第15話「検問の突破と5歳でギルドって」
「……ふぅ」
俺は村から歩き詰め、ようやくとある町の入り口に到着した。
ここまで、数匹の魔物にしか遭遇せず自分の運の良さに感謝する。
見てくれが小さな少年の為、青年の兵士が困り顔で呟く。
スラム出身なら流石に見分けがつくし、この町の子供であれば門番である彼等に分からない筈も無い。
「何がどうなってこんなとこにガキが一人で?」
「そりゃ商人の馬車が襲われて命からがらってとこだろ?そうじゃなきゃこんな小綺麗な格好してねぇよ。それとも一人で歩いてきたってか?無理だろゴブリンに殺されるだろ普通」
見た目が三十代の兵士が勝手な推論を話し出す。
俺はそれを黙って聞いていた。
(まぁ気持ちはわからんでもないな)
そうは思いつつも適当なストーリーを考える。
「流石にそこまで悲惨じゃないですよ。普通に村からきたんです。ゴブリンはマジックアイテムで避けてこれたんです」
その言葉に驚く兵士。
まぁ勿論嘘だが。
実力で来ました、盗賊は運よく会わなかったよなんて怪しすぎる為だ。
「そうなのか?まぁ村からなら身分をって訳にもいかないか。取り敢えず君の村の名前だけ教えてくれ。勿論君のような子供が悪さをするとは思ってないよ。それに全ての怪しいやつを調べるのも無理だし怪しいやつは全て入れない!!だと色々問題だからな」
俺が村の名前を答えると兵士は門を開けた。
このまま追い返してもそれこそ帰り道で何かに巻き込まれかねないし、まさかこの小さな少年を村まで送り届ける訳にもいくまい。
結局の所、後味の悪さを考えれば素直に通した方が楽だと感じたのであろう。
「まずはアリウスの町へようこそ。それと一応規則だからな。銅貨一枚を貰えるかな?大人だと銀貨一枚だね。まぁ貴族や領主、各種ギルドに登録済みの冒険者や商人は無料だけどね。主に外国の商人向けの関税さ」
つまりは王国領に来た帝国の商人向けの関税って事か。
もし帝国の商人がギルドに登録をしていても登録情報を調べればわかるもんな。
「勿論足りないなら君の持ち物で融通は効かせる。足りるかい?」
「大丈夫です、貯金がありますので」
俺はは大人しく銅貨一枚を払うのだった。
「それにしても、兵士さん。大人とは言え、銀貨一枚って高過ぎませんか?」
俺は思った疑問をそのまま口にする。
世間知らずを演じて情報収集するのも一つの手だし、軽く世間話の一つでもすれば兵士からの心証も少しは良くなるだろう。
まぁ、結局の所は普通に高いと思ったのが原因だけどね。
「あぁ。それは簡単さ、坊主。商人は商業ギルド冒険者は冒険者ギルドに所属する事で無料で通れるのは話したろ?お貴族様は例外で残るは一般人だ。村人等は冒険者の護衛を連れていたりや行商人の連れなら身分を調べて無料で通してるから銀貨を払うのは身分のしれない旅人か浮浪者だ」
「そして怪しかったらその者は通さないし、いちいち銀貨を要求されるからそれを避ける為に皆、どこかしらに所属するって訳さ」
「成程……そうしてギルドへの登録を促して、身分のしれない不審者を減らしているんですね!」
「へっ、坊主。物分かりがいいな。因みに商業ギルドや冒険者ギルドはまた個別に領主様に税金を払ってるから成り立つシステムなのさ。まぁ、坊主!観光かなんかは知らないが楽しんでけよ!」
「はいっ!」
こうして俺は何とか検問を突破したのであった……。
* * *
町に入ってからは、まず必要な物を揃えねばと張り切る。
「まずは……防具は付けてもどうせこの少年の体で一撃食らったら即終わりなので正直要らない。移動速度も落ちるしね。そうなると……マジックアイテムかな?素人でも扱えて利便性に富むやつね」
町行くお姉さんに声を掛ける。
「すみませんちょっとお尋ねしたいのですが……」
