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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
風と水の回顧録(かいころく)
27/34

5年前と、3日前と、17年前の記憶

ジェスとグレイスの、時系列的に言うと第一部が始まる前のお話になります。

【海上 環礁(かんしょう)入り口】


船乗り:「ジェス様、これ以上進むのは無理です。水位が上がりすぎています」

ジェス:「引き(しお)でもだめか?」

船乗り:「ええ。年々海水面があがっているのは、わかっていましたが、これほどまでとは」

ジェス:「ここで投錨するか。小舟を出してくれ。オレたちだけ上陸してくる」




【環礁の中 入り江】

        

ゆっくりと進むジェスとグレイスを乗せた小舟

グレイス「5年前はここまで入ってこれたわよね」

ジェス:「海に飲み込まれるのか?俺たちは・・・」





【環礁の中 砂浜】        


静かな砂浜に降りるジェスとグレイス

降り立った場所から一歩も動かず、顔を見合わせるジェスとグレイス

グレイス:「感じた?」

頷くジェス

ジェス:「ここにいた。ハイドだ。忘れるわけはない」

グレイス:「でも、ベルタの気配はないわね。ハイド以外の他の2人は・・・?」

しばらく砂浜を歩き回るジェス

ジェス:「もし、ベルタの部下が言った事が正しいとすれば・・・」

グレイス:「すれば?」

ジェス:「火の気配と鉄の匂い、ミランとフレイだろうな」

グレイス:「なんでハイドが今頃出てきて、ミランとフレイに手を貸してあげたのかしら?」

ジェス:「わからねえ」



グレイス:「ベルタの手前、あまり口に出したくなかったんだけど」

妻を見るジェス

グレイス:「ハイドが死んだなんて信じられなくてね。誰も死んだところは見てないし、難破(なんぱ)しても生きていられる可能性は充分あるじゃない。

だって流水の聖者なんだし。水を司る者がおぼれ死ぬなんておかしいもの」

ジェス:「オレだって信じちゃいねえさ。だけどアイツは帰ってこなかった。1人で海に行ったきり帰ってこなかった」

砂浜に寝転がるジェス

ジェス:「無理しているようにしか見えないからな」

グレイス:「無理って?」

ジェスの側に座るグレイス



ジェス:「ベルタだよ。流水の聖女になったのは、オレは無理しているとしか見えないけどな。

 青い海を守る。

 どこまでもどこまでも青い海を守り続けるって。

 オレだってしんどい時はあるさ。ヒューマやサーラ、あのオカマ野郎だって大変な時があるだろうよ。オレには無理しているように思うんだが流水の聖女は」

グレイス:「無理しているんでしょ」

ヒザを抱えるグレイス

グレイス:「無理を承知で流水の聖女なのよ、あの子」

妻の横顔を見上げるジェス




◆グレイスの語りを交えての回想

映像は港を出て行くベリッシモ号を1人で見送るベルタの後ろ姿



夕凪の海

砂浜に立つベルタの後ろ姿

波に洗われているサファイヤのアンクレット


グレイス:「だって大好きな人が急にいなくなったのよ。『いつまでも、いつまでも、俺たちの青い海を守っていこう』って。そんなこと言い残していなくなっちゃったら、その言葉にすがるしかないじゃない。

青い海を守っていくことが、大好きな人との絆なのよ。じゃないと、生きてなんていけないわ」

ジェス:「じゃあ、ベルタは水を司る者になったからこそ、生きているってことか?」

グレイス:「いつまでも青い海がベルタの前にあるなら、あの子の中でハイドは生き続けるわ」

ジェス:「ベルタのアンクレットは、生きる力か、足かせか・・・」

グレイス:「両方よ両方。

 あなただって太陽を昇らせる手助けをして、風の旅人になるって思っていたからこそ、あんな無茶ができたんでしょ。

 生きる助けにもなるし、プレッシャーにもなる。ベルタはプレッシャーの方が大きかったのかしら」

ジェス:「海は広いからな」

グレイス「(微笑)」

ジェス:「どうした?」

グレイス:「ハイドが言ったことがおかしくてね。

『海は陸より全然広いんだぜ、海の王者が世界の王者なんだ』って」

ジェス:「そうだな、たしかに海はデカイな」

グレイス:「初めて海を見たときのこと、覚えてる?」

ジェス:「忘れるかよ。ハイドと会ったのも初めて海を見た時だったな」




【夜 丘陵地帯】


◆テロップ  17年前




風下(かざしも)のキャンプ】


天幕だけの粗末な作りのテントがいくつも並んでいる

その天幕の中で親子がやりとりをしている

ジェスの父:「これ以上あの娘と交わるのはならんぞジェス!」

ジェス:「なにがいけないんだ親父!」

食ってかかるのは17年前の17歳のジェス

ジェスの父:「我らはたがいに覇権(はけん)を争っている部族同士。その娘と息子の逢い引きなどとんでもない」

ジェス:「いつまで覇権とかくだらねえこと言ってんだ!」

ジェスの父:「くだらないと思っているのはお前だけだ。今でこそ我らの部族は風下に追いやられているが、風上(かざかみ)に立つことが長年の悲願なのだ」

ジェス:「そんな風上とか部族とか、つまんねーこと言っているから、俺たち風の民はいつまで経っても粗末なテントしか持てないんじゃないか!もっと、まとまれば赤ん坊が死んだりしなくて済むだろうがよ!」

ジェスの父:「風上に立つことで全ての状況が良くなるのだ。良いかジェスイーノ、金輪際(こんりんざい)風上の娘と会うことはゆるさんぞ!」





【目印になりそうな大岩】


岩の下に座っている17年前の16歳のグレイス

右合わせの上着、スパッツに巻きスカート、ブーツといった部族の未婚の女性の服装

長い髪を幾重にも編み込みにしている



グレイスの父:「いつまで経ってもお前の相手はこないぞグレイス」

岩陰からのそりとグレイスの父が出てくる

グレイス:「お父様・・・」

グレイス:「情けない。風下の部族の男と逢い引き(あいびき)など、お前は私たちが高貴(こうき)な生まれということを忘れたのか?」

グレイス:「高貴って、彼は高貴じゃなくても立派な勇者よ」

グレイスの父:「そうとも、確かに勇者ではある、風下のな。いくら勇者であっても風下では台無しだ。彼は残念だが(いや)しい生まれだ」

グレイス:「卑しいって、ジェスだって風の民でしょ?私たち同じ風の民じゃないの?」

グレイスの父:「人の価値なんぞ生まれで決まる。お前とベルタは我が風上の部族の勇者と結婚し、より一層部族に繁栄をもたらさなくてはならない!黙って村に戻りなさい」

立ち去るグレイスの父

物言わぬグレイスの父の背中が、娘のあらゆる言葉を拒絶している


1人立ち尽くすグレイス

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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