第11話「両手に花、魔法を放て」
「うーん。一応いくつか考えてみたんだけどさぁ。まずは夜には門番はいなくなるからそれから動くとか?」
「却下。夜は危険よ。モンスターが凶暴化して動きが活発になるのよ」
ヨミが即答する。
「もうひとつは説得かな?ヨミがいるしヨミのお父さんの許可があるとか言っとけば大丈夫でしょ?」
「まぁ現状だとそれが一番かしら。黒神の教えは常に強くあれだし言い訳としてはいいかもね」
「最後は強硬突破かな?勿論隙を突くとか言う名の無計画なんだけど」
「門番さんの隙なんてないよ……」
ミルの当然の指摘が飛ぶ。
隙が全く無い訳ではないが子供では出し抜けないと言う訳だ。
折衷案で説得に決まるのだった。
「すみませんー」
門番のグンタがこちらに顔を向ける。
「グンタさん。外に出たいのですが」
その言葉に門番のグンタは驚く。
「いやいやいや。勿論駄目だよ。確かゴールド君は魔法が使えるんだって?だとしてもこの先に通す訳には行かないな。君は子供なんだからな」
当然の答えだった。
「お父様から許可をとったわ」
ヨミがさっそくとばかりに作戦を実行する。
序盤から手詰まりで最終作戦なのだけれど……。
「本当かい?一応君の御父様に確認を取りたいんだけど……」
その言葉に全員が表情を曇らせる。彼らはまだ子供なのだ表情を隠し通す事ができない。
「夜になる前に帰ってきたいですし急いでるんですが?もし手続きに手間取ればそもそも外に出られなくなってしまいますので」
俺は苦し紛れの言い訳をする。
この村に滞在している時点でそんなに距離も無いし時間掛からない。
「っ!あぁもう!。……わかったよ。君達を信じよう。一応許可は取ってくるからそのつもりでね。」
万が一で責任を負いたく無かったのだろう、それとも俺が多少は信用があったのかな?。
何はともあれ、門番のグンタは渋々了承してくれた。
「わあ!!!」
目の前に広がる草原にミルは感動していた。
村は結界や簡単な囲いがあるので外が村からは見えづらいのだ。
「さて、早速行きましょうか」
ヨミは見慣れていたようだ。
ミルが目を煌めかせているのに対して淡々としている。
「ん?ゴールド、ミル。どうしたの?」
おっといけない、ぼっーとしていては日が暮れてしまいかねないな。
「で?どうする?僕もミルも村からは出たことがないしね」
ヨミに聞いた。
特に外に出て何をするのかなんて考えて無かったしね。
「あそこの森なんていいんじゃない?まぁ私もこの辺りに来るのは初めてだけどね」
ミルの心配そうな表情をよそに初めての冒険が幕を開けるのだった。
「ギャギャギャギャ!!!」
森を入ってすぐ、唐突な敵対生物とエンカウントする羽目になるとは……!?。
ゴブリンだ……生で見ると気持ち悪い……。
俺は初めて見る等身大のリアルな魔物に動揺を押さえきれないでいたが、下手をすると死に直面する……そんな事が脳裏にふと浮かびなかばパニックになりつつも詠唱する。
「火よ我が魔力に宿れ!!ファイア!!」
汚物は消毒と言わんばかりに眼前のゴブリンを焼き尽くす。
とは言え、灰になった訳ではなく焼身死体が出来上がっただけなんだけどね。
流石に初級魔法でも威力の低いファイアでは灰には出来ない。
魔物には魔物毎に対魔力耐性みたいな物があり、同じ動物型の魔物でも魔法の効き目が違ったりする。
単純に強敵には効きにくいって覚えておけば間違いは無さそうだ。
そもそも、あんまり火力を上げると森を燃やして火事になりかねないので化け物でも出てこない限りは力をセーブしてるんだけどね。
「勝った……?」
……兎も角、初めての魔物討伐はあっさりしていた。
まぁ剣術で叩ききってもいいのだが俺もミルもゴブリンのグロデスクな死体をみたら吐いてしまうだろう。
普通に殴り合うのは子供の筋力では攻撃力が期待できないのと反撃を貰う恐れがあるのもあるが。
相手が奇襲してこなかったのもあったが、こちらを警戒して構えててくれて助かった……。
ここはゲームの世界では無いのでゴブリンがいつまでも立ち止まってくれている筈も無かろうだし。
「大した事ないでしょ?」
ヨミは得意気だ。
「まぁ。大型モンスターに近付かないのとゴブリンの集団に近付かないのは徹底しよう。そうすれば大丈夫でしょ」
ヨミの得意気な表情につられて俺も若干気分が高揚してきた。
生物を殺した事による吐き気も確かにあったが、それはグッと堪えた。
……だが、慢心ともとれるこの油断が後々の後悔に繋がるとは誰も思わなかった。