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母親と言う恋人【9】




          □□■■■




 太陽がゆっくりと東へと沈もうとしていた頃、イリとキリの二人は近所にある喫茶店へとやって来ていた。


「……ああ、そう言えばこの店は『まだ』あったんだったな? それに、マスターも『若い』し」


 喫茶店へと入ったイリは、何気なくこんな台詞を口にしながら周囲を見回していた。


 周囲に小人ウルズがやって来ると警戒していたのだ。

 厳密に言うのなら、小人ウルズが警告する様なら、行動を控えるか、一定の制限を掛けようと考えるイリがいたのだ。


 理由は、少し前に述べた通りである。

 完全に、未来人のイリが、過去の人間であるキリに、未来の出来事を口にしようとしていたからだ。


 どう考えても、これをやってしまったのなら、未来に多大なる影響が出てしまう事は避けられない。

 もちろん、イリも承知でやっている。

 そもそも、未来に影響がある事を知っていたからこそ、今の今までやらない様に我慢して来たのだ。


 所がどうだろう?

 小人ウルズは、一向に現れる気配がない。

 

 いつもなら、呼んでも居ないのに……何処からともなく現れる。

 そして、聞いてもいないのに、知りたくもない情報を勝手に言って来る……と、こうなる筈なのだが、


「……いないな?」


「……あのさ? イリ? さっきから誰か探しているみたいだけど……普通の人間は、天井を見上げても居ないと思うよ? 浮遊魔法レピテーションでも使っていると言うの?」


「……大体合ってる。そんな感じで、ふよふよ浮いているんだ」


「……はぁ?」


 しれっと言うイリの言葉に、キリはポカンとなってしまった。


 そこから眉を捩って答える。


「やっぱり……疲れてる?……うん、なんてかさ? 私も少し言い過ぎたし……もう怒ってないから、いつも通りのイリで構わないよ?」


 キリは苦笑する形で答えた。


 すると、イリは首を横に振りながら、


「いや……疲れてもいないし、至って健常だ……それに、キリも薄々気付いているんじゃないのか? だってそうだろう?『いつも通りのイリで構わない』って、それはおかしいだろ? 今の俺だって『いつも通りだ』しな?」


「そ、それは……そうかも……だけど……」


 否定して来たイリの言葉に、キリは思わず口籠った状態で、おずおずと声を返してみせた。


 程なくして、イリとキリの二人は、喫茶店の一室にあるカウンター席へと座った。


 テーブル席でも構わなかったのだが、存外混んでいた為、二人でテーブル席を使うのは少し気が引けたのだ。


「なるほど、ここも昔は繁盛してたんだなぁ……俺が知っているこことは『やっぱり違う』ぜ」


 カウンター席に座って間もなく、イリがわざとらしくキリの耳に聞こえる声で答える。


「……ねぇ、さっきから思ったんだけど……それって、さ? イリが知っている『ここ』って……未来って言う事なの?」


 そして、キリはイリの期待通りの質問をして来た。


 イリはニッ! っと笑みに変わる。


「もう、隠すのに疲れたんだ……つまり、そう言う事」


「………えぇと?」


 キリは惚けた。

 当然だった。

 どう考えたって、すぐに信じろと言うのは無理がある。


 そして、イリだって簡単に予測する事が出来る案件でもあった。


「俺は、今から三十年後……まぁ、俺からすればこっちが『三十年前』なんだけどな? ともかく、かなりの未来からやって来ている。ちょっと面倒臭い理由からな?」


 イリは笑みのまま答えた。


 実際に、面倒臭い出来事……と言うか、目的が発生してしまったのは、この時代にやって来てからだったが……そこは脚色していた。


 理由としては……結局、やっぱり全部を暴露する訳には行かなかったからだ。


 全てを暴露してしまえば、確実に未来が変わってしまう。

 そうなれば……なるべく未来に支障が出ない部分……最低限の支障で済む部分をピックアップして話す必要がある……そうと、イリは考えたのだ。


 もっとも……一番は、イリが未来人である事が、一番未来に大きな影響を及ぼす代物だとは思うのだが……そこは、イリ的に妥協していた。

 

 果たして『そこが一番妥協しちゃダメなトコ!』って感じのツッコミを喰らいそうな妥協を自分なりに見せていたイリは、再びキリへと淡々とした口調で声を吐き出して行った。


「もしかしたら、もう分かっているかも知れないが……俺はこの国と、この国に住む人間の為に未来からやって来た……キリだって少しは分かるだろう? このまま行けば、ニイガ王国はどうなってしまうか……って事ぐらいは」


「………」


 イリの言葉に、キリは無言だ。


 何も言えなかった。

 実際問題……確かに、この国は……いつ戦争になってもおかしくない情勢が続いていたからだ。

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