試験勉強
学園には年に一回、試験がある。魔法も座学も全部含んだ試験だ。この試験で成績がほぼ決められてしまうため、試験が近づくと必死になって勉強する人は多い、らしい。
らしいというのは、それは貴族の話だから。貴族は成績が悪いと親の仕事を引き継ぐことができなくて、なんだかすごい問題になりかねないらしいけど、私たち平民は王家に雇われることが決まってるから結構気楽だったりする。
まあ、それでも、雇われた後の待遇に違いはあるらしいから、頑張る人の方が多いけどね。一番良い待遇だと下級貴族みたいな扱いをしてもらえるらしいけど、悪い待遇だと平民と大差ない扱いになるらしい。まあ、職が保証されてるだけ十分だけど。
で、私だけど。今はちょっと先生に、直談判中です。
違うの。成績に自信がないってわけじゃなくて。いやある意味そうなんだけど、不可抗力というか。
座学については、余裕です。算術とか特にね。私、これでも転生者ですので。いわゆる知識チートってやつですよ。どやあ。……成績にしか使えてないからチートも何もないかもだけど。
で、その分他の分野の勉強ができるわけで、座学にはかなり自信があります。
問題は、魔法の方なんだよね……。
魔力なんてものは結局は才能だ。魔力が多い方が当然有利ではあるけど、あればいいよね、という程度。戦時中ならともかく、とっても平和なのです。だから、重視されるのは、制御の方になる。
うん。どうしろと?
「私だって制御の練習したいです。すごくしたいです」
「ええ、ええ……。そうでしょうね……」
「私は座学には自信があります。だからこそ魔法の練習をしたいんです」
「そうですね……」
「練習していいですか?」
「だめです」
これだよ。まあつまりは、練習したくてもさせてもらえないってこと。
他のみんなは授業中に何度でも練習できるけど、私は週に一回しか使わせてもらえない。もちろん普段は何もしてないってわけじゃなくて、制御の方法を何度も何度も学んでるんだけど、それでも実際に試せるのは週にたった一回だけ。これで上達しろというのも無茶だと思う。
「どうにかなりませんか?」
「そうですね……。こちらから相談しておきましょう」
「ありがとうございます!」
約束はしてもらえなかったけど、とりあえず相談はしてもらえるらしい。もしかしたら考慮してもらえるかも!
「シャルさんが努力していることはこちらも把握していますから。確約はできませんけど、努力はしましょう」
「はい! お願いします!」
ぺこりと頭を下げて職員室から出る。少しでも考慮してもらえるなら十分だ。私は平民だからね、何もしてもらえないのが普通だと思うから。
まあ、多分、背後にいる誰かの影響が間違い無くあると思うけど……。
「物理的に背後にいたわけだからね……」
「何の話ですか?」
振り返ると、にっこり笑顔のシャーリーちゃん。うん、まあ、そういうこと。
相談しに行くと言ったら、シャーリーも一緒についてきてくれたのだ。シャーリーは一言も発していなかったけど、無言の圧力がすごかった。私でも感じられるほどにすごかった。先生の視線が、どうにかするからどうにかしろ、という視線が痛かった。
「まあ、うん。いっか。ありがとう、シャーリー」
「いえいえ。友達として当然ですから」
「友達ではないかなあ」
「えー」
そんな会話をしながら、寮に戻る。この後はみんなで勉強会の予定なのだ。私は魔法はともかく、座学の成績はいいからね。頼りにされているのです。えっへん。
この勉強会はシャーリーも来てくれることになってる。最初は私とマリアとタニアの三人だけの予定だったんだけど、たまたま話を聞いちゃったシャーリーが参加したいって言い出して。シャーリーには試験勉強なんて必要なさそうだから、先生役としてお願いした。
「まあ問題は、私の部屋だとちょっと狭いことかなあ……」
平民の部屋は狭い。暮らすことに苦労はしないけど、大人数で集まるにはさすがに不便だ。さて、どうしよう。
「安心してください、シャル」
「ん?」
「そういうこともあろうかと、手を打っておきました」
「そうなの? それはとても助かるけど……」
どうしてかな。なんだか、とても嫌な予感がするのです。もういっそ、中止にするべきではなかろうかと思うほどに。
「大丈夫ですよ、シャル。私に任せてください」
にっこり笑顔のシャーリー。自信ありそうだし、そうだね。きっと大丈夫のはず。
「じゃあ、よろしくね、シャーリー」
「はい!」
おお、元気なお返事。これは期待できるかも?
そう思っていた時期が私にもありました。
私の顔はどうなってるかな。我慢したいところなんだけど、多分すごく引きつってると思う。マリアとタニアにいたっては、自分たちの責任ではないのに蒼白になってるし。この場でにこにこしてるのはシャーリーだけだと思う。
「部屋を貸してほしいとは聞いたけど……。いや、うん。いいんだけどね? いいんだけど……」
部屋の主様がとても何か言いたげな表情です。つまりは、王子が。
「何かあれば頼ってほしいとのことでしたので、お願いしたのですけど」
「ああ、うん。うん。大丈夫。ははは……」
王子が何も言えなくなって頭を抱えてしまった。ええっと……。ご愁傷様です?