お姉さんをターゲットに聞き込みを開始する。
相手は5歳の子供だ、特に嫌な顔をせずに皆教えてくれる。
何人かの男がそれを羨ましそうに見ていたが。
そんなこんなで一軒のマジックアイテム屋に辿り着いたのであった。
「ふーむ迷いますね……」
マジックアイテム屋で商品を見ていると客は皆笑っていた。
まぁなんでこんな所にガキがと思っているのだろう。
「すいませんこれください」
俺が選んだのは投合用の短剣だった。
「おいおい坊主これは銀貨一枚をだぜ?買えんのか?」
店主は面倒臭そうに答える。
その言葉に無言で銀貨一枚を差し出す。
まぁぶっちゃけ子供どころか大人でも簡単に手を出せない価格ではあるな。
とても子供のお小遣いで工面は出来ない、二年間貯めた貯金を切り崩したからこそ買えるのだ。
村では両親が才能のある人物だった為に俺はある程度の特権があった。
だから魔法での村人の手助け、狩人達の魔物狩りへの同行、教会での回復魔法の行使等あらゆる方法で金を稼いだ。
村人からしても、雑に扱えば両親の言い付けで俺の魔法の恩恵が受けられなくなるかもしれないし、将来村から出ていったり帰って来なくなるかもしれない。
当時は本当に小さかったので、大人達も引け目があったと思うし行商人位でしか散発しない村人にとっては銅貨と言う格安で動く労働力は有り難みがあったのだろう。
まぁ、結局の所このマジックアイテムの短剣は冒険者向けの価格なのは明白だ。
一般人がこんな物を使いこなせる筈も無いし、需要も無い。
だが、冒険者にとっては垂涎物だ。
命を拾う可能性があるなら金額に意味は無く冒険者には欲しがる者も多い、だからこそこの金銭感覚が狂ってしまいそうな暴利な価格でも許されるのだ。
そんな事情を知っていた店主。
だからこそ店主は驚いていた、だがすぐに説明を始める……きっと商人の血が騒いだのだろう。
「そいつは投合の短剣だ。なんと投げてから標的に刺さると約5秒で戻って来るって優れもんだ。ただ大した威力はないし石ですら刺さらねぇ。ギルドの戦士なら別だがな。一応地面に刺さっても外しても戻って来るぞ」
「説明ありがとうございます」
他に目ぼしい物が無かったのですぐに購入し、満足した満足したはギルドに向かうのだった。
そして門番の兵士に聞いた通りに町を散策すると眼前には待ちに待ったギルドがあった……。
村を出てこの町に来た理由は一つ……俺は冒険者になりにきたのだ。
村の若者なら誰もが憧れる夢と冒険と栄光……ギルドにはそれら全てがあるのだ。
村に居た頃は散々その話を父親にせびったから詳しいつもりだ。
そもそも冒険者とは冒険者ギルドに所属する金で動く『何でも屋』の通称である。
ギルドでギルドカードを貰い冒険者となった者には一定の信頼がある。
荒事を求めるならスラムの者や傭兵を雇うべきなんだろうけど、冒険者は金次第で護衛、身辺調査、遠方へのメッセンジャーから薬草採取迄様々な仕事を請け負う者達だ。
だが、彼等の中には自己満足の為、失われた魔法の叡智を求める者、修行の一環、英雄としての栄誉等個人の事情で動いたりする者もいる。
国に仕える騎士と違って貴族に"変人の集まり"扱いされるのは一部、損得に縛られず幾ら高額な報酬を積んでも首を縦に振らない者もいる事に由来する。
因みにギルドは国営では無い。
様々な町にギルドは点在するのだが便利屋であり、町の治安を維持したりいざとなったら防衛も出来るので町人からは基本的に歓迎される。
……ランクが低い粗暴な冒険者が増えて治安が悪くなるのがたまに傷だが。
国がこんな組織の存在を許すのは幾つか理由がある。
一つ目は、ギルドの冒険者ランクはSランクが最高なのだが王国には『黒神』と言うSランク冒険者でも一捻りにしてしまう化け物がいるからだ。
