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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
火と星の旅路
15/34

調停者の役目

【海上 朝】


寂れた村の沖合で、朝陽を浴びて停泊するベリッシモ号




【ベリッシモ号 賓客(ひんきゃく)室】


寝返りを打って目覚めるミラン

近くにフレイがいないことに気がついて飛び起きて賓客室を飛び出す



 

【ベリッシモ号 甲板】


舷側で釣り糸を垂れているハイド

ハイド:「おー起きたかお姫様」

ミラン:「おはよう船長。ねえフレイは?」

黙って寂れた村を指さすハイド

ミラン:「なんで帰ってこないの!」

ハイド:「だってお前さんがいったんだぜ、あのデカイ人に守ってもらうから大丈夫って」

ミラン:「ダメなの!フレイは私を守るって決まっているの!」



ハイド:「(爆笑)」

ミラン:「なに?何がおかしいの?」

ハイド:「お前さんみたいな自由で自分勝手なヤツはオレの他にはみたことねえや」

ミラン:「自分勝手って、船長もそうだったの?」

ハイド:「ああ、昔はもっと気ままだったさ。今も気ままだけどな。昔はオレみたいなのが沢山いたもんだがね」

ミラン:「今はいないの?」

ハイド:「ああ、明るくなってから減ったな」

ミラン:「明るくなってって、何が?」

ハイド:「太陽が出てからだよ」

ミラン:「太陽?」

ハイド:「明るくなる前は、右を向いても左を向いても自分が生きるのに精一杯。人のことなん構っていられないし、自分に迷惑がかからない限り、他人のことはどうでもよかった。そいつが何をしていてもな。

 ところが太陽が昇って平和になるとどうよ。『どう生きるか』なんてことを考えるようになる。清く正しくだとか、潔くだとかな。そんなのちゃんちゃらおかしいけどな」

ミラン:「おかしいの?」




ハイド:「あの村の連中を見ろよ。生きるのに精一杯だ。どう生きるかより、明日生きられるかが大問題なんだよ」

ミラン:「・・・・」

ハイド:「清く正しくだとか、そんなものは明日もなんの苦労もなく生きられる平和なヤツの考えることだ」

ミラン:「船長はどうなの?」

ハイド:「オレか?オレは自分に正直に生きるだけさ」

ミラン:「自分に正直?」

ハイド:「自分を偽ってまで生き残りたいとは思わないな。お前さんもそんな感じだ」

ミラン:「わたし?私は・・・」

答えに(きゅう)して朝陽を見るミラン

ハイド:「さ、村に行くぞ」




【寂れた村 広場】



乾いた地面に棒きれで地図を描いてあれこれ話をしているフレイとリエル

その様子を見てムッとするミラン

地図を踏みつけるミランのブーツ

見上げるフレイとリエル

不満な顔のミラン



フレイ:「おはようミラン。よく眠れた?」

ミラン:「フレイ、朝ご飯食べよう!」

地図を踏み消すミラン

フレイ:「おい、なにすんだよ!」

ミラン:「フレイ朝ご飯!」

フレイの手を取って引っぱるミラン




【寂れた村 広場】



出された質素な朝食にがっつくミラン

ミラン:「フレイ、食べたら出かけるから」

フレイ:「ミラン、このリエルに道案内を頼んだんだ」

ミラン:「どうして?」

フレイ:「どうしてって、ミランは帝都まで行けるの?道知っているのミラン?」

ミラン:「知らないけど、なんとかなるわよ」



フレイ:「聞いてくれミラン。帝都に行く途中に、ここに水を運んでいる谷川をせき止めている水門があるんだ。そこを解放してから帝都に行こう」

ミラン:「行かない。水門なんか知らない」

フレイ:「ミラン、道案内を頼むんだから」

ミラン:「私は頼んでない。それがフレイの調停者(ちょうていしゃ)ってことなの?私は知らないから」

フレイ:「聞いてくれよミラン!」

ミラン:「のどカラカラ!水ちょうだい」

さすがにムッとするフレイ。井戸の水をミランに渡す。



カップの中には砂混じりの水

フレイ:「水だよ。飲んで」

ミラン:「こんなの飲めないわよ!」

フレイ:「飲むんだミラン!」

無理矢理カップをミランの口に押しつけるフレイ

ミラン:「やめてよフレイ。こんな砂だらけの水なんて飲めないわよ!」



カップを強引にどけるミラン。乾いた地面に水が広がる

フレイ:「ミラン、この村の人たちに謝るんだ!」

ミラン:「私が?」

フレイ:「ここの人たちは帝都が水をせき止めてからこんな水しか飲めないんだ。

 砂だらけのじゃりじゃりした水でも、この村の人たちには大切な水なんだ。こんな水しか飲めない人たちのことを君はなんとも思わないのか!」

見たこともないフレイの剣幕に驚くミラン



フレイ:「ミラン、もっと素直になろうよ。人の痛みが分からないキミじゃないだろ?

 君たちが空の下で暮らせなかったように、彼らも今は水混じりの水しか飲めないんだ。そんなのおかしいとおもわないか?」

ミラン:「・・・思う」

フレイ:「じゃあ助けようよ。おいしい水が飲めるように協力しようよ」

ミラン:「でも・・・」

フレイ:「僕はリエルに、この村の人たちに協力する。それだけだよ」

ミラン:「フ、フレイ?」

フレイ:「そろそろ行こうリエル」

ミラン:「ま、待ってフレイ」

こぼした水をかき寄せるミラン。砂だらけの水を口に運びむせかえる

ミランの口元に差し出される、澄んだ水が入ったカップ

リエル:「どうぞ」

読了ありがとうございました。


今後もごひいきによろしくお願いします。

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