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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
風と水の回顧録(かいころく)
30/34

海と風と自由と笑顔があふれる日々

引き続き、ジェスとグレイス、ベルタとハイドの青春です

【海上 環礁(かんしょう)入り口】


ぽっかり口を開けている環礁の入り口

ベルタ:「なあにあれ」

ハイド:「小島だ。あの入り口から奥に入れそうだな。ちょっと寄ってみるか。帆を下ろせ、減速だ」




【環礁 入り口】


減速して環礁に進入するベリッシモ号

マストから天井までの距離は5メートルないくらい

ジェス:「こんな所入ったら、向き変えられないだろ。どうすんだ?」

ハイド:「そのために、お前達がいるんじゃないか。風を吹かせるのはお手の物だろ?」

ジェス:「へへ、(おお)せの通りに」

トンネルを抜けると、砂浜がある入り江が見える




【環礁 入り江】


環礁奥の穏やかな入り江に到着するベリッシモ号

船が自然と停止する

舷側から身を乗り出すハイド

恐ろしく透明度の高く、砂浜が見える

ハイド:「(いかり)を降ろす必要はないみたいだな。船を用意してくれ」

浜に降りるために小舟を用意させるハイド

船乗り:「お頭、あっしらはどうしましょう」

ハイド:「おう、ここで待っていてくれ。降りて様子を見てくる。うまくするとお宝を隠す場所につかえるかもしれん。行こうぜベルタ」

ベルタ:「うん」

小舟に乗って砂浜に向かうベルタとハイド



ジェス:「おやおや、いつのまにベルタはあいつの手下になったんだ?」

グレイス:「まあ、いいんじゃない」

ジェス:「いいのか?」

グレイス:「あの子だって、いつまでも子供じゃないんだから。

ねえ、あなたたちのボスって最初からあんな感じなの?」

乗組員に聞くベルタ

船乗り:「俺たちが(やと)われた時には、もう船持ちでしたね。それより前のことはなんにも知らないんです」

船乗り:「船長の船は絶対に沈みませんね。なんせ『流水の聖者』ですから」

ジェス:「ということは、水を司る者ってことか」

グレイス:「聖者には見えないけどね」




【環礁 砂浜】

浜辺のど真ん中に立っているベルタとハイド

ベルタ:「不思議な所ね」

丸く切り取られたような空を見上げるベルタ

ベルタ:「それにキレイ」

ハイド:「隠れ家に使えそうだな」

ベルタ:「隠れ家?」

ハイド:「海には身を隠す場所がないからな。隠れ家くらいあっても損はねえな。

よし、決めた!ここを俺たちベリッシモ号の隠れ家にしよう」

ベルタ:「海は誰の物でもなかったんじゃないの?」

ハイド:「ここはちょっとした陸だからいいのさ、お前達だって(おか)には線引きするだろ?」

波打ち際に走るハイド

ハイド:「おーい、ここを俺たちの隠れ家にしよう!」

船に向かって叫ぶハイド




【環礁 浜辺】


船から財宝を降ろすベリッシモ号の乗組員

空洞から日没の光りが差し込んでくる

夕餉(ゆうげ)の支度をするグレイスとベルタ

全員浜に降りて火を囲んで食事を摂るベリッシモ号の乗組員

笑顔だけがあふれている

ジェス(声):「あの頃は楽しかったな。毎日毎日、見るモノ聞くこと新しい物ばっかりで」

グレイス(声)「財宝なんてどうでもよかった。ただ自由を満喫しているだけで良かったわね」

たき火の側で雑魚寝(ざこね)しているジェスとグレイス




【夜 ベリッシモ号 甲板】


ベリッシモ号の頭上にまん丸の月が浮かんでいる

甲板に寝転がって月を見上げているベルタとハイド

ハイド:「どうだ?船の暮らしは」

ベルタ:「楽しいよ、とても」

ハイド:「そうか、そりゃ良かった」



ベルタ:「ねえ」

ハイド:「うん?」

ベルタ:「海ってどこまで続いているの?」

ハイド:「海の終わりは世界の果てだ。どこまでもどこまでも青い海が広がっているんだぜ」

ベルタ:「どこまでも青い海」

ハイドを見つめるベルタ

ハイド:「いつまでもどこまでも、青い海を守っていく。それが俺たち流水の聖者の役目だ」

ベルタ:「(微笑)」

ハイド:「何がおかしい?」

ベルタ:「俺たちって、流水の聖者はあなただけよハイド。私は風の民なんだから」

ハイド:「そ、そうだな」

まん丸の月が2人を見下ろしている




【海上 ベリッシモ号甲板】


灰色の天地を割って太陽が生まれる

海の朝焼けを、舳先で見ているハイド

ハイドに近づくベルタの背中

ベルタ:「早いね起きるの」

ハイド:「ああ、ベルタか」

ハイドの隣に座るベルタ

黒い大理石のような波間から青く輝く海が変わる

ベルタ:「すごくキレイ・・・・」

ハイド:「オレは、この時間が一番好きだ」

ハイドの横顔を見つめるベルタ

ハイド:「海が青く生まれる・・・・どこまでもどこまでも青い海・・・」

ベルタ:「どこまでも・・・」

ハイド:「そう・・・どこまでも続く青い海さ」



ベルタ:「海はどこまで広がっているの?」

ハイド:「どこまでもだよ」

ベルタ:「どこまでも?」

ハイド:「そうさ、海の終わりは世界の果てだ。ずーっとずーっとどこまでも青い海が続いているのさ」

ベルタ:「行ってみたいな・・・」

ハイド:「うん?」

ベルタ:「海の終わり、世界の果てまで。ハイドの船で」




編み込んだ髪をほどくベルタ

朝日を浴びてキラキラ輝く金髪の巻き毛が風に(おど)

ハイド:「行けるさ」

ベルタ:「本当?」

ハイド:「そうさ。オレとお前で、青い海を突っ切って海の、世界の果てまで」

ベルタ:「姉さんとジェスは?」

ハイド:「うーん、あいつらは、そうだなオマケかな?」

くすくすと笑うベルタとハイド

2人の様子をほほえましく見ているジェスとグレイス

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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