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母親と言う恋人【10】

 ……そして、気付いた。


 思えば、イリがオーナガ武器店にやって来てから以降……情勢は少しずつニイガ王家に傾いて来ていると言う事実に。


 イリが来る少し前までは、キリも武器屋のスタッフとしての仕事以外の仕事も結構やって来た。

 ……正直、イリには言いたい事ではないし、可能であれは自分の中にある秘密として、そのまま墓まで持って行きたいと言うのが、キリなりの本音でもある。


 そんなキリであったが……思えば、イリがオーナガ武器店にやって来たあの日を最後に、暗殺部隊としての仕事は一切行われていない。

 

 あたかもそれは……もう、必要がなくなったと言わんばかりに。


 その証拠に、マァサは王家の第一秘書へと昇格し……最近は、王宮へと通勤している。

 そして、ルシェンドが王として即位し、つい先日は戴冠式を行い……ニイガ駅前でお祝いのパレードが開催されていた程だ。


 まぁ、暗殺を恐れてか? それとも他の理由があったのか?

 パレードには、ルシェンド王が出て来る事はなかったのだが。


 しかしながら、それでもニイガ国民としては、一つの区切りとして大きく安堵したに違いない。

 革命派が政権を取ったにせよ、王家が政権を保持しようとも……結果として首都ニイガが戦地になる事が、これである程度まで回避される可能性が生まれたからだ。


 特に王家の政権に否定的な国民が少なかった……と言うのも多い。


 戦ってでも、政権を国民の手にするのだ!……って感じの国民は皆無に等しい状況だった。

 むしろ、王政で全く構わないから、戦争だけはマジ勘弁!……って思っている国民が大多数を占めており……パレードは、一種の戦争回避の象徴として、駅前で大盛り上がりを見せたのである。


 新政府か? 王権か?……の二つよりも、戦争が起こらないで済む! と言う部分が着眼点ではあった物の……逆に言うと、それだけ平和主義的な国民が多かったと言う訳である。


 誰だって戦争はしたくない。


 それは、国も時代も関係なく、全ての人間が願う事なのかも知れない。


 ……と、少し脱線してしまった所で、本文に戻ろう。


「キリも分かっているかも知れないが……俺の目的は、王家の存在にあった……ニイガ王家を存続し……革命派が起こす内乱を発生させる前に鎮圧させる事が、俺の目的だったんだよ」


「………」


「……で、俺の目的はこれで終わった……いや、正確に言うともう少しあるんだが、大体は終わったな? ニイガ王家はルシェンド王によって存続され、革命派はどんどん沈黙して行く。俺も早々遠くない内に、未来へと戻るんだよ……多分な」


 イリは依然として淡々とした口調のまま、キリへと答える。

 ただ、最後の台詞だけ、ビミョーな顔になってしまった。

 未来へと戻る事は確かだとは思うのだが……イリも、実際にいつ戻れるのか分かっていない。


 明日になるのか? 

 それとも明後日か?


 場合によっては、もっと長くて……来月とか、再来月になってしまう可能性だってある。

 いや、下手をすればもっと……。


 何はともあれ、正確に未来へと戻る日程が分からない為、イリもハッキリとした口調で声を吐き出す事が出来ないと言うのが実情だった。


「……一つ、聞いて良い?」


 しばらくして……キリはボソリと言う。


 陰鬱な表情だった。

 ショックが強過ぎて、どんな顔をして良いのか分からない……そんな表情をしている。


「……なんだ?」


 実際に、思考が追いつかなくなる内容であった為、キリの心情を察したイリは、努めて穏やかに声を返すと、


「……キイロって言うのは……その、イリの未来の彼女なの?」


「……あ〜」


 キリの言葉に、イリは思わず目を泳がせてしまった。


 ハッキリ言って、かなり痛い部分だった。

 可能なら、聞いて欲しくない内容だった。


 けれど、キリが一番聞きたい内容である事は、イリとしても承知している。


 何より、ここまで暴露(一部脚色あり)してしまったのなら、もう本当の事を話しても良いのではないか?


 こんな事を考えたイリは、


「キイロは俺の彼女じゃない……嫁だ」


「…………」


 キリが石化してしまう様な台詞を口にする。


 言ってから思った。

 ……もう少し、言葉を選ぶべきだったかな?……と。


 しかしながら、後悔は先に立たない。

 もう、そのまま真実を言うしか、他に選択肢など存在しなかった。


「もう、全部……素直に言うけどな? 俺にとってキイロは妻だ。それ以上でも以下でもない。ちょっと精神に疾患を持っている残念な嫁だが……気に食わない事があると、人を燃やしたり食事に毒を盛ったりする、とんでもない妻だが……それでも、一応はちゃんと愛すべき嫁として婚姻届を出して、結婚式もしている相手だ」


 厳密に言うと、結婚式の最中に、この時代へとやって来ていたのだが。

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