でもね、シャーリー。王子はそういう意味で言ったわけじゃないと思うんだ。頼りにしてほしいからって、勉強会に部屋を貸してほしいと言われるなんて誰が思うだろう。少なくとも私は思わないし、思いついてもさすがに言えない。
「えっと……。殿下。大丈夫ですか? その、やっぱり移動した方が……」
マリアのおずおずといった言葉に、殿下は柔和な笑顔で、
「いや、大丈夫だよ、マリアさん。……うん、大丈夫」
「ですが……」
「大丈夫だから。大丈夫にするから」
つまりは本来はだめと。ですよね。
シャーリーを睨むと、不思議そうに首を傾げた。だめだこいつ、全然分かってない。本当にこの子、公爵令嬢なのかと疑っちゃいそう。
「シャル。シャル。一応言っておきますけど、本来ならだめだと私も分かっています」
「え」
「殿下ならいいかなって」
それはどういう意味かな!? 都合よく使えるからとかそんな意味じゃないよね、信頼だよね? ねえなんで目を逸らすのシャーリー、殿下も何か言えよお!
「シャル。シャル」
「今度はなにさ。正直私、お腹いたい。ぽんぽんいたい。きりきりしてる」
「大丈夫ですか!? 何かあれば早く言ってください! 私はシャルが一番ですから!」
「わざとか!? わざとかなシャーリー!」
「……?」
「無自覚!?」
暗に二番以下だと言われた王子にそっと視線を向けると、それはもう達観の表情だった。最近、王子がかわいそうすぎて困る。本当に婚約破棄されても文句言えなくなっちゃうよ。
「シャル。シャル」
「やめて。それ以上聞きたくない」
「そもそもまだ婚約は確定していません。まだ保留中です」
「事実だろうけど今言うことじゃないよね? シャーリー絶対にわざとだよね?」
「……?」
「だめだこいつ」
完全に追い打ちで困る。王子に視線を向けると、
「まだ足りない……振り向かせるにはどうするべきか……」
たくましいなあ……。頑張ってください、シャーリーを引き取れるのは多分王子だけです。いやわりと本気で。
「シャル。シャル」
「ま、まだ何かあるの……?」
「そろそろ勉強しませんか? 不真面目なのはだめだと思うんです」
「…………」
結構本気でいらっとした私は悪くないと思う。
その後は、普通に勉強しました。特に事件もなく。殿下も手伝ってくれたほど。何かあったとすれば、途中でエリザ様が来て、部屋の様子を見て、何も言わずに立ち去ったことぐらいかな。あの同情のような目は忘れない。覚えてろ。
まあその後戻ってきてくれて、マリアとタニアを送ってくれたので忘れてあげよう。私は許せる女なのだ! 本当にありがとうございます!
「殿下。ごめんなさい。急に押しかけて」
シャーリーと一緒に残った私はこうして王子に謝っておく。マリアとタニアは巻き込まれただけなので、怒るなら私だけにしてください。
「ん? ああ、いや。シャーロットから聞いていたから大丈夫だよ。……まあ、連れてくるのはシャルだけだと思っていたけどね」
「ですよね……。本当にごめんなさい。それにみんながいるのにシャーリーが……」
「大丈夫だよ。あれぐらい緩い方が勉強しやすいだろう?」
「殿下……! いい人!」
懐が広いというかなんというか……! あとでマリアとタニアには私からフォローしておこう。あの二人なら分かってるだろうし、大丈夫だとは思うけど。シャーリーもさすがにそれぐらいは言ってるはずだし。……言ってるよね?
「シャル。私だってちゃんと時と場所を考えます」
「考えるならあれはだめな場面でしょ……」
シャーリーはシャーリーで何か判別してるのかもしれないけど。まあ、私とは見てるものが違うだろうし、あまり言うべきじゃないかな。あまりにあんまりなら、王子が言うはずだし。多分。
「それでは、私も戻ります」
立ち上がりながら言うと、王子もわざわざ立ってくれた。そして王子自ら扉を開けてくれた。なんだこの人。紳士か。
「気をつけて帰るんだよ。一応ここは男子寮なわけだしね。まあ、シャーロットがいる以上、不埒なことをする命知らずはいないだろうけど」
「任せてください。シャルは私が守ります」
「いやシャーリーは守られる立場だからね!?」
王子の言う通り、男子寮とはいえさすがに誰も手は出してこないと思う。家ごと潰されるからね。シャーリーが手を出す以前にアレイラス家を敵に回すからね。想像するだけで怖い。
「それでは、今日はありがとうございました」
「ああ、こちらこそ楽しかったよ」
一礼して、退室する。シャーリーと二人で寮へと戻る。途中、男子生徒に何度か驚かれたけど、シャーリーを見ただけでみんな納得していた。婚約者だからね。他の意味はないと信じたい。
「ねえ、シャーリー」
「はい?」
「今日は楽しかったけどさ。それでも、次はちゃんと女子寮でやろうね」
「はい。もちろんです」
「うん。……うん?」
え? あれ? もちろん、ということは、やっぱりだめなことっていうのは分かってるってことだよね。いや当たり前か。でもだったら、どうして王子の部屋を選んだんだろう?
シャーリーを見る。にこにこ機嫌がよさそう。うん。いいかな、別に。いずれ話してくれるかもしれないし。
とりあえず、試験をがんばらないと!
壁|w・)プチ暴走回でした。いつものことである。
……ちなみに、あえて本文では語らなかった裏設定もありまして。
王子もちゃんとこうなることを知っていました。平民の中でも優秀なマリアとタニアの反応を見ていて、王家の近くで雇っても問題ない人物か探っていたりしています。
作中でも入れようかと思いましたが、シャル視点だと分からないことなのでカットです。なくても問題ないですしね!
次話は『お誘い』、試験も終わって休暇に入ったので、お泊まりのお誘いです。
一週間以内に更新をするつもりで買ったお布団は大きくて手持ちのシーツに入りませんでした。しょぼん。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




