1.
翌日、わたくしはカトリーン王妃に呼ばれ、王城へと向かいました。
「エリザベートお嬢様、顔色がよろしくないようです……。登城せず、帰りませんか?」
わたくしを心配してくれる侍女のヤスミンは、王妃からの呼び出しを断れないのを知っているのにそんなことを言います。
「ヤスミン、大丈夫よ。少し寝不足なだけ。帰ろうだなんて、外に出たら言っては駄目よ」
昨日のことを聞き、ヤスミンはカトリーン王妃に不満があるのでしょう。さらっと言ってはいけない言葉を吐き出してしまいそうなので釘を刺しておかなければなりません。
「お嬢様……。目の下の隈が、隠せていません」
「……」
彼女ははっきりと物申す人で裏表がないのですが、たまには何も言わずフォローして欲しいところね。
とは言え、本日は明るい気分ではないのだと言う思いを灰色のドレスに込めました。余計に顔色が悪く見えてしまったのかもしれないわ。
馬車の窓から外を見ると、着実に王城に近づいているのが嫌でもわかります。堅牢な作りのその佇まいは、外から来るものを拒んでいるかのようにも見え、思わず目を細めて見てしまいました。
「行きたく、ありませんわ……」
思わず、本音を零してしまいました。
「では、帰りましょう」
ヤスミンは連れてくるべきではなかったようですね。
「お黙りなさい。不敬で捕らわれても助けませんよ」
灸を据える言葉ですが、代弁してくれてわたくしの心は少し軽くなったので、声音は驚くほど優しくなった。
「お嬢様が言えない分、私が言ってあげるんですよ。今だけなら、いいですよね」
ああ――。ヤスミンは本当に困った侍女です。
なんでもお見通しなのですから。
リヒシュ公国の王城は大きくありません。公家のお住いの離宮も庭を挟んですぐのところにございます。
正門を通らず、庭へ逸れて離宮を目指す道すがら、お庭の花々を眺めておりました。たった数分で着いてしまうところを、できるだけ時間をかけて――。
そもそも、リヒシュ公国は土地も小さく、山間部が多いのです。人口もまだ1万人を超えるかどうか。財政も困窮はしていませんが、天災がおこればどうなるか……といったところでしょうか。
ですから、手入れは行き届いていてもとても質素なお庭です。時間をここでつぶすことすら叶いません。
「はあ……」
庭の東屋に目を移した際、思わずため息が漏れてしまいました。
フランクリン王子とアイシャ様がとても仲睦まじくお茶を楽しまれている様子を目にしてしまいましたから――。
「何も、こんなところで……」
顔を小さくしかめ、毒を吐きそうになりました。
あら、いけませんわ。わたくしが不敬で捕らわれてしまいますわね。ですが、案内してくださっている騎士様も舌打ちしておりますし、今回は問題なさそうですわね。
ふうっと小さく息を吐き、離宮へと視線を戻した。
彼らと関わらなくてもいいように、カトリーン王妃にお願いをしなくてはならないのです。弱気でいてはいけませんわ。
何としても、フランクリン王子と婚約を解消したいのですから。
わたくし、少し背中が丸くなっていたようです。
戦う前からこれではいけませんね。
歩みを止め、大きく息を吸い、背筋を伸ばします。
――わたくしは、まだ諦めたくありません。