会った事があるから分かるが、素人目から見ても化け物のオーラはひしひしと感じたのを思い出す。
『六神』と言う存在はおとぎ話にも出てくる上に五人は存命らしいので親の様な村人の子供のでも知っている。
まあ要するにギルドが暴走しても騎士と黒神がいれば容易に鎮圧可能って事らしい。
そして勿論このギルドにはSランク冒険者などいる筈も無い。
二つ目は国に表向きでは害より得の方が多いからだ。
ギルドは勝手に町の治安を守るしトラブルを解決するのがある意味仕事なので領主の負担が減り国への要請が減る。
それにギルドに頼れるとなれば領主のプライドがあるので国への要請をしないケースがあり、結果的に国の負担が減るのだ。
そしてギルドは領主にしっかりと税を納めているのでそこら辺の問題もない。
ギルドは基本的にどこかの勢力に付く事は無いし、結果的に利が優るのだ。
ギィィィィ………………。
「おおっ!!!」
夢にまでみたギルドの扉を開くとそこにはゲーム世界の様な光景が広がっていた。
俺はおもわず声をあげる。周り大人達はクスクスと笑っていた。
きっと物見遊山か田舎者と思われているのだろうが気にしない気にしない……。
俺の現在の所持金は先程の銅貨一枚を除いて金貨1枚銀貨3枚銅貨5枚だ。
村の子供が持つにしては多すぎる額だが、魔法を使って村人達に恩を売りコツコツと貯めてきた物だ。
ここまで貯金できたのも村の外でデュアルボアという猪のモンスターを倒したり回復魔法で村人や立ち寄った冒険者に治療を施していた為だ。それを一切の無駄遣いをせず貯めた形だ。
因みに銅貨10枚で銀貨そして金貨、白金貨、黄金金貨、王金貨とランクアップしていく。
上の方になる程俺みたいな一般人には縁がない。
ざわざわざわ………。
辺りからギルドの冒険者達の嘲笑が聞こえ出す。
俺の様子を見て思わず失笑しているのだろう。
「おいおい、ギルドはいつから子供の遊び場所になったんだよ!」
「クククッ……。ここはガキがくるとこじゃねぇぞ。ママの所に帰りな!!」
冒険者達は遠まわしに俺に様々な言葉をぶつける。
だが、俺は緊張もあってか気にする余裕はない。
暇潰しに見たラノベでよくみた光景だ。下手に返事をすると厄介ごとに巻き込まれるから無視一択である。
そもそもこちらから仕掛けない限りは五歳児に喧嘩を吹っ掛ける奴はいないだろう。
「すみません。ギルドの冒険者登録お願い致します」
それを聞いた冒険者は笑い出す、まるでラノベによくある光景の様に。
凄ーくテンプレでかつてこんなの実際無いだろと自分が笑った光景がそこにはあった。
まぁ、俺の見た目が子供だから冷静に考えたら当たり前なんだけれども。
受付嬢は困った顔で答える。
「申し訳ありませんが君の歳だと冒険者登録は受け付けられないんです。相応の実力が無いと登録は出来ないんです。……その、もしよろしければ実力を試す試験もありますが……」
ギルドの受付嬢は申し訳無さそうにそう告げる。
遠回しに諦めてくれと俺に諭しているのが容易に分かる。
それにしても、笑われても可笑しくない状況なのに受付嬢さんは親切だな。
子供だからかもしれないし、単純に教育が行き届いているだけかもしれない。
それに、俺はまだ冒険者未登録だからお客さんみたいな扱いなのかな?。
まぁ、受付嬢やギルドが贔屓にしている冒険者が荒くれ者みたいだったらギルドの評判が下がっても可笑しくないからね。
「分かりました。では試験お願い致します」
迷い無き俺の言葉にギルドは再びざわめく。
粋がった少年に同情の視線が向けられるが俺だって村では頑張って修業したんだら大丈夫な筈。
「そう……ですか。それでは、こちらにどうぞ」
困惑するギルドの受付嬢、冒険者達から溢れる嘲笑……。
それらを身に浴びつつ、俺はギルドの修練場へと案内されるのであった。