魔法
今日は体育館で魔法の訓練の日だ。最初の一ヶ月は座学中心で理論をある程度学んでから、体育館で実際の訓練をする、という流れになっている。今日はその訓練の一回目。
つまり! 今日から私も魔法少女!
「炎よ!」
ぽんっ。
「水よ!」
ちょろちょろ。
「大地よ!」
ぽこっ。
うん。まあ、そんなどかどか魔法が飛び交うことはないんだけどね。
この世界の魔法は、魔力を変換して水とかにしたり、世界に働きかけてちょっとだけ何かを起こしたり、そんな些細なものだ。魔道具を使うならともかく、個人で大きなことは引き起こせない。レーザーとか変身とかはできないってことだね。
ただ、それでも有用なことは変わりない。水を作れるなら井戸が掘れない地域でも飲み水に困らないし、火が起こせるなら寒い冬も凍えることがない。
他の国がどうかは分からないけど、魔法で民に恩恵を与えるから、貴族が贅沢な暮らしをしていても大きな反感とかはない。横暴な貴族が少ないのも理由だと思うけど。
エリザ様を見れば分かる通り、平民は守るものっていう意識が強いからね。まあその分プライドも高いけど。でもちゃんと助けてくれるからいいのだ。
けれど、どこにでも例外はいるわけで。
「では、シャーロット様。お願いします」
「はい」
教師に呼ばれて、シャーリーが前へ出る。途端に緊張する面々。
「炎よ」
空気が震えるほどの轟音と共に、火柱が立ち上る。おお、すごい。攻撃魔法みたい。
シャーリーが腕を振ると、火柱はすぐに消えた。
「すごい! シャーリーすごい!」
「そ、そうですか? えへへ……。ありがとうございます、シャル」
褒めてあげると、シャーリーがそれはもう嬉しそうにはにかんだ。なんだこのかわいい生き物。なでなでしたい。
「素晴らしいですわ、シャーロット様」
「あ、はい。ありがとうございます」
かるい。何の感情も感じられない無表情。これにはエリザ様も頬を引きつらせてる。まあこの一ヶ月で慣れたみたいで、仕方ないとばかりに頭を振ってるけど。
「では最後に、シャル」
ついに私の番!
「は、危険ですので、休日に王都の外でやりましょうか」
「え」
なにそれ聞いてない。私だって! 魔法使いたいのに!
「だめですか……?」
「だめです。間違い無くコントロールなんてできないでしょう。せめて最低限の加減ができるようになってから、ここで練習するようにしてください」
「えー……」
まさかの特別扱い。とても楽しみにしていたので、すごく残念。私も魔法、使いたかったな……。
「シャル。あなたの魔力測定の結果は報告されています」
「はあ」
「暴走させれば間違い無くこの体育館が吹き飛びます」
「え。本当に?」
「本当に」
「どかーん、と?」
「どかーん、と」
冗談を言ってるような様子はなくて、とても真剣な表情だった。そこまで、みたいだね。
なんというか、喜んでいいのか分からないよこれ。転生チートみたいに思えるけど、この平和な世界で使い道なんてあるわけもなくて。むしろ使い勝手が悪いだけじゃないかなこれ。あれ? 私ある意味、一番役立たずでは!?
「では、皆さんは訓練を続けてください。シャルは見学です」
「見学」
つまり余計なことをするなってことですね。ちょっとだけ、寂しい。
私がしょんぼり落ち込んでいると、シャーリーが私の両手を取った。
「安心してください。シャル。次の休日は私も予定を空けておきます。一緒に外で訓練しましょう」
「えー」
「どうして不満そうなんですか」
シャーリーが頬を膨らませたからつついておく。ぷすぷす。
「シャーリー、この間殿下にお茶に誘われてたでしょ。次のお休みに。そっちを先に約束したんだから、破っちゃだめだよ」
「だって、殿下とお茶をしても楽しくないですもん」
「なんてこと言うかな!?」
それは思っても言っちゃだめなやつでしょうが! もん、なんてかわいく言ってもだめなものはだめだよ!
周囲を見る。クラスメイトも教師も、目を逸らしていた。何も聞いてません、とでも言いたげに。この一ヶ月でよく訓練されたものだよ本当に。
「だめだよ、そんなこと言っちゃ。誰が聞いてるか分からないんだし」
「大丈夫ですよ。学園内なのでみんな平等です」
「その規則をこんな使い方するのは後にも先にもシャーリーだけだと思うよ」
確かに、シャーリーは学園外で、人の目があると王子のことを悪く言うことはない。真面目というか、なんというか。私はちょっぴり不安です。
「シャル。シャル」
「ん?」
「それを言うならシャルもですよね。私に対して」
「…………」
いや、それは、え、まって、はい?
