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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
風と水の回顧録(かいころく)
28/34

若き風は自由を求めて走り出す

前話に引き続き、ジェスとグレイス、そしてベルタの17年前の話が続きます。

【夜 丘陵地帯】 


【風上のキャンプ】


グレイスの寝所

なかなか寝付けないグレイスは起き上がって夜風に当たりに行く

月明かりがやけに()()()()()()

後ろから羽交い締め(はがいじめ)にされて、口をふさがれるグレイス

緊張で見開かれるグレイスの目



ジェス:「オレだよグレイス」

答えることができないグレイス

ジェス:「ここを出よう」

口を覆っていた手をほどいて、グレイスの正面に立つジェス

グレイス:「ここを出るって?」

ジェス:「オレが風下(かざしも)の人間で、グレイスが風上(かざかみ)の人間である限り、俺たちは一生離ればなれだ」

グレイス:「そうね」

ジェス:「風上でも風下もない場所に行こう。自由な風が吹く場所に、俺たちだけの風が吹く場所に行こう」

グレイス:「でも、集落を出て生きていける?」

ジェス:「なんとかなるさ。俺たちは自由な風じゃないか。それに」

グレイス:「それに?」

ジェス:「グレイスがいないとオレはダメなんだ」

しばし見つめ合う風下と風上の2人

グレイス:「ジェス、行きましょう」

(うな)くジェス

月明かりの下、走り出すジェスとグレイス




【丘陵地帯】


走るジェスとグレイス

立ちはだかるように2人の前に躍り出る人影

構えるジェスとグレイス

躍り出たのは、17年前の15歳のベルタ

姉と同じような右合わせの上着、スパッツに巻きスカート、やはり長い髪を編み込みにしている



グレイス:「ベルタ・・・」        

ベルタ:「どこへ行くの姉さん、こんな夜更けに」

グレイス:「わからないわ。少なくとも高貴(こうき)とは卑しい(いやしい)とかで人の価値を決めるような場所じゃないところよ」

ジェス:「止めても無駄だぜベルタ。悪いけど姉さんはオレと一緒に行く。俺たちは自由になるんだ」

答えないベルタ

グレイス:「止めに来たの?残念だけどキャンプには戻らないわ」

まだ答えないベルタ

ジェス:「さ、お前は帰って寝てろ。明日から姉さんはいなくなるけど、姉さんを(うら)むな。恨むならオレを恨め」



ベルタ:「私も行く」

グレイス:「ベルタ?」

ベルタ:「私も自由になる」

ジェス:「もう二度とキャンプには戻れなくなるかもしれないんだぜ?それでもいいのか」

答える代わりに頷くベルタ




【丘陵地帯】


月明かりの下、街道を走るジェス、グレイスそしてベルタ

いくつかの人影が躍り出る

風上の部族の男達が立ちはだかる

男達:「グレイス様、ベルタ様。おとなしくキャンプにお戻りください。あまり手荒なことはしたくないので」

ジェス:「手荒なことったあ、どんなことだ?」

男達:「こういうことだ!」



風上の男達は、拳を振るって、突風を巻き起こす

突風を正面から受けても、ビクともしないジェス

ジェス:「それがお前達の風か?」

ジェスのせせら笑いに、ひるむ風上の男達

ジェス:「風上なんて、楽なところにいるから、()()になっちまうんだぜ!」



空手のようなポーズを取るジェス    

ジェス:「世界をくまなく巡る風よ!永遠の旅人達よ!」

こぶしを振りかぶる構えを取る

ジェス:「今一時、われの元に集結し、(よこしま)なるものを吹き飛ばしたまえ!」

拳を突き出すと、竜巻が起こり、風上のキャンプの男達を宙に巻き上げる

やがて地面に激しく叩きつけられるキャンプの男達

ジェス:「風下の力、思い知ったか」



倒された男達をなにやら物色(ぶっしょく)しているベルタ

グレイス:「ベルタ、早くして」

ベルタ:「姉さん、これ」

男達から「風のブレスレット」を取り上げるベルタ

グレイス:「これって一族の宝じゃない。こんなの持ち出して、どうするつもりだったのあなたたち?」

答えられない男達

ジェス:「族長の娘と一族の宝を盾に、部族を乗っ取るつもりでもいたのか?」

動揺する男達

ジェス:「どうやらそんなつもりだったらしいな」

グレイス:「宛てが外れたみたいね。これはもらっていきます。あなたたちのやったことをバラされたくなかったら、もう私たちの後は追わない事ね」




再び走り出すジェス、グレイスそしてベルタ

ジェス(オフ):「まさかベルタが着いてくるとは思わなかったけどな」

グレイス(オフ):「あの子の方が自由になりたがっていたのは確かよ」

ジェス(オフ):「どうして?」

グレイス(オフ):「私は長女だから、まだ結婚相手を選ぶことはできたの。

 だけどベルタは父からみたら、より強い男に子どもを産ませるための道具よ。

 それを分かっていたからついて来たんじゃないかしら」

ジェス(オフ):「そりゃ、逃げたくもなるよな」



夜の平野をひた走るジェス、グレイスそしてベルタ

グレイス:「これからどうするの?」

ジェス:「海だ、海」

グレイス:「海?」

ジェス:「一族の誰も見たことないものを、俺たちの目で見に行こう!」

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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