって言ったこともあるけど、悩みながらもシャーリーは首を振っていた。ここにあるのがいいんだって。よくわからん。
「で、シャーリー、何か用でもあったの?」
「お友達の家に遊びに行くのに理由がいりますか?」
「友達じゃないし」
「むう……」
不満そうに頬を膨らませても、まだ認めるつもりはないのです。
「まあ、いいです。今日はお誘いに来ました!」
「またですか。何に?」
「年越しパーティです! お泊まりしに来て下さい!」
お泊まりって。いやさすがにそれは嫌なんだけど。百歩譲ってパーティは良くても、お泊まりはいやだ。そう、うん。きっとお父さんもそんな許可は出さないはずだからね。
「いやあ、それは残念だなあ! 私は行ってみたいけど、泊まりってなるとお父さんが許可しないと思うんだよね!」
「あ、ご両親からはもう許可を頂いています」
「なんと」
あっさり許可が下りてるってどういうことかな!? 娘が心配じゃないの!?
「ええっとですね。すでに寮に入っているし、アレイラスの屋敷なら大丈夫だろうと言ってもらえました」
「なにその信頼感……!」
私の両親はすでに陥落していた……? いや、もうずっと昔からかそうだった。
ん、ちょっと待って。もしかして、シャーリーが私より先に来てた理由って……。
「シャーリー。もしかして、先にお父さんたちに話しておくために、急いだの?」
「…………」
目を逸らされた。つまりは、それが答え。
外堀を先に埋められた……! まさか、まさかシャーリーがそんな頭を働かせるなんて!
「シャル。なんだか失礼なこと考えてませんか?」
「気のせいじゃないかな」
んむう。どうしよう。どうやって断ろう。
「シャル。シャル」
「なにさ」
「先ほど、シャルは言ってましたよね。私は行ってみたいって」
「…………」
ぬああああ! やっちゃったああ!
「シャル。シャル」
シャーリーが私の手を取る。じっとこっちを見つめてくる。なんか、ちょっと、照れちゃう。
「私は、シャルに来てほしいんです」
「むう……。仕方ないなあ……」
「はい! ありがとうございます!」
嬉しそうな、満面の笑顔。平民なんか呼んで、何がそんなに嬉しいのか。
いや、うん。分かってるけどね。友達を呼ぶのって、なんだか楽しいよね。うん。それでも、私は……。
やめよう。考えるのは、いいや。シャーリーが嬉しそうなんだから、それでいい。
とりあえず、年越しまでまだ一ヶ月近くあるとはいえ、ちゃんと体調には気をつけておこう。体調悪くしたら、きっとシャーリーは悲しんじゃうだろうし。
まったく。仕方のない幼馴染みだね。まったく。
でも、一つだけ言わせてほしい。
そういうセリフは王子に言ってあげなさい。……え? いや? お前は婚約者を何だと思ってるんだこら。
壁|w・)特に何もない、ただのお誘い。それだけのお話。
次話は『お泊まり』、年越しパーティにちょっとだけ顔を出しつつ、アレイラス家に宿泊です。
一週間以内に更新しつつ、今月中に完結させるのだ。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




