出てきたものは。
2人して狭い荷台を走り、コロコロ転がる小さなものをようやく捕まえたのは、私だった。
床にバチンっと手で叩き潰すような形で捕まえたのだが、手は痛いしオーリケットさんの何とも言えない表情で見られるし・・・。
何とも言い難い雰囲気の中、そっと手元に視線を戻した私は、それには気が付かなかったことにした。
私と一緒に転がる物体を追いかけていたアッリオは、手の中の物が気になるのか、私の手をちょんちょんと前足で突くように叩いてくる。
それが普通にかわいいと思うと同時に、ささくれかけた私の心を癒してくれた。
いつまでもその体勢でいるわけにもいかないので、押さえつけた物をまた転がさないようにそっと手をどける。
押さえつける前に見たのは、キラッと光る銀色の丸い輪っか。押さえつけたときに感じたのは、なんだか大きめの固い感触。
後、ちょっと冷たいような?
それも私の体温が移ったのか、すぐにわからなくなって、硬い感触のみが残っている。
あれだ、指輪みたいなもの。
というか、多分指輪だ。間違いない、はず?
その予想は見事に当たり、私が手をどけた先にあったのは、銀色の指輪だった。
拾ってみれば、本来石が付いているだろう所に、なんだか凝った模様のような、紋章みたいなものが彫られているゴツイ指輪。
「これは・・・」
いつの間にか、私の隣にいたオーリケットさんが、とても驚いた表情で私の手元を覗き込みながらつぶやいた。
その様子からすると、ただの指輪ではなさそうである。
こうやって思うが何度目か分からないけど、「どうしよう、捨てたい」という気持ちがむくむく育ってきた。
だが、その思いは別の形で叶えられる。
なんだか、人の事を安全装置とか坑道のカナリア的扱いをしていたオーリケットさんが、その私の手から問題の指輪を持っていったからだ。
これにはちょっと、ほっとした半面、安全性が確認できたからかもしれないと言うカナリア説的な疑心もこみ上げる。
大人って汚い。
むしろ、オーリケットさんがちゃっかりしているのかもしれないけど。
「ただの指輪に見えますが?」
違うのでしょうか?と含ませて訊ねてみます。答えられなかったり、誤魔化したりすれば間違いなく厄介ごとなのでスルーする方向で逃げ道を確保しときます。
これは汚くないです。身の安全を確保するのは人として当然・・・であると、おもう。うん。
私の問いかけに、オーリケットさんは手の中の指輪・・・というか、紋章の方を食い入るように見ていた視線を上げて私を見る。
「・・・これは、“モンショウイン”だ」
「モンショーイン?」
こうやって、時々わからない言葉が出てくる。その都度、ここが知らない世界だということを実感させられる。周りの景色は緑が多くて、テレビでもよく見る光景ではあるから、そこまで強く思わないけど。
でも、言葉が通じてるのに、その意味が分からなくて、でも周りでは当たり前の事として取られると、どうしていいか分からなくなる。
とても、寂しい?
ちがう。
これは、疎外感。
【私】と【彼ら】との
【見えない壁】
とまぁ、シリアスは置いといて。
「モンショーインってなんですか?」
驚愕っというような表情をしているので、素直に聞く事にした。
だって、当たり前の事だったらここまで驚かないだろうし?