観光
王都は王城を中心にして、王城をぐるりと囲むように貴族街があって、そのさらに外側に私たち平民が暮らす平民街がある。そんな構造をしているせいで、平民が西側から東側に行こうと思うと、ぐるっと大回りして行かないといけなくなる。
実際は貴族街に入っちゃいけないってわけでもないから、真っ直ぐ行けるんだけどね。でも普通は避ける。たくさんの兵士さんが巡回してるから、ちょっと怖いのだ。
学園はそれを考慮しているらしくて、貴族街と平民街の境目に建っている。だから、怖い物見たさなのかは分からないけど、平民が貴族街をのぞきに行くこともあれば、貴族が平民街を見に行くこともある。それを狙っているのか、学園の周辺は一番お店が多かったりもする。
で。どうしてこんな話をしているのかと言えば、現在私たちはとある子にお願いされて、学園から出てすぐの平民街を観光中だったりする。観光なのかなこれ。
「ふむ……。平民街もそれほど悪くはありませんわね」
「そうでしょう! とっても楽しいところですよ!」
「シャーロット様がそこまで気に入る理由はさすがに分かりませんが……」
私と一緒に歩いているのは、シャーリーとエリザ様だ。エリザ様がシャーリーに平民街がどういったところなのか聞いて、それなら一緒に行ってみましょう、という話になったらしくて。そしてそのまま私の部屋に来て連れ出された。
うん。私、いる? 最後が意味不明だと思います。
ちなみにシャーリーとエリザ様は変装してる。平民の服装だね。行くのはいいけど最低限変装ぐらいはしてください、と私が押し通した。
エリザ様はもしかすると納得してくれない、着てくれないかも、なんて思ってたけど、あっさりと着てくれた。それぐらい当然です、だって。かっこいい。
「以前読んだ本では、ゴミ……などは窓からそのまま捨てている、なんてありましたけれど」
「それかなり昔の話ですよ。私たちが生まれるよりもずっと前です。いつの本ですか?」
「我が家の書斎の本です。そこまで見ていませんわ。間違った情報になっているのならあの本は破棄しましょう」
そんなもったいない! 間違った情報でも、当時のことを知るためにはとても貴重なものだ。捨てるぐらいなら私が欲しい。丁寧に保管する。
「なるほど。それもそうですわね。ではあの本はあなたに差し上げますわ、シャルさん」
「え!? 本当にもらえるの!?」
「ええ。もちろんです。後で届けさせますわ」
なんとびっくり。本当にもらえるなんて。貴族から見た平民が分かるかな。ちょっと楽しみだ。
私がちょっぴり嬉しくなって鼻歌を歌っていると、シャーリーが小さく唇を尖らせた。初めて見る表情かも。
「シャル。シャル。本が欲しいなら、私がたくさんあげます。どんな本がいいですか?」
「いらない」
「なんで……?」
愕然とするシャーリーと、忍び笑いを漏らすエリザ様。
不要になったものをもらえるだけだから、いいの。捨てるぐらいならって言ったはずなんだけどね。シャーリーからもらおうと思うと、真新しい本を買ってきそう。
「…………」
図星だったのかシャーリーが目を逸らした。分かりやすい。
「シャルさん。ゴミなどはどのようにして処理を?」
「貴族街と同じはずです。スライムさんがたくさん暮らしている穴に捨ててます」
忘れちゃいけない、ここはファンタジー! 当然のように魔物がいるのだ。
スライムさんはゴミとか、ええっと……。排泄物、とか……。そういったものを食べてくれる。とってもありがたい生き物です。
ちなみにこの世界に魔物なんて言葉はなくて、動物扱いです。魔物がいて当たり前のこの世界の人にとっては、スライムさんも三つ首の犬も等しく動物らしい。
「次どこに行きます?」
「是非ともシャルさんのパン屋さんに行ってみたいですわね。シャーロット様がそれはもううるさいぐらいに自慢してきますので」
「シャルのパンは絶品なんです!」
「シャーリーが申し訳ない……」
「謝罪はいりませんわ。……これからも、続くでしょうから……」
「あ、はい……」
シャーリーは私がいない時でも平常運転らしい。やめてくれないかな、恥ずかしいから……。
ただ、、もしかするとエリザ様相手だから、かもしれない。シャーリーはエリザ様のことを認めてるみたいだから。
「でも私のパン屋さんはちょっと遠いですね。日帰りできないことはないですけど、一日潰れちゃいます」
「あら、そうですの? それでしたら、日を改めましょう。では、そうですね……。冒険者ギルド、というものが見たいですわ」
「冒険者ギルド!?」
え、あるの!? 初耳なんだけど!?
