15 初めての...
俺の首を正確に狙った横凪ぎの一閃により、視界の右半分を覆っていた森は焼土と化していた。
「つるっぱげだな、畜生め」
そんな光景を目の当たりにして、俺は冗談めかして愚痴を吐く。
間一髪... もし右折を選んでいれば、俺たちは先ほどまで鬱蒼と茂っていた森の木々と同じ末路をたどっていただろう。
とは言え、余波を真横からくらった俺達二人と一匹もただでは済んでいない。ネムは気絶しているし、バルス号も泡を吹いて横転。俺の方も、受け身は取れたがネムを庇って体のあちこちが軋んでいる。
そして案の定、下手人である少女聖騎士は悠々とした足取りで俺たちの前に姿を見せた。
「汝... 【正義】の名の元に、自らの罪を告解せよ」
十字剣を掲げ、身元を隠す気などないと言わんばかりに言葉を紡ぐ少女。何らかの魔術効果か、その小柄な身体を照らす後光が生じており、俺自身にも魔術による干渉があった。
はたから見れば神話のワンシーンのように絵になる光景なのだろうが、その問いを投げかけられる俺としてはたまったもんじゃない。
なぜ攻撃された? 急ぎ過ぎたからか? それとも何かしらの魔術?
.....光神教が有する【奇蹟】と呼ばれる魔術には、現代魔術では成し得ない抽象的な魔術効果を生み出すモノもあると聞く。
曰く、未来を覗き、悪しき心を読み、祝福を与えるだとか。術理という骨子を必要とするこの世界の魔術を会得している者として、その歌い文句は胡散臭いことこの上ない。しかし、火のない所に煙は立たぬということわざもある。
最悪の場合、その昔に俺が聖騎士殺しに手を染めたことが露呈する可能性もあるが....
場を沈黙が支配する中、俺は身動き一つせずに目の前の聖騎士と目を合わせる。
........よし。取り敢えず、心を読まれている線は無さそうだな。
「.......」
「今ならまだ引き返せます。これ以上の行いは国家間の争いに発展しかねません。私はこれでも貴族の血を引く者....
そんな必死の説得もむなしく、少女は一方的な最後通牒のみを口にした。
「咎人よ、神託は下った。選べ.... 己が正義を勝利を以て証明するか、我らが神の審判により真実を白日の下に晒すか」
........【神託】ねぇ。
直訳すれば神からのお告げ。魔術的に解釈すれば、罪となる行為を行った対象を判別するとか?
いや、あり得ない。それは魔術ではなく魔法の領域だ。
もっと現実的に類推すると... 魔術的な組織関係にある存在を害した場合、その組織全体に加害者が共有される。ありていに言えば、ブラックリスト入りしてしまうとか。
在り得るな。むしろしっくりくる。帝国の貴族名鑑を管理する侯爵家も同じような魔術を代々継承していると言うし、帝国に並ぶ列強国たる教国が同じような術を聖騎士にかけていても不思議じゃない。
それになにより、身に覚えがある。
「つっても、お手上げだよなぁ....」
そして、選べと言われた選択肢... 言い方はまどろっこしいが、簡単に言えば戦って死ぬか、奇蹟によって嘘を見破られて断罪されるか。そのどちらかを選べと言っているのだろう。
教国は決闘を神聖視し、神の名の元に行われる闘争においては真実を口にするものが負けることはない... そんなアホみたいな教義をもって、争いを聖戦や決闘という形で正当化する。つまりは、「正義は勝つ」を本気で信じ、実践しているのだ。
いや。いやいやいや、こんな森をはげ山に出来る奴とタイマン張るとか...
「ないわー」
それに、初手の一発で戦闘不能にしといてから「戦いますか? 死にますか?」ってさ。選ばせる気ないよね。
必然的にもう一つの選択肢.... 【奇蹟】を受け入れて自らの潔白を証明しろと。やはり嘘を看破する魔術か。
......だが、それならまだやりようがあるな。
多分こいつは【神託】とやらの術理を理解していない。知っていればこんな問答をせずとも即座に俺を斬っていたはずだ。
そこに、俺が付け入る隙がある。
「あー 後者で」
『では、受け入れよ【奇蹟・白日の御前】』
まるで鎖によって雁字搦めにされたかのような閉塞感が俺を縛る。
件の誓約魔術にも近しい感覚だ。とは言え、抵抗ならば余裕だが欺けるほど似通ってもいない。やはりここは口八丁しかないか。
「...私は、光神教の教義に理解がある。ゆえに、自分がその教えに背く行いを働いていないと断言する」
「.....続けて」
俺の言葉に嘘が含まれていないことを知った少女は、その表情に陰りを見せる。
そう。俺はかつて、一人の性根の腐った聖騎士モドキをぶっ殺した。つまり、俺は勝利したのだ。
そして教義曰く、神聖なる決闘において善なる者は必勝を得る。「天道は親無し、常に善人に与す」と。
つまり、勝てば正義なのだ。
万国共通とされる決闘の礼式は「初めに互いの真名と主張を宣誓し、それを賭けて己の力のみを用いて行われる生命を賭けた闘争」。つまりはタイマンの殺し合い。そして、前提条件は満たされている。その時点で「己が正義を勝利を以て証明する」という言葉の通り、俺の咎は勝利によって正当化された。
正義の方程式が完成しちまったなぁ!
ま、最初の質問だった「罪を吐け」から、「教義に背いていない」という別の事柄に話をすり替えただけだけど。
俺の知る限り、光神教の教義が書かれた聖書は「善人の教科書」とでも言うべき代物だ。それに背いていないということは、即ちその者が善人である証明になる。しかし、その者が【神託】によって咎人とされたら?
「善人であること」と「【神託】に登録されること」が同時に起こりえるという点に、【神託】の術理を知らないコイツは気づけない。ま、正義に準ずるか、神託に従うか。コイツがどちらを選択するかは賭けだがな。
で、ここからは最後の仕上げだ。
脳裏によぎる心当たりは気にも留めず、あくまでも一軍人として己が行ってきた殺戮を指摘されたのだと。そう考える「俺」が言うなら... こんなセリフだろうか?
「俺は確かに手を汚してきた。しかし、それは貴族であり軍人だからこそだ。恥じることは何もないし、それを罪だと咎められる筋合いはない!」
俺は毅然とした態度で、まったく見当違いなクサいセリフを言い切った俺。まったく、貴族から役者にジョブチェンジしても食っていけそうだな。と、そんなことを考えていると、少女騎士は掲げていた十字剣を下す。
さて、判定は.....
沈黙が場を支配する。どうした? まさかバレた?
.....確かに、バカの考えた理論武装だしな。だが、賭けとしては悪くないはず。
コイツの使う【奇蹟】が悪意や詭弁を見抜くタイプであればアウトだろう。しかし、純粋に嘘を看破するタイプであればダウトで済む。疑わしいだけで決定的な証拠にはならない。
これまで俺が話したことも、陳腐な言葉遊びに過ぎないが純度100%の真実だ。とはいえ、この屁理屈が通じなければ.... 最悪だな。徹底抗戦まで視野に入ってくる。
勝ち筋はあるが、それは本当に最終手段としたい。勝てはするだろうが、その後の後始末やら何やら.... 考えたくもないことのオンパレードだし。
そして、長い沈黙は少女の一言によって破られる。
「誰よりも正義の徒でなければならない私としたことが.... くッ、殺してください!」
「........マジか」
異世界で初めてのくっころがロリっ子とは.... まったく予想外だ。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応




