卓兄と父との和解
「聖様、お聞きしても宜しいですか?」
茅場の突然の申し出に聖は驚く。
「私で答えられることなら、どうぞ」
「なぜ、卓は先代の頭首を見限ったのでしょうか? だって、それだけ仕事をしていたと言うことでしょう? 見限る理由が解りません。それよりも、褒めて宜しいのでは、ありませんか?」
「そうだな。父様は、母様が出て行った後は、仕事に集中した。けれど兄様に取っては面汚しも良いところだ。怒りが母様にいかなかったのは、それだけ本当にそれまで父様を敬愛していたんだ」
「敬愛故ですか?」
「そうだ? 敬愛しているからこそ、許せなかったんだ。兄様は、実際は分かっていたんだ。それでも許せないほど、初代篁家の頭首は兄様にとって、格別な存在だったんだ。お前なら分かるんじゃないか?」
「あいつは始めてあった時から、本当に真っ直ぐな奴でした」
「ああ、兄様は不正が嫌いで、昔から真っ直ぐな人だった」
「ええ」
「だから、昔、不正をした家人にも容赦がなかった。見ているこちらが、可哀想に成る程に。兄様の思いは複雑すぎるな」
「ええ、でもあいつらしい」
茅場は笑う。
「そうだな」
聖も含み笑いをする。
「彼は昔から、真っ直ぐな人間でしたからね」
「ああ。兄様が先代に思いを居れるのは理解できる。だが、今を生きている人が一番だ。そうは思わぬか?」
「そうですね」
「先代がいかに、尊敬出来ても、守るは昔の篁じゃない、今の篁だ」
「でも、難しいですね」
「その難しいのをやるのが、面白い」
聖は本当に面白そうに笑う。
「面白いですか? 聖様は?」
「ああ、こんなに面白いことは、ない。そうだろ?」
「それは、分かりませんが?」
困ったように、茅場は言う。
「まぁ、取り敢えず兄様との連携をどの様にやるかだな?」
「それは今後の卓の出方次第でしょうね」
「そうなんだよな。難しい」
聖がそう言った時、障子が突然開いた。
「何が、難しいって?」
「えっ? 兄様」
「卓?」
「茅場も聖も驚きすぎだ。賀茂家と土御門家との対決をやるためには、戻ってこないわけにはいかないだろう」
卓は当然のように言う。
「挨拶してくるよ。お前の父親に」
「ええ、どうぞ」
聖はにこやかに送り出す。しかし、茅場はそれに構えた。それに、聖は笑う。
「そんなに構えるな」
「しかし」
「兄様の中で父様はもう当主じゃない。だから、何もしないよ、もうな。兄様にとってもう、ただ尊敬すべき兄の様な人に戻っているはずだよ」
ちょっと疑心暗鬼になる茅場。
聖は笑う。
「信じられないかい?」
「申し訳ありません」
「いや、そうだろう」
と、聖は笑う。
「こう考えられないかい? もし仮に父様にしかけて来るなら、影からこっそり十二神将を発動しているはずだ。でも、兄様は、今回それをしかけてきていない。それどころか、この屋敷を守る様に配置しているよ」
「そうですね」
茅場は納得する。十二神将が配置されている場所を読み言う。
茅場も読む事が出来る。
「では、本当に卓は、もうあなたのお父様に危害を加える心配はないと言うことですか?」
「ああ、って言うより、兄様は当初、もうしかけたと思うぞ。でも、父様に仕掛けてたが相手にもならなかったと思う」
その聖の言葉に驚く茅場。
「そうでしょ? 兄様」
「ああ、悔しいことに相手にもならなかったよ」
笑って卓は、言う。
「叔父様は凄いよ」
「父様だからね。確かに式としては、父様は、目立った強い奴を持っているわけじゃないい。しかし、使い方は、誰より上手いよ」
「そうだな」
卓も頷く。
「あの人の式の使い方には、無駄がない」
「知ってますか? 十二天将と十二神将がなぜ、式に付かなかったかを?」
聖は笑う。茅場は不思議そうに聞く。だが、卓は、それだけで気付いたようだ。
「そうか、そう言う事か。さすが、叔父様」
「えっ? 如何言う事ですか?」
茅場はわからず聞く。
「式達は、付きたくなかったんだ。そんなに出来る人に」
「それって?」
「十二神将と十二天将はプライドが高いな。自分より明かに実力のある者には、仕えたくないんだとさ」
「それは誰の言葉で?」
茅場は驚いた様に聞く。
「白虎に教えてもらった」
「でも、何故?」
「あまりに強い奴だと己れの無力さを突きつけられている気がして、嫌だろう」
白虎が出てきて言う。
「だそうだ。本当にお前達はプライドが高い」
と、言って聖は笑う。卓は驚いた表情をする。
「うっせぇー。共に成長できるなら、その方が良いだろう?」
「言葉は良い様だな」
聖は笑う。
白虎はフンと鼻を鳴らす。
「だって、そうだろ。もう1人で出来上がってる奴に俺らがどう助けになる? 一緒に成長するのが楽しいんだろ?」
「そうかもな」
クスリと聖は笑う。
「だが、それだと、我々は十二天将と十二神将に嘗められた事になるなのかな? それとも、バカにされている?」