でもそうだよね、魔物が当たり前みたいにいるからね! あってもおかしくないよね! それじゃあ、あれかな! 登録しようとして絡まれたりとか、魔力測定をしてみんなに驚かれたりとか! そんなイベント、あるかな!? あっちゃうのかな!?
目を輝かせる私と、困惑するエリザ様。そんな私たちに、シャーリーは何気ない調子で言った。
「冒険者ギルドなら、あれですね」
え、と二人でシャーリーが指差した方を見る。そこにあったのは、周囲の綺麗な建物から明らかに浮いてる、薄汚れた建物だった。
「え……。えっと……。あれがギルド?」
「そうです。正確に言えば、冒険者ギルド跡地」
「なんて?」
「冒険者ギルド跡地」
「跡地」
「跡地」
いや、ははは。ええ……。潰れちゃったの……?
シャーリー曰く、五十年ほど前に発足した組織だったんだけど、利用者があまりにも少なくて五年ほどで潰れたのだとか。
この世界は確かに剣と魔法の世界だけど、それでも平和な世界だ。ゴブリンとかに襲われて村が壊滅、なんてこともなくて、ちゃんと住み分けができてるらしい。
つまりは、荒事が求められることなんてそうそうなくて、あったとしても今いる騎士で対応できる程度。他の何でも屋みたいな仕事も、だいたいは自分たちで解決しちゃうためにわざわざお金を出して雇ったりしない。
結果、倒産。
「そ、そうなんだ……。えっと……。じゃ、じゃああの建物はどうして残ってるの? 別で利用すればいいのに」
「冒険者ギルドを発足して、集まったのは、ちょっと悪い人たちです。荒事が好きそうな」
「うんうん」
「ギルドが存続できないとなった時にいろいろあったようで。いわゆる、事故物件です」
「よし分かった。忘れる」
喧嘩を通り越して殺し合いとかしちゃったってことかな。怖すぎるんだけど。エリザ様も蒼白になっちゃってるし。ご令嬢には辛いお話だよね。大丈夫、私もちょっときつい。
よくシャーリーは平然と話せるものだよ……。過去に起きたこと、程度の認識なのは分かるけど、なんだかんだとシャーリーって図太いなあ……。
「エリザ様、別のところに行きましょう! 平民が買うお菓子とか、どうですか!?」
「そ、そうですわね。とても興味がありますわ!」
二人で話を逸らす。冒険者ギルドは忘れよう。もう思い出したくもない。ちょっとだけ、いや本音を言えばすごく、期待したんだけどね。ないものは仕方ない。
「お菓子と言えば、すぐ側にちょっとしたクッキーがありまして」
シャーリーの言葉に、なんだかちょっとだけ、嫌な予感がしてきた。もうギルドのお話はおしまいのはずだから、まさかそれに関連することなんて……。
「あの、跡地の向かい側のお店。ギルドクッキー、というものが売っていたはずです」
「へ、へえ……」
「真っ赤なクッキーで、イメージしたのは血……」
「シャーリー、もういいから。本当にもういいから」
ほらエリザ様ももう青を通り越して真っ白になってる。さすがに刺激が強すぎると思う。正直私も嫌なお話だった。
商魂たくましいと言えるのかもしれないけど、それでもこれはどうかと思うよ……。
「うん。提案なんだけど、もう今日は帰ろう? のんびりお茶でも飲もうよ。なんか、もう疲れたよ……」
「賛成ですわ。少し、気分が優れませんし」
「分かりました。じゃあ、帰りましょう」
そうして、私たちの最初の観光は一時間足らずで終わりました。
うん。次はちゃんと計画を立てよう。
「ちなみに、ギルドクッキーは冗談です」
「あ、そうなんだ」
「冒険者ギルドを知っている人の方が少なくなったそうで、三年前にやめたのだとか」
「あったのは事実なんだ……」
壁|w・)世界観説明その1、でした。
平和な世界なのでギルドなんてものは存続できませんでした。
なので、主人公は魔法チートを持ってますが、使い道なしです。むしろ邪魔です。
魔法については、次回にちょびっと。
次話は『魔法』、ついにシャルの魔法が解き放たれる……! ただし敵はいない!
一週間以内に更新、したいけどちと腕が痛くてどうなるかはわからんです。いたい。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




