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母親と言う恋人【3】

 そうなると、話しは変わって来る。


 正直、自分とベタベタしたいと言う理由……それだけの為に、一時間も前から仕事を始めていると言う、キリの行動力にはちょっと驚く部分もあるのだが……裏を返せば、それだけイリを好きになっているからこそ可能にしている行動なのだ。


 逆に言うのなら、とっても健気な女の子……と表現する事だって出来る訳で。


 でも、ちょっとやり過ぎな気もする。


「そこまでして、俺に甘えたいのか? お前は?」


「……う」


 イリの問い掛けに、キリは口籠る。

 なんとなく、イリの顔が引いている様に見えたからだ。


 けれど、キリは言いたい。


「……だって、イリに抱き着いていると安心すると言うか……幸せなんだもん……しょうがない事だと思うんだよ……」


 目線をあさっての方向にし……頬を赤く染めながら答える。


 これが、びっくりする程愛しいから……イリとしては困る!


 当人はきっと……意識してやっている訳ではない。

 わざと可愛くなるポーズとかを考えて、自分なりにイリへと可愛い女をアピールしている物とは違う……天然の愛らしさがあった!


 ナチュラルに……かつ、自然体でこんな可愛い台詞を……挙句、仕草まで愛らしくやれてしまうのだから、イリの心情は複雑だった!

 もういっそ、このまま抱きしめても良いんじゃないのかな? てか、もうしばらくキリの彼氏で良いだろ? これ!……って感じの思考が、おのずとイリの脳味噌を支配していた。


 衝動的に抱き締めたくなる!


 つか、普通に抱き締めてた!


 ある意味、イリは本能に忠実だった!


「……ダメだ、それ。反則だぞ、キリ? お前、可愛い過ぎ」


 衝動的に抱き締めていたイリは、そっと耳元でキリへと呟いていた。

 

「そ〜ゆ〜イリも……反則だぞ? そんな事、言われたら幸せ過ぎて死んじゃう」


「そうか……死なれたら困るな? じゃあ、やめるか?」


「……いじわるだぁ……」


 笑みのまま戯ける口調で答えたイリに、キリもまたクスッ! っと、やんわりとした笑みを作り出して声を返す。


 二人の間に……なんとも名状し難い、甘い空間が生まれていた……と言う所で気付く。


 店の入り口付近で、ちょっと楽しそうな顔になってイリとキリの二人の様子をデバガメしているトミィとマグネの二人がいた事に。


「………」


 イリ、無言。


 道行く通行人に見られるのも気恥ずかしいが……身内にガン見されていると、更に気まずさが上乗せされてしまう。


「……あはは」


 他方のキリも笑っていた。

 やっぱり、キリにも恥ずかしいと言う気持ちはあったのだろう。

 笑い方が、完全に誤魔化し笑いのそれになっていた。


「……さて、そろそろ開店の時間かな?」


 程なくして、お茶を濁すかの様な態度でそそくさとイリから離れたキリが、武器屋の入り口から店舗の中へと早足で入って行く。


「そ、そうだな……」


 ワンテンポ置いて、イリもゆっくりと武器屋の中へと向かった。


「それにしても、本当に仲が良いよねぇ?……お二人さんは?」


 イリが店舗の中に入って来て間もなく……トミィは笑みのままイリへと答えた。

 きっと悪意はない。

 純粋に……キリの姉として、妹の彼氏に対して声を吐き出している。


 ただ、少し冷やかしが入っている様にも感じるのだが。


「否定はしませんよ? 俺も、キリは大事な存在だと思ってますから」


「おお、言うねぇ? イリ君もしっかりと恋愛を楽しんでいる訳だ! はははっ! これが青春かな?」


 既婚者の世帯持ちで、年齢が二十代のオッサンでも良いのなら、青春になるんじゃないのか?……なんぞと、イリは地味に嘯いた台詞を、胸中でのみ毒吐いた。

 流石に直接言える内容ではなかったので、実際に言う事はなかったが。


「キリは、さ? 末っ子だったからかな? ちょっと甘えん坊で、色々と抜けている所があるかも知れないけど……実は結構しっかり者でさ? やる事はきっちりやるって言うか……今回の事だって、自分の仕事はちゃんとあらかじめ終わらせてから、イリに甘えてる」


「そうだな?……うん、そこは俺も驚いた。最初は仕事をほっぽってやっている物だと思って、少し注意してやろうと思っていた『ちゃんと仕事しろ!』ってな?……だけど、仕事は仕事で、ちゃんとこなしてから甘えてる……逆に言うと、俺に甘える為なら、多少の浪費は苦にもならないって勢いだ……それだけ甘える事に妥協しないって言うか……なんか、そんな感じに見えた」


「あははは! そうそう! それだけ甘えん坊……って事だよ? これから大変だよ〜? 私もねぇ……子供の頃、キリに懐かれていた口でさ? もう、本当にあれこれと甘えられて、辟易してたんだから!」


 トミィは、カラカラと笑いながらもイリへと答える。


 そんなトミィの顔を、店の奥で少し睨む感じのキリがいたが……取り敢えず見なかった事にした。

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