「さぁ、どちらでしょう? ただ、言える事は、式となった折には、絶対の忠誠をくれます。それで良いのては有りませんか?」
可笑しそうに聖は笑う。
「そうだな。叔父様は確かに式としての能力が十二天将や十二神将より劣る者を式としているが、納音は式としては、十二神将と十二天将に劣るが、式として30もいるからな。数の上では上だ」
「そうですね。それに父様が使えば、我々より間違いなく上です」
「そうだな。十二神将もそれか?」
「申し訳ありません」
摩尼羅が出てきて頭を下げる。
「いや、それで納得した。なぜ、お前たちが叔父様につかなかったのかを。ずっと、気になっていた。なぜ、お前たちがつかなかったのかを。叔父様には力がある。なのに、仕えようと思わない、何かが有るんだと。ずっと、不思議だった」
「でしょう?」
聖は笑う。
「ああ」
「でも、何故? 自分より力がない者に使えようなんて、思わないんじゃないんですか?」
「そうだな。だから、素質の無い者には、仕えようとは思わない。でも、将来を思い仕えるにたると思わせた者にのみ、彼等は仕える。それが、私たちだ。父様は、もう出来上がっていたからな」
「ああ、あれはもう出来上がりすぎていた。俺たちが本気になっても叶わないほどに。だが、奴も俺たちを本気で求めていなかった。自分で大抵何とか出来るからな。奴が本気で俺たちを式としたかったなら、従わざる終えなかっただろう? しかし、奴は俺達の思いを、まず、考えてくれた。だから、従えとは言わなかったよ。あいつから言われたのは、『お前達が仕えたいと思う者のタメに、その力を使え。もし、一緒に仕事をする事になったら、その時こそは力を貸してくれ』とだけな」
「さすが、叔父様。さてと、私も久し振りにご挨拶してくるよ」
そう言って、部屋を出て行く。
向かったのは聖の父の部屋。
障子の向こうから中に声をかけると、
「中から、声がかかる。
「入れ」
誰だか確認しないことを思うと、卓が来たことも知っているようだ。苦笑いをしつつ、卓は中に足を踏み入れる。
「ご無沙汰しておりました。お久しぶりです。叔父様」
「久し振りだな、卓。もう心の整理は出来たのか?」
「叔父様何を?」
「あの頃、お前から漂ってくる気配は尋常じゃなかった。いつ殺されるかと肝を冷やしたぞ」
「涼しい顔をしていましたが?」
「いつも、ビクビクしていた」
笑って言う。
「済まない。お前の尊敬する初代篁の頭首の名を汚した。誤って済むものじゃないが許せ」
頭を下げる啓。それに卓は困った顔をする。
「まいったな。啓さん、それズルいですよ。そんな風に頭を下げられたら、私は、もう何も言えない」
「そうか?」
と、言って笑う。
「当分の間、お世話になります」
「ああ、宜しくな。これは、篁家に売られた喧嘩だ。それに、負けるわけにはいかない」
「はい」
卓も「はい」っと返事をした。
「賀茂家と土御門家と今の時代に時代錯誤だが、この喧嘩から、逃げるわけいかない」
「はい」と力強く頷いたのだった。
その時、部屋の外から声を掛けられる。
「宜しいですか?」
「良いぞ」
それは、聖だった。
「失礼します」
室の外で佇むのは、茅場だった。
「あいつもいれてやれ」
父がそう言う。聖が笑って言う。
「私もそう言ったのですが、どうやら彼は卓兄と口を交わすのが、怖いらしい」
それに、卓は笑う。
「遠慮する間柄でもないだろうに。それに、お前に作文を渡したと時、凄い勢いで怒鳴られたぞ」
「それがあるから、怖いのでしょう。でも、もう少しすると、もっと近くなります」
「ふ~ん」
それで卓は悟る。
「で、これからどうする?」
卓は、聖に聞く。
「父様は奥さんと響ちゃんを守って下さい」
「兄様と茅場は、これから修業だ」
「そんなにやらなくても、十二天将と十二神将を式として持つ我らの敵では、あるまい?」
卓がそう言うと、聖はゆっくり首を振る。
「そう言ってられれば、良いのですが、茅場の小耳に挟んだ情報を突き合わせると、そうも言っていられないようですよ」
「どう言う事だ?」
啓が聞く。
「時代の変化と言えば良いのでしょうか? 異国の幻獣達が式になり、篁家を狙っていると」
「何故?」
「歴史があるからでしょうね」
「そんな事で目を付けられても、迷惑だよな」
卓が言う。
「ええ、本当に。彼らに対抗するためにも、修業あるのみです」
「面倒くせぇ~」
卓の言葉に聖も頷く。
「本当に、日本では大人しくしていてくれれば、言う事無いですけどね。その式を、使っているのが日本人ですから、文句は言えませんね」
聖は深々と溜め息をつく。
「同じ日本人として、私は恥ずかしく思う。異国の幻獣を式として使うなんて。そんなこと本来けして許される訳が無い。こうなったら、異国の幻獣達ではなく、それを操ている人間を攻撃する。彼らに罪は無いからな。彼らを解放してやるぞ」
「そうですね」
茅場も納得する。




