若き風は自由を求めて走り出す
前話に引き続き、ジェスとグレイス、そしてベルタの17年前の話が続きます。
【夜 丘陵地帯】
【風上のキャンプ】
グレイスの寝所
なかなか寝付けないグレイスは起き上がって夜風に当たりに行く
月明かりがやけにしらじらしい
後ろから羽交い締めにされて、口をふさがれるグレイス
緊張で見開かれるグレイスの目
ジェス:「オレだよグレイス」
答えることができないグレイス
ジェス:「ここを出よう」
口を覆っていた手をほどいて、グレイスの正面に立つジェス
グレイス:「ここを出るって?」
ジェス:「オレが風下の人間で、グレイスが風上の人間である限り、俺たちは一生離ればなれだ」
グレイス:「そうね」
ジェス:「風上でも風下もない場所に行こう。自由な風が吹く場所に、俺たちだけの風が吹く場所に行こう」
グレイス:「でも、集落を出て生きていける?」
ジェス:「なんとかなるさ。俺たちは自由な風じゃないか。それに」
グレイス:「それに?」
ジェス:「グレイスがいないとオレはダメなんだ」
しばし見つめ合う風下と風上の2人
グレイス:「ジェス、行きましょう」
頷くジェス
月明かりの下、走り出すジェスとグレイス
【丘陵地帯】
走るジェスとグレイス
立ちはだかるように2人の前に躍り出る人影
構えるジェスとグレイス
躍り出たのは、17年前の15歳のベルタ
姉と同じような右合わせの上着、スパッツに巻きスカート、やはり長い髪を編み込みにしている
グレイス:「ベルタ・・・」
ベルタ:「どこへ行くの姉さん、こんな夜更けに」
グレイス:「わからないわ。少なくとも高貴とは卑しいとかで人の価値を決めるような場所じゃないところよ」
ジェス:「止めても無駄だぜベルタ。悪いけど姉さんはオレと一緒に行く。俺たちは自由になるんだ」
答えないベルタ
グレイス:「止めに来たの?残念だけどキャンプには戻らないわ」
まだ答えないベルタ
ジェス:「さ、お前は帰って寝てろ。明日から姉さんはいなくなるけど、姉さんを恨むな。恨むならオレを恨め」
ベルタ:「私も行く」
グレイス:「ベルタ?」
ベルタ:「私も自由になる」
ジェス:「もう二度とキャンプには戻れなくなるかもしれないんだぜ?それでもいいのか」
答える代わりに頷くベルタ
【丘陵地帯】
月明かりの下、街道を走るジェス、グレイスそしてベルタ
いくつかの人影が躍り出る
風上の部族の男達が立ちはだかる
男達:「グレイス様、ベルタ様。おとなしくキャンプにお戻りください。あまり手荒なことはしたくないので」
ジェス:「手荒なことったあ、どんなことだ?」
男達:「こういうことだ!」
風上の男達は、拳を振るって、突風を巻き起こす
突風を正面から受けても、ビクともしないジェス
ジェス:「それがお前達の風か?」
ジェスのせせら笑いに、ひるむ風上の男達
ジェス:「風上なんて、楽なところにいるから、やわになっちまうんだぜ!」
空手のようなポーズを取るジェス
ジェス:「世界をくまなく巡る風よ!永遠の旅人達よ!」
こぶしを振りかぶる構えを取る
ジェス:「今一時、われの元に集結し、邪なるものを吹き飛ばしたまえ!」
拳を突き出すと、竜巻が起こり、風上のキャンプの男達を宙に巻き上げる
やがて地面に激しく叩きつけられるキャンプの男達
ジェス:「風下の力、思い知ったか」
倒された男達をなにやら物色しているベルタ
グレイス:「ベルタ、早くして」
ベルタ:「姉さん、これ」
男達から「風のブレスレット」を取り上げるベルタ
グレイス:「これって一族の宝じゃない。こんなの持ち出して、どうするつもりだったのあなたたち?」
答えられない男達
ジェス:「族長の娘と一族の宝を盾に、部族を乗っ取るつもりでもいたのか?」
動揺する男達
ジェス:「どうやらそんなつもりだったらしいな」
グレイス:「宛てが外れたみたいね。これはもらっていきます。あなたたちのやったことをバラされたくなかったら、もう私たちの後は追わない事ね」
再び走り出すジェス、グレイスそしてベルタ
ジェス(オフ):「まさかベルタが着いてくるとは思わなかったけどな」
グレイス(オフ):「あの子の方が自由になりたがっていたのは確かよ」
ジェス(オフ):「どうして?」
グレイス(オフ):「私は長女だから、まだ結婚相手を選ぶことはできたの。
だけどベルタは父からみたら、より強い男に子どもを産ませるための道具よ。
それを分かっていたからついて来たんじゃないかしら」
ジェス(オフ):「そりゃ、逃げたくもなるよな」
夜の平野をひた走るジェス、グレイスそしてベルタ
グレイス:「これからどうするの?」
ジェス:「海だ、海」
グレイス:「海?」
ジェス:「一族の誰も見たことないものを、俺たちの目で見に行こう!」
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。




