森が教える過去
第三部【月の使徒の冒険】でセレンお姉さんが地下で見つけた過去のできこと
この回でも、前の世界のお話が少しだけ出てきます。
【先祖代々の森 ため池】
水門を開いたことで、少しだけ豊かになった水流
リエル:「ああ良かった」
ミラン:「リエル、これくらいなら大丈夫?」
リエル:「はい、充分過ぎると思います」
ハンドルを外すミラン
ミラン:「じゃあこれはリエルが持って帰って。そうすれば好きなときに開け閉めできるでしょう?」
リエルは水門のハンドルを受け取る
ミラン:「多分、開発で使う水を確保したいのね」
フレイ:「なんだいそれ?」
ミラン:「火を使って鉄を加工したりするには、火をおこすために燃やすもののほかに、冷やすものも必要なの。
そりゃ、自然に冷めるのを待つこともできるけど、それだと時間がかかるしね」
リエル:「そんなことのために水を・・・」
ミラン:「研究に没頭すると、いろいろ周りのことなんかがみえなくなっちゃうんだよね」
なんとなくしょんぼりする一行
ミラン:「この森を抜ければ帝都なのね」
リエル:「そうです」
ミラン:「行こっかフレイ、メタリオン」
フレイ:「道案内をありがとうリエル。ここから先は僕らだけで行くよ」
リエル:「しかし・・・」
ミラン:「ここから先は私の問題なの。あなたまで危険なことに首をつっこむことないわ」
リエル:「私も行きます」
フレイ:「リエル・・・」
リエル:「これは私たちの問題でもあるんです。先祖代々の土地を奪い返すという、だから」
フレイ:「危険だぞリエル」
リエル:「危険には慣れています」
にっこりと笑うリエル
リエル:「忘れたんですか?私は勇者なんですよ」
【先祖代々の森】
森の中を進む一行
森の地面に手を走らせるリエル
ミラン:「どうしたの?」
リエル:「おかしい。動物の足跡がほとんどない」
フレイ:「それがおかしいのかい?」
リエル:「この森は人の数よりも動物の数のほうが多かったんですが、まったく動物の気配がない」
顔を見合わせるミランとフレイ
リエル:「この森は私たちにとって大切な生活の場所であったと同時に聖地でもあったんです」
ミラン:「聖地?」
リエル:「はい、かつて世界のバランスを保っていた森の民エルフが住んでいたとされる聖地」
フレイ:「エルフ?森の民?」
リエル:「はい。森に住んで。水や緑を司っていたと言われています。様々な魔術に長けて、多くの知識を持ち、その命は永遠と言われています。森はそのエルフが住んでいた聖地なんです」
フレイ:「なんかミランやヒューマ達みたいだなエルフって」
ミラン:「でも、そんな話聞いたことないね」
リエル:「エルフが生きていた時代にはドラゴンが海を治め、ドワーフが山を治めていたそうです。御山にはドワーフがいて私たちに金属を加工する術を教えてくれたと伝わっています」
ミラン:「ドラゴンにドワーフって、昔話に出てきたものばかりじゃない」
フレイ:「昔話?」
ミラン:「お母さんが良く聞かせてくれたの。昔はエライエライドラゴンやドワーフが沢山いたんだって」
リエル:「私たちはドワーフやエルフから少しずつ知恵を授かって生かされていたとされています」
ミラン:「じゃあ人間は生かされていただけなんだ」
リエル:「私たち人間は欲が深いから、バランスを保つ者にはなれないと教えられてきました」
フレイ:「欲が深いって?」
リエル:「はい。人間の営みは忙しい。定まった命であるがゆえに生きている間に多くを求める。その欲の深さから司る者にはなれないと」
ミラン:「多くを求めるって?」
リエル:「朝陽を浴び、糧を得て日が沈むとともに一日が終わる。
生きるとは本来とても単純なものです。
しかし人はそれだけでは満足ができないのです」
ミラン:「なぜなんだろう?」
リエル:「これは長老の言葉なのですが、
『花は時がきたなら誰にも促されるわけでもなく花を咲かし、誰にも褒められることを求めることなく咲き誇り、誰にも褒められることなく時が来たら散っていく』これが人にはできない。
心がおだやかではないんですね」
フレイ:「心が穏やかでない?」
リエル:「人を好きになれば、その人のために生きようとする。財産があれば気になって仕方がない。何事もなく過ごすことができない」
ミラン:「でも、それが自然じゃないの?人を好きになればその人のことで頭がいっぱいになるのは?」
ミランの方をちら見するフレイ
リエル:「人にとっては自然な心の動きでも、自然にとっては不自然なのでしょうね」
フレイ:「そう言えば、冥府でセレンが言っていた。動物は必要以上に物を欲しがらない、でも人間は必要以上に物を欲しがる。それが人間が負う罪なんだって」
ミラン:「うーん。なんだか難しいね」
リエル:「そうです。長老の教えでも実践することをできた人は1人もいません。
長老の半分も生きていない私たちに理解できるはずもありません」
ミラン:「そうだ今は前に進もう!前進前進!」
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。