でもそれは、シャーリーの許可があって、いやそんなこと関係ないのかな、周囲はそんなこと分かるわけないし、いやでもだからって……。あれ?
「大丈夫です。私は気にしていませんから」
にっこり笑顔のシャーリーちゃん。こわい。
「けれど、約束は大事ですよね。分かりました、今回は殿下の顔を立てておきます」
ものすごく失礼なことを平気で言っちゃうシャーリー。訓練してきますね、と離れるシャーリーを、私は呆然と見送って。
タニアたちに声をかけられて我に返った私は、思わず膝を突いていた。
「シャーリーに言い負かされた……」
「シャルも結構失礼よね。シャーロット様限定で」
マリアの呆れたような声。聞こえない。聞こえないったら聞こえない!
で、次の休日。教師と一緒に馬車に乗って、王都の外の草原に。そして私は、案の定と言うべきか、なんと言うべきか、頭を抱えたくなった。
「なんでいるの、シャーリー……」
「殿下とお茶をしています。外で」
「なんで止めないんですか、殿下……」
「止めたさ……。無駄だっただけで……」
どうやって持ってきたのか、簡素なテーブルと椅子でシャーリーと王子の二人がささやかなお茶会をしていた。少量のクッキーとお茶しかないけど、それでいいのかな。
「いいんですか、殿下?」
「はは……。まあ、いいさ。それに、丁度いいからね」
「というと?」
「君の魔力測定のことはもちろん私にも報告されている。どれだけの才能があるか、是非とも確認しておきたい」
「はあ……」
物好きだな、と思ってしまったけど、そう思ったのは私だけみたいだね。教師すらも、王子の言葉に納得してる。私の測定ってどう報告されたのかな。
ともかく、実際にやってみよう、ということで。
「あちらの人形に炎の魔法をお願いします」
教師が指し示したのは、先ほど教師が置いてきた木の人形。ある程度分かればいいそうで、かなり簡単な人形だけど。
気になって、振り返る。シャーリーがそれはもう、すごくわくわくしてる。見て分かるほどに。王子はそんなシャーリーの様子を、苦笑しながら見守っていて。うん。苦労、してるんだろうなあ……。
「それじゃあ、いきます!」
「どうぞ」
右手を前に出す。この世界の魔法に杖なんていらない。ただ、自分の体にある魔力を変換するだけ。頭の中で起こしたい事象をイメージして、教わった通りに魔力を動かして体の外に放出すれば、不思議なことに小さな炎がぽんっと飛び出して、
世界が、揺れた。そうとしか、表現できなかった。つまりは、大爆発。
「なるほど、確かにこれはすごい。シャーロットが言うように、安いテーブルにしておいて良かったよ」
「そうでしょう。予想通りです」
「クレーター、というのでしょうか。これほどのことになるとは、さすがに予想外です」
王子、シャーリー、教師の言葉だ。ははは、みんな予想の範囲内みたいだね……。
私の目の前には、大きなクレーターができあがっていた。まさか、ここまでとは思わなかった。
ははは。すごいなあ。いわゆるチートだね、チート。これでダンジョンとかあったら、大活躍とかできるかもだけど……。
「これは制御を覚えるまでは、魔法禁止ですね」
教師のその言葉に、私は肩を落とした。うん。分かってた。この魔力の大きさは制御の邪魔にしかならないってことも、ちゃんと分かってた。でも、もうちょっとこう、利点がないものなのかな!?
「シャル。大丈夫です。一緒に練習しましょう」
シャーリーの優しさが心にいたい……。
その後、私はシャーリーに慰められながらもらったクッキーをかじっていた。ふて腐れてただけですよそうですよ、ほっといてくれ。
壁|w・)魔力チートのシャルの魔法がついに解き放たれました!
危険! 邪魔! 魔法禁止!
平和な世界に魔法チートなんてただの危険物だからね、仕方ないね。
言うなれば一般人がダイナマイト持ち歩いてる状態。逮捕案件である。
ですが魔道具をたくさん作れるという利点があったりしますが、それらはまたいずれ。
次話は『長期休暇』、ちょっと長い休暇のお話。
一週間以内に更新できれば褒めてほしい、ほめてほめて!
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ではでは。




