苦いようなしょっぱい気持ち。
「【モンショウイン】か…たしかに、一般人には知られていないものだったな…」
オーリットさんはそう言うと、ちらりと私を見る。
「……いっぱん、じん…」
ポツリとつぶやくその声は、そのじっと私を観察するような眼はなんなんだろうか。
私のような一般人は、どこを探しても居ると思います。だからそんなふうに見ないでほしい。やましいことはないので、「なーに?」とでも言うように、視線はオーリケットさんから逸らさない。
逸らさないったら、逸らさない。
私にはちょっと長かったようにも感じる、考えるような、そんなしぐさも一瞬だけで、すぐに元のちょっと冷たいような表情に戻し、オーリケットさんは良く見えるように指輪を摘まんで見せてくれた。
普通は宝石とかがはまっている所には、ガラスの中に鶏っぽい片足立ちの鳥が四葉のクローバーを咥えている様な模様が描かれた物がはまっている。
実際描かれている鳥が鶏かどうかは、私にはわからない。
だってその鶏、角が描かれているように見えるから。しかも、一角獣とかのじゃなくて、羊みたいなグルッと巻いている角の方。横向きに描かれているから、角が一本とは限らないし…なんて、書かれている動物が何かを推測しつつ、オーリケットさんに話に耳を傾ける。
「貴族どもがその家を象徴する“モノ”を象り、それぞれ掲げているだろう?
あれを【モンショウ】というのだが、その家の当主が…まぁ、手紙を書いた時などに、本人が書いたと証明するためのサインとは別に、【モンショウ】を描き込むことでその信憑性を保証するんだ。
だが、この指輪を見ればわかるように、【モンショウ】なんてものは簡単に模写できないように細かく書かれているし、これをいちいち手書きで描きこむと時間が掛かる。
そういった時に使うのがこの【モンショウイン】だ」
そういうと、オーリケットさんは、指輪の台座部分に指をかけて、蓋を開けるようにパカッと割る。そこにあったのは、ガラスの中に描かれていたのが逆向きに黒い台に浮き彫りに彫られている。
それはまるで、アレによく似ている。日常生活で時々見かけるようなものだ。
オーリケットさんが、その【モンショウ】が彫られている面を自分の手に押し付ける。
「さすがにインクは無いから良く分からないだろうが…まぁ、こんなふうにして紙に押すものだな」
「・・・おぉ」
オーリケットさんが指輪を押し付けた手のひらには、ガラスの中に描かれていた…たぶん、紋章たど思う鳥の絵と同じ様な模様が痕のように残った。
そして私は確信する。
間違いない。これは、アレだ。
お届け物とかにも良く使うヤツ。
ハンコだ、と。
つまり、【紋章印】という字をあてるような、ちょっと厄介そうな気がする貴族専用の指輪型ハンコが、不思議ルービックキューブから出てきたわけだ。
しかも、一面の色をそろえたことで、その面が蓋のように開いた。
このことから導き出されるものは……。
「…ツクシロ」
「…なんでしょうか」
ぽん、と手が肩に置かれる。
「休憩まで、まだ時間はある…」
すっと、肩に置かれてない方の手が、荷台に転がったままのルービックキューブを指差し。
「再開しようか?」
とても良い笑顔で作業の再開を告げるオーリケットさんに、私は苦いようなしょっぱいような表情で返したが、その意図は軽く無視される。がっしりつかまれた肩を押され、さっきまで座っていた定位置へ戻ると、オーリケットさんにルービックキューブを渡される。
残りあと、5面。先はまだ長い